本書の試みは非常に意欲的であり野心的でもある。野心的というには幾つかの理由がある。
例えば「日本語」として文字を表記する際に使われる、あの「漢字」というものが、日本語で綴られる文章の中でどの様に意識されていたか、などとの問題に対し、漢文体で記された『書紀』が「講書」の時には徹底した和語で読まれていたなどとの事例に着目する。
漢文で書かれた『書紀』を実際に和語ではどう読んでいたか。それに手掛かりを与えるのは辞書や参考文献の仕事である。現代ならば大漢和のような字形ら語義そして出典を網羅した大部のものもあるが、そこに記されている「事例」は全て四書五経といった中国の古典籍による。
その講書の時のメモとして遺されたのが『日本書紀私記』であり、それは鎌倉時代の『釈日本紀』に引用される形で現在に伝わる。ここで大事な問題は「講書」での文章の読み方にあり、それは単純に漢文訓読の作業ではないことを意味し、「漢字→和訓」といった形のベクトルに支えられた日本語の世界像を炙り出していく。
こうした「文字で綴られた言葉の世界」が奈良末期から平安期を経て「かな文」の歩界へと変化していくと一般には言われるが、実際にはキャラクターとして使用されている優先順位と成立時期の視点から3つの類型区分が可能との見解が「第Ⅱ部-読み書きの変容」で提示され、それぞれ①「カタカナ交じり漢字文」②「漢字・カタカナ交じり文」③「漢字交じりカタカナ文」である。
だがここで注目したいのは、『方丈記』と『愚管抄』の扱いにある。『方丈記』が現在の中世史研究で「史書」としての再評価を浴びていることもあるが、隠遁生活を営んでいた風来坊である鴨長明が「なぜカタカナ・漢字交じり文」であの作品を記したのかとの疑問は『愚管抄』においても同様である。
古文書学ならば、それを様式論の側面から検証しもする。武家の文書様式は公家のそれから派生したものであり、しかも自身では書かないとの点まで同じであるが、新興勢力である武家に本格的な漢文を難な書けるほどの識字能力があったとはいえもしない。それは現存する地下文書を見ても明らかで、誤字や宛て字などは日常茶飯事でデタラメ字さえ作りもする。
そうした「記すこと」とその具体的な手法よりも、その背景にある意識に焦点を当てたのが本書の持つ特色ともいえ、慈円が「かな・カタカナ(カタカンナ)」とは書かずに「假名」と記している点に注目する部分に表れてもいる。
「かな・カナ」が「假名」であるのは、それが仮のものであるとの意識を反映したものであるとの指摘は、文字を媒介として人間の足跡や意識を探ろうとする全ての学問にとって、足下にある陥穽だったともいえよう。
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古典日本語の世界 二―文字とことばのダイナミクス 単行本 – 2011/6/1
東京大学教養学部国文漢文学部会
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文字とことばのダイナミクス
- ISBN-104130830570
- ISBN-13978-4130830577
- 出版社東京大学出版会
- 発売日2011/6/1
- 言語日本語
- 本の長さ264ページ
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登録情報
- 出版社 : 東京大学出版会 (2011/6/1)
- 発売日 : 2011/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 264ページ
- ISBN-10 : 4130830570
- ISBN-13 : 978-4130830577
- Amazon 売れ筋ランキング: - 706,255位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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