浪花節の歴史を知るには非常に面白い本である。浪花節が蔑まれた出自的
理由、浪花節が大流行した社会的背景などを知ることができ、一気に浪花
節の社会的位置を理解できた。浪花節は「大東亜戦争」とともにあったと
いう著者の主張は納得できる。
しかし「天皇を親とする<日本人>の民族意識を形作ったのは、浪花節芸人
の発する<声>だった」とするのは買いかぶり過ぎだろう(むしろそうだと
浪花節ファンとしては嬉しいが)。そのような根拠は本書にも示されない。
思わせぶりに論は進むが、示されるのは日本の国民国家形成時の大衆が浪
花節を好んだという事実(相関)だけである。相関と因果関係を混同して
はならない。むしろ国民国家形成期だから、それとクロスする内容の浪花
節がウケたのである。
日本が明治維新を行い、その後三度の戦争を行わざるを得なかった一番の
理由は「外圧」=欧米列強のアジア侵略である。<日本人>の民族意識を形
作った原因は日本型ファシズムでも浪花節でもなく「外からの脅威」。
日本の人文系研究者でよく見られるパターンだが、おそらく筆者はナショナ
リズム=「悪」と決めつけた上で、その原因となる悪玉探しをしているので
しょう。それが浪花節だと。しかしナショナリズムは別に悪ではないし、
それを形成する原因もそんな単純なものではない。従って全体の論調には
賛同できない。
ちなみにアメリカは日本の戦争行動を理解するために「忠臣蔵」で日本人を
研究したとか。赤穂義士伝を日本中で大ブームにした浪曲師桃中軒雲右衛門と
「微妙にクロスする」話ではある。しかしそれ以上ではない。
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声の国民国家・日本 (NHKブックス 900) 単行本 – 2000/11/1
兵藤 裕己
(著)
- 本の長さ254ページ
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2000/11/1
- ISBN-10414001900X
- ISBN-13978-4140019009
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
近代国家の基盤となった「日本人」の民族意識は、浪花節芸人の「声」が作った。政治から疎外された人々を心性とモラルの共同体へとからめとった浪花節の「声」という視点に立ち、近代日本の成立を問い直す。
登録情報
- 出版社 : NHK出版 (2000/11/1)
- 発売日 : 2000/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 254ページ
- ISBN-10 : 414001900X
- ISBN-13 : 978-4140019009
- Amazon 売れ筋ランキング: - 90,831位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 73位落語・寄席・演芸 (本)
- - 178位文化人類学一般関連書籍
- - 26,726位文学・評論 (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2004年1月29日に日本でレビュー済み
浪花節(浪曲)なんて、若い人はもう知りませんよね。テレビが放映される前の一時期、かなりの人気を誇った芸能であるらしいのですが。今で言えば、高視聴率のTVドラマとオリコン・トップランクの歌手ばかり集めた歌番組の視聴者を、まとめて魅了していたぐらいの人気ぶり、とでもいえるのでしょうか。ところが今や、各地の演芸場や、浅草の「木馬亭」っていう所で定期的に聴ける程度。要するに、ひと昔前の娯楽です。
その浪花節は、もしかしたら、「日本人」という私たちのアイデンティティが強固にかたちづくられるのに、大変に役立ったのではないか、という視点がこの本の最重要ポイント。詳しくはこの本を軽く読んで欲しいのですが、まあ、そうなのかなあ、と半信半疑ながら納得させられてしまいました。著者の兵藤さんは、現在の国文学界において指折りに有能な方なので、その説得力は並じゃあないのです。私たちの考え方がそれに縛られざるをえない「日本語」について深く理解している人の見解は、めっぽう鋭いのです。
その浪花節は、もしかしたら、「日本人」という私たちのアイデンティティが強固にかたちづくられるのに、大変に役立ったのではないか、という視点がこの本の最重要ポイント。詳しくはこの本を軽く読んで欲しいのですが、まあ、そうなのかなあ、と半信半疑ながら納得させられてしまいました。著者の兵藤さんは、現在の国文学界において指折りに有能な方なので、その説得力は並じゃあないのです。私たちの考え方がそれに縛られざるをえない「日本語」について深く理解している人の見解は、めっぽう鋭いのです。
2001年7月20日に日本でレビュー済み
日本の近代国家の形成に関する従来の説を覆すユニークな書。
これまで明治以降の国民国家(天皇制国家)の理念の形成に大きな役割を果たしたのは父権的な家族制度であると言われてきたが、本書はこの説を覆して、明治期に登場した浪花節が語る物語とそのメロディアスな声こそ、その役割を担ったとする。
特に、仇討ちもの(赤穂義士伝)、侠客もの(清水次郎長伝)、人情もの(唄入り観音経)といった浪花節によって語られる親(主君)と子(臣民)の義理人情のモラルが、明治以降の天皇制(親としての天皇と子としての国民)の精神的支柱になると共に、そこで語られる既存の法と秩序への反抗の心性(ルサンチマン)が明治以前の封建国家の秩序を破壊する役割を果たしたという主張は、多くの資料を駆使して大いに説得力がある。
ただ、日本人の意識に「均質幻想」が生じたのは、ファミリーのモラルを説く浪花節によって、親たる天皇の赤子として国民はみな平等だとする平等幻想が大衆にもたらされたためだという説はやや説得力に欠ける。浪花節的な心性を持たない現代の若者にこうした「均質幻想」がむしろ強まっているからだ。また、浪花節が結果として否定的に語られているのも気になる。浪花節や説経節といった語り物には大きな魅力もあるはずだ。著者は浪花節が好きなだけに、その魅力と可能性についてもっと言及してほしかった。
とは言っても、本書は、政治と芸能という異質なものの接点を探る大掛かりな試みであり、その点では成功している。日本近代史に関心のある人だけでなく大衆芸能に興味を持つ人には大きな示唆を与えるだろう。
これまで明治以降の国民国家(天皇制国家)の理念の形成に大きな役割を果たしたのは父権的な家族制度であると言われてきたが、本書はこの説を覆して、明治期に登場した浪花節が語る物語とそのメロディアスな声こそ、その役割を担ったとする。
特に、仇討ちもの(赤穂義士伝)、侠客もの(清水次郎長伝)、人情もの(唄入り観音経)といった浪花節によって語られる親(主君)と子(臣民)の義理人情のモラルが、明治以降の天皇制(親としての天皇と子としての国民)の精神的支柱になると共に、そこで語られる既存の法と秩序への反抗の心性(ルサンチマン)が明治以前の封建国家の秩序を破壊する役割を果たしたという主張は、多くの資料を駆使して大いに説得力がある。
ただ、日本人の意識に「均質幻想」が生じたのは、ファミリーのモラルを説く浪花節によって、親たる天皇の赤子として国民はみな平等だとする平等幻想が大衆にもたらされたためだという説はやや説得力に欠ける。浪花節的な心性を持たない現代の若者にこうした「均質幻想」がむしろ強まっているからだ。また、浪花節が結果として否定的に語られているのも気になる。浪花節や説経節といった語り物には大きな魅力もあるはずだ。著者は浪花節が好きなだけに、その魅力と可能性についてもっと言及してほしかった。
とは言っても、本書は、政治と芸能という異質なものの接点を探る大掛かりな試みであり、その点では成功している。日本近代史に関心のある人だけでなく大衆芸能に興味を持つ人には大きな示唆を与えるだろう。