かつては生活の中に自然があり自然と共に生きるのが当たり前でした。
ところが、知的にものごとを考え、自然をコントロールして、自分の好きなようにしようとする進度がはやすぎた。だから、「何でもできる」と思っているのが、現代の人間界です。
好きなようにしようとする進度がさらに増したため、みんな、どこか不安になっています。
たとえば、少年による事件が起こると親御さんたちは、「うちの子もやるのでは」と不安を抱(かか)えています。
それは、人間が自然から離れようとする速度のはやさと、そのなかを生きなければならないことが原因です。
「現代を生きる」ことは、食べ物は美味しいし、海外の観光地にもすぐ行けます。
しかし、それを支える裏側の部分が強くなければ、現代ではたいへんなことになります。
その部分が弱いから、みんな、ちょっとした不安でうろたえるのです。
現代的な利便や考え方を享受しながら、その根っこにあることも合わせて享受していかねばならない。それが「いま」なのです。
意識・無意識で言えば無意識、科学・非科学で言えば非科学のほうが、人間が生きるうえでの土台です。
それを意識や科学とどうつなぎ、どう統合するか、それが現代の最大の課題です。
いま日本では不可解な殺人事件などが起こり、人々を不安に陥れています。
人間的な、人とのつながりは、すでに述べてきたようないい面を持っていますが、それをしがらみと感じはじめると極端にイヤになり、拒否したくなってきます。
そこで一挙に関係を切り棄(す)てる。つまり殺してしまえ、ということになります。それらは、わけのわからない殺人につながっていきます。
いまの日本は大きな過渡期にあります。その過渡期にできたエアポケットに落ちた人は、とてつもなくへんなことをやることになってしまい、同時にその被害者も出ます。
また、近代科学と合理主義によってアメリカは世界のトップを走っていますが、そのひずみ(ゆがみ・盲点・アフターケアをしていないところ)に落ち込んでしまった人も多いのです。
全体として見たときにどうなるのか。
「こういう人間関係もある」「こういうのはどうだろう?」と提案することを考えましょう。
科学への急激な傾倒を経験した日本人に根付いた「不安」を取り除く特効薬はありません。
ここまで科学技術が発達したいま、失ったものや排除してきたものを取り戻すには、意識的な努力が必要です。日本人がもっている自然とのつながりは、まだまだあります。自然とのつながりを見直して活用し、少しずつ「不安」の原因を除去していきましょう。
日本の長所は意外に古いものも残っていることです。博物館で展示するようなことはせず、古いものの意味を考えながら、いまを生きることに役立てていきましょう。
たとえば、芸術は昔からずっと人々の心を慰謝し続けています。
残念なことに日本人の場合、忙しく働いている人たちは、芸術に接することのできる場所になかなか出向いて行こうとしませんね。
その人たちの心は知らず知らずのうちに偏(かたよ)っていき、不安を抱えるようになります。
その点欧米人は、仕事熱心な人でも、コンサートに出掛けたり、絵画を見たりして芸術に触れ、自分の内面を広げ、気持ちを和(やわ)らげるよう努力しています。日本人はそれをあまりしません。
これからは、自分の内面を広げるような生き方に変えれば健康な社会がたち現れるようになるでしょう
。
理屈ではない世界を知ることは、とても重要です。
日本は戦争に負け、経済的に欧米に追いつこうとした。そのため、どうしてもお金中心に行動してきました。
⭐もう金儲けはひと休みして、コンサートぐらいいったほうがいいのです。それが健全な社会を作り出す近道です。
⭐せめて休みの日には美術館へ行ったり、音楽を楽しんだり、自然を満喫したりする時間を持ちましょう。
⭐会社に忠誠を尽くすことだけがよいという考え方を改めていきましょう。
★自分が努めている会社がつぶれると責任を感じたり、仕事で大きな失敗をしたりすると、将来に不安を感じて自殺する人が日本にはすごく多いのです。
★それは、仕事を失うこと=自分の人生の100%を失うことと、あまりにも直結しているからです。
⭐仕事はあるけど趣味も持っている。ほかに気持ちを向けるところがいろいろあれば鬱や自殺に直結しません。
★心の中が単層(会社または学校だけ)になっているから行き詰まってしまう。
★小さい世界しか持たない人は、ひとつダメになるとすべてが崩壊してしまう。
⭐複雑なもの、多くのポケットを持っていれば、「これは失敗したけれど、こっちは大丈夫」となります。
仕事や学校のほかに自然に根ざすような趣味を持って、人間性の深みや多様性を創出して、もっと生きることを楽しみましょう。
無意識の部分が現代社会を生きる者にとって必要な理由は、
現代では、意識が合理的・科学的なもので固められているからです。
意識の部分をむやみに強化し、合理的に鍛えてきたのが近代から現代にかけての欧米社会、その影響下にある多くの国々の人々です。
無意識と意識の関係が切れてくると、人は不安になります。
現代人は、現代的な意識に合わないものを排除しすぎました。
近代西洋が生み出した自然科学だけではもはや人間は苦しい(むなしい)。
近代西洋が生み出した自然科学を超える世界観、人生観を持って、もっとおおらかで楽しく、安らいだ気持ちになりましょう。
科学技術的なものさしで世界のすべてを理解しようとすると失敗します。
科学技術(「答えは1つ」)への信頼も持ちながら、「それもある。これもある」
という価値観を持って生きることが重要なのです。
会社で「(お前は)役に立たない」「(だからお前は)いらない」などと、同じ人間に言われてしんそこ言った人間と言われた自分にがっかりして、悲しくて、
それでもそこで働くしか生きていく方法はないと思ってしまうときがあると思います。
人を「要(い)る」「いらない」ではかる会社はほんとうにゾッとしますね。
そんなときも、ほかに選択肢があれば、鬱になるほどひどい会社で働き続ける必要がないことに気付くでしょう。
ここにいるしかない、ここでしか生きられない、自分にはこれしかできない、だから自分はダメな人間だと、決めつけて、はじめからありもしない檻(おり)の中に自分を閉じ込めることはやめましょう。
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ケルト巡り 単行本 – 2004/1/30
河合 隼雄
(著)
- 本の長さ216ページ
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2004/1/30
- ISBN-104140808446
- ISBN-13978-4140808443
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ケルト文化を求め、イギリス・アイルランドを著者自ら巡礼。ドルイドと呼ばれる自然信仰や、キリスト教によって封印される以前の世界観に触れ、自然と人間の共生や口承文学からもたらされる「日本を癒す」ヒントを探る。
登録情報
- 出版社 : NHK出版 (2004/1/30)
- 発売日 : 2004/1/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 216ページ
- ISBN-10 : 4140808446
- ISBN-13 : 978-4140808443
- Amazon 売れ筋ランキング: - 439,960位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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(1928-2007)兵庫県生れ。京大理学部卒。京大教授。
日本のユング派心理学の第一人者であり、臨床心理学者。文化功労者。文化庁長官を務める。独自の視点から日本の文化や社会、日本人の精神構造を考察し続け、物語世界にも造詣が深かった。著書は『昔話と日本人の心』(大佛次郎賞)『明恵 夢を生きる』(新潮学芸賞)『こころの処方箋』『猫だましい』『大人の友情』『心の扉を開く』『縦糸横糸』『泣き虫ハァちゃん』など多数。
カスタマーレビュー
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2019年12月4日に日本でレビュー済み
2017年11月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
文章が自然に流れているような感じで書かれているので、束の間自分がケルトの人とお話ししているような感覚で読んでいました。魔女の話しは、以前書物を読みあさっていたことがあったので、学生時代を懐かしく思い出しました。以前は、ブリテン島によく行っていたので、久々にウェールズあたりに行ってみたくなりました。
2004年8月1日に日本でレビュー済み
この本を紀行文と期待してはいけない。ケルトと比較して、日本人の生き方や日本文化を探った文化論である。
アメリカ、キリスト教文化と比較して、日本とケルトには、多くの共通点があるという。
・ともに、大陸の辺境に位置し、固有の文化が残っている
・言葉がなくても親しくなれる(「非言語的」に交流している)
・ハッピーでない終わり方をするおとぎばなしがある
・アニミズムが残っている
・「嘘をつく」とか「いい加減」とか言われる
(筆者は指摘してないが、かごめかごめとアイリッシュ・ダンスは似ている)
これらを受け、日本人は西欧的に生きると同時に、これらの無意識とつながった生き方をなくさないようにすべきだというのが、筆者の主張である。結論部分が、いかにも日本的であるが、確かにアメリカ人とは違う心性を我々はもっており、それを大切にすることは共感した。
蛇足だが、タロット占いの魔女と心理療法士が同じ手法を使っているという指摘は、勇気があると思った。
アメリカ、キリスト教文化と比較して、日本とケルトには、多くの共通点があるという。
・ともに、大陸の辺境に位置し、固有の文化が残っている
・言葉がなくても親しくなれる(「非言語的」に交流している)
・ハッピーでない終わり方をするおとぎばなしがある
・アニミズムが残っている
・「嘘をつく」とか「いい加減」とか言われる
(筆者は指摘してないが、かごめかごめとアイリッシュ・ダンスは似ている)
これらを受け、日本人は西欧的に生きると同時に、これらの無意識とつながった生き方をなくさないようにすべきだというのが、筆者の主張である。結論部分が、いかにも日本的であるが、確かにアメリカ人とは違う心性を我々はもっており、それを大切にすることは共感した。
蛇足だが、タロット占いの魔女と心理療法士が同じ手法を使っているという指摘は、勇気があると思った。
2004年4月29日に日本でレビュー済み
ケルトの文化,歴史,遺跡の紹介というような堅苦しい多くの本とは異なり,その土地の人々や生活,信条を,心にとけ込むように感じて知る.のんびりと漂い歩く旅気分を味わいつつ,ケルト文化の地を知りたい方にお勧めします.
2004年5月8日に日本でレビュー済み
ケルトと司馬遼太郎(『愛蘭土紀行』)。ケルトと松本清張(『松本清張のケルト紀行』)。そして、ケルトと河合隼雄。三者のうちでもっともケルト的なものとの親和性が強い。それだけに読まなくても中身が分かりそうなものだと思って読んでみたら、案の定、読まなくても分かることしか書かれていない。たとえば「母性を象徴する渦巻き模様」と「ケルト文明が母性原理に裏打ちされていたこと」との関係とか「グルグルと回るケルト文様と輪廻転生の関係」。村上春樹やよしもとばななの著作が「普遍性を持つ現代のおはなしであり、いわゆる近代的自我を中心にして書かれたものではない」こと、「この二人は無意識的なところに入り込んでいく力を持ち、しかもそれを物語にする力を持っていること」。ケルトには文字はないが音楽は残ったこと、音で伝えた方がよく伝わること、「『源氏物語』を代表とする日本の物語文学には、壁の向こうから笛の音が聞こえてくる、などといったシーンがよく描かれる。塀ごしに音が聞こえてきたりする。それで心が伝わる。それは世界中にある話でもある」こと。エトセトラ。エトセトラ。そもそも河合隼雄という人は何者なのだろう。怪物だとしか言いようがない。なんでも呑みこんでしまう怪物。生きている無意識。狐につままれたような本だ。