著者が危惧していたように、本書が世に出てから数年を経て、チェチェンの情勢はさらによくわからなくなってしまっている。
だから本書はいまだに、発刊からしばらく経っているとはいえ、非常に貴重な資料であり続けている。
著者はチェチェンに乗り込み、多くのチェチェン人の生の声を集めるだけでなく、官僚的で融通の利かない人間に食ってかかったり、廃墟に放置された老人の救出に当たるなど、「行動する」ジャーナリストでもあった。
そういった活動が政府の目障りになっており、現実になってしまった自身の暗殺を覚悟していたことは、本書の記述からも明らかだ。
だが彼女は、その行動を最後までやめなかった。
もっとも印象に残っているのは、彼女が乗り合わせたヘリが、ある事情からチェチェンではなく別の場所に降り立つシーンだ。
同乗していたロシア軍の軍人はチェチェンから一瞬でも解放されたことを大いに喜び、そこに居合わせた著者と奇妙な友情で結ばれる。
だがその後、その軍人はチェチェンで戦死し、著者は、自分の筆の力で戦争を止め、彼を助けられなかったことを悔やむ。
著者の人間性と、ジャーナリストとしての魂を感じさせられたシーンだった。
訳については、私は非常によい訳文だと思う。
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チェチェン やめられない戦争 単行本 – 2004/8/25
アンナ・ポリトコフスカヤ
(著),
三浦 みどり
(翻訳)
「将来の希望? そんなものはないわ。今日一日を生き延びた。それだけよ」
昨日連行された人が、今日無惨な姿で戻ってくる。
10年もだらだらと続く戦争の中に育った子供たちは、銃撃戦の音に耳をそばだて、兵器の名前を当てっこしている。
外国報道陣を寄せ付けないチェチェンは、世界から完全に忘れ去られ、無法地帯と化してしまった。
ロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤが命をかけて拾い集めたのは、ロシア軍のイデオロギーでもなく、チェチェン独立を訴える武装勢力の主張でもなく、誰にも止められなくなってしまった戦いに逃げまどう市民たちの声だった。
昨日連行された人が、今日無惨な姿で戻ってくる。
10年もだらだらと続く戦争の中に育った子供たちは、銃撃戦の音に耳をそばだて、兵器の名前を当てっこしている。
外国報道陣を寄せ付けないチェチェンは、世界から完全に忘れ去られ、無法地帯と化してしまった。
ロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤが命をかけて拾い集めたのは、ロシア軍のイデオロギーでもなく、チェチェン独立を訴える武装勢力の主張でもなく、誰にも止められなくなってしまった戦いに逃げまどう市民たちの声だった。
- 本の長さ405ページ
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2004/8/25
- ISBN-104140808918
- ISBN-13978-4140808917
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商品の説明
出版社からのコメント
本書の主人公は、戦争に翻弄される一般市民だ。
マリーカは死に瀕する夫を抱えて、病院に駆け込んだ。医師が言う。
「あなたの夫がテロリストかロシア軍の軍人ならば、紛争の当事者として治療できる。でもただの市民なら、有料だ。即金で4000ルーブル払えるなら手術をしよう」
こういう話は、ニュースでは決して報じられることはない。
今、チェチェンで戦っているのは、実はテロリストとロシア軍ではない。
では、誰と誰が戦っているのか。誰のための戦争なのか。
市民の声のピースが集まって、その全体像が見えてくる。
この半年の間に、チェチェン関連書籍が相次いで出版された。
『チェチェンで何が起こっているのか』(高文研)は、チェチェン問題理解のためのわかりやすい入門書だし、『誓い』(アスペクト)は、戦火を生き抜いた医師の物語だが、これは勇気に関する一大物語だ。是非、併せて読んでほしい。
知らなければ、知らされなければ、何も起こっていないのと同じだ。
私たちはまず知ることから始めなければならないのかもしれない。
マリーカは死に瀕する夫を抱えて、病院に駆け込んだ。医師が言う。
「あなたの夫がテロリストかロシア軍の軍人ならば、紛争の当事者として治療できる。でもただの市民なら、有料だ。即金で4000ルーブル払えるなら手術をしよう」
こういう話は、ニュースでは決して報じられることはない。
今、チェチェンで戦っているのは、実はテロリストとロシア軍ではない。
では、誰と誰が戦っているのか。誰のための戦争なのか。
市民の声のピースが集まって、その全体像が見えてくる。
この半年の間に、チェチェン関連書籍が相次いで出版された。
『チェチェンで何が起こっているのか』(高文研)は、チェチェン問題理解のためのわかりやすい入門書だし、『誓い』(アスペクト)は、戦火を生き抜いた医師の物語だが、これは勇気に関する一大物語だ。是非、併せて読んでほしい。
知らなければ、知らされなければ、何も起こっていないのと同じだ。
私たちはまず知ることから始めなければならないのかもしれない。
登録情報
- 出版社 : NHK出版 (2004/8/25)
- 発売日 : 2004/8/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 405ページ
- ISBN-10 : 4140808918
- ISBN-13 : 978-4140808917
- Amazon 売れ筋ランキング: - 433,073位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 78位ロシア・ソビエトの政治
- - 2,491位政治入門
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年12月29日に日本でレビュー済み
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2019年5月30日に日本でレビュー済み
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"編集長の発想は単純明快。私がごく一般の市民であるからこそ、同じ一般市民の、つまり戦争に巻き込まれてしまったチェチェンの村や街の人びとの体験をもっともよく理解できよう、というわけだ。"2004年に紹介され2年後に著者が暗殺された本書からは、報道について。深く考えさせてくれる。
個人的には世界史を学び直す中で、そう言えば比較的安全を取り戻し、今は日本からも普通に訪れる事が出来るとされるチェチェンで10年ほど前に【起きた事】について再度。【お隣の国でウイグル自治区で今起きている事も含めて( https://this.kiji.is/407098240993477729 )】一度考えてみたい。
そう思ったことから本書を手にとったわけですが。ややジャーナリストとしては偏りが感じられたものの、戦争においては常に【当事者同士ではなく】間に挟まれる老人や女性、そして子供たちといった【弱い立場に置かれる人たち】が最も絶望的な状況に置かれることを、自身の危険を顧みずに丁寧な【現地インタビュー】で写真と共に紹介していて心をうたれました。(最もロシア国内では"恥さらし"等々、散々に非難されたらしいのですが。。)
第一次、第二次チェチェン戦争共に、ロシア国内の政治基盤を固める為の【国内支持へのパフォーマンス】として意図的に行われた。そんな考察もあるようですが。真実はさておき、歴史上で繰り返される大国の小国や少数民族に対する横暴、残酷さを考えさせられる一冊。
チェチェン戦争について思い出したい誰か、ジャーナリズムについて、マスメディアの役割について考えたい誰かにオススメ。
個人的には世界史を学び直す中で、そう言えば比較的安全を取り戻し、今は日本からも普通に訪れる事が出来るとされるチェチェンで10年ほど前に【起きた事】について再度。【お隣の国でウイグル自治区で今起きている事も含めて( https://this.kiji.is/407098240993477729 )】一度考えてみたい。
そう思ったことから本書を手にとったわけですが。ややジャーナリストとしては偏りが感じられたものの、戦争においては常に【当事者同士ではなく】間に挟まれる老人や女性、そして子供たちといった【弱い立場に置かれる人たち】が最も絶望的な状況に置かれることを、自身の危険を顧みずに丁寧な【現地インタビュー】で写真と共に紹介していて心をうたれました。(最もロシア国内では"恥さらし"等々、散々に非難されたらしいのですが。。)
第一次、第二次チェチェン戦争共に、ロシア国内の政治基盤を固める為の【国内支持へのパフォーマンス】として意図的に行われた。そんな考察もあるようですが。真実はさておき、歴史上で繰り返される大国の小国や少数民族に対する横暴、残酷さを考えさせられる一冊。
チェチェン戦争について思い出したい誰か、ジャーナリズムについて、マスメディアの役割について考えたい誰かにオススメ。
2012年11月22日に日本でレビュー済み
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本書は、素晴らしい内容です。 その内容は、チェチェンの実態を書かれたものですが、 その戦場の現場の描写がリアルにそして圧倒的なパワーで読者に迫ってきます。 はっきり申し上げまして、文字を読んでいて吐き気を感じたのは、最初で最後の本でしょう。 私には、無理でした、 途中まで読んでそれ以上は凄惨すぎてよめません。 ドキュメンタリーとしてはお勧めの本ですが、凄惨な実態を知らない方が幸福に思う方は読まないほうをお勧めします。。。。。。
2013年3月16日に日本でレビュー済み
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欲しい本が手に入り どうもありごとうございました。(^o^)丿
2016年1月19日に日本でレビュー済み
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ポリトコフスカヤのこの本を是非読んでおいた方が良いと思っていたので手に入って嬉しいです。
2008年10月8日に日本でレビュー済み
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辛いエピソードがほとんどなのに、著者の語り口は時に軽妙といえるほどのユーモアを湛えている。僕にとってもこの事が最も印象に残った。つまり、彼女の心はどれ程ひどい現実を見つめても、決してある種の軽やかさと言うか、物事を楽しむ心を失わなかったのだ。この事こそ僕が彼女に最も好感を寄せる点である。しかし無論、言論でチェチェンの現状を変えようと奮闘する彼女の情熱に圧倒されなかったわけではない。この情熱のつよさが、本書を極めて読み甲斐のあるものにしている。この本の魅力は、著者があくまで「人間」として語っているところにあると思う。また読み返したいと思うのだが、それは一つには、読後感が意外に爽やかだからだ。人間の嫌な面ばかりを見せられる本ではなく、同じくらい強烈に、試練にさらされても思いやりを決して失わなかった素晴らしい人々の姿が残るように描かれている。
2005年8月30日に日本でレビュー済み
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当方日本企業でロシア営業を担当しております。ロシアのことはそこそこ理解しているつもりでした。チェチェンについての「興味」と「情報」は日本のマスコミから得る以上のものはありませんでした。そんな私が本書を手に取り驚いたのは、「チェチェンはロシアの縮図そのものじゃないか!」ということ。貧乏人が貧乏人を搾取する。その違いは搾取する側の貧乏人には「権力」があり、搾取される側には「それ」がないということ。構図は同じ。モスクワで見聞きする構図と。あるいはシベリアで。あるいはサハリンで。思わずため息が出る。その権力のトップにいるのがプーチン。最新刊の「プーチニズム 報道されないロシアの現実」を興味深く読み、同じ著者の著作を・・・と思い手に取りました。ロシアの本質をしるには最新刊よりもこちらが優れています。 出張先のロシアで原書を手にしましたが、いくつか掲載されている写真が日本語版はモノクロ、ロシア語の原書はカラー。顔いっぱいにケロイドを作った男の子の写真を見比べるとその衝撃の度合いは日本語版のモノクロでは伝わりません。でも著者のAnna Politkovskayaは実はここまで伝えようとしていたのですね。おそらく出版コストの関係で日本語版ではモノクロになってしまいましたが、Annaの「人間を信じたい」という信念は日本語版でも十分伝わります。訳もこなれていて読む進む上でストレスを感じませんでした。最近BRICsの一角を占めるロシアを解説する書物がようやく増えました。でもチェチェンで今も行われていること、ロシア人がどうしようもなく止められない戦争をしてしまっていることを同じロシア人として、一人の人間として自分の目で確認したAnna。彼女は本書のどこかで、「全体の流れではなくこの事実を・・・」と書いてます。ジャーナリストとして、母として。プーチンが主導する現在のロシアの本質が描写されている。仕事で、あるいはプライベートでロシア人と関わる方、どうかご一読を。そしてAnnaの次の著作が出ることを彼女の無事とともに祈ります。
2008年2月14日に日本でレビュー済み
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この翻訳者に訳されたのがこの本の悲劇と書き込んでいる人がいますが、まったく同感です。2回読んでも3回読んでも分からないところがある。鍛原多恵子さん訳にして欲しかった。