SDGｓ社会が目標化されたものの、”ひとりも置き去りにしないはずの社会”はまだまだ置き去りだらけ。
古代社会に学ぶ人道的主体性のあり方「関係論的主体論＝双子の思想＝ひとを喰う社会」を軸に、
「安易な主体論」に流されることなく、本当の主体性を確立するとはどういうことか、、。
まず”他者との相互作用において個人は主体になりうる”（＝個人の外部に、他者が独立して存在する。）
という常識的な想定に対して、他者との関係性のネットワークが展開する日常の場は、
”個人から切り離された独立の外部にではなく、個人の内部に巻き込まれている”
ということが、力説されています。（早い話、仏教系におなじみの縁起システム。）
生物学者ヴァレラやら哲学者カントもそんなこと言ってたっけ、こっちは神経システム的なお話ですが。
●「人を喰う（アントロポファジー）社会」とは、
逸脱者から集団との絆を奪ってしまわない社会のことを言い、
（※例えば故郷の人間関係に躓き、”孤独のメッセージ”を歌うスティングの共同体への再取り込みとか。）
社会にとって脅威なる異質な他者をも排除してしまわず、
自らのうちに取り込み、それらとの対において自らを捉え返し、組み替えようとする社会のこと。
（※こうした社会では個人も単一的な存在ではなく、「双子の片割れ」とみなされ、自己を「一」ではなく「二」ととらえ、対をなす「他者」からのまなざしによってみつめられる存在であることを自覚し、
周囲や世界に対して謙虚であろうする姿勢をとる。）
●双子になって人を喰う社会を構想することで、もう一度構造主義を読み直そう！というのが本書の目的。
第一部／主体と作品の解体
第二部／権力と主体の解剖
第三部／今こそ読み返す
ご著者の文学的趣向には腑に落ちないところも多々ですが、常識は覆され（構造主義は常識を覆す！）、
「古代神話と最先端科学」の類似性の発見には、「双子の思想」の現代性まで垣間見えてくるのでした。
シュレーディンガーの猫は生きているけれども死んでもいる。
ここにいると同時にあそこにもいるというのは、セネカの神話にとどまらず、
さまざまな神話に登場する人物の特徴でもある。
神話は、最先端の科学がつきとめる世界のあり方にイメージを提供するのだ。
しかしそれ（イメージ）だけではない。
道が２本に分かれると二人に分裂し、道が１本になるとまた１人になる男の物語において、
ときに回折する１つの波のようであり、ときにその分割不可能な個体性を維持する１つの微粒子のよう・・
つまり、神話は、量子論に近似するかのように・・、”現実の複数性への感受性”を鍛える・・。
神話は唯一の原典のみを認めるのではなく、バージョンの複数性を承認する。
バージョン同士互いに異なり、矛盾し合うこともあるが、
どれか１つのみが選別され、他は排除されるということがない「神話の世界」は、
量子論が提示する世界にも驚くほど類似する。（最終ページより）
現代社会で種々に報告されている”シンクロニシティ現象（意味のある偶然の一致）”も、
この”現実の複数性への感受性”から生まれているわけで、
『吾輩は子猫である・総集編／友情と物語で解く複雑系の科学』に貫かれている感性もこれです。
常識に目を曇らされなければ世界はこんなに摩訶不思議、はるか古代の人たちの末裔が私たちなのでした。
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