アスタウンディング誌、1940年9月号から4回にわたって連載され、同誌の人気投票始まって以来の、
投票者全員が一位に推すという完全得票をなした伝説の作品。
作品は原語で800語前後(文庫で3−4P)の基本単位で作品を構成していき、その最初と最後に状況を明示するとともに、
そのシークエンスごとにひとつの山を作るという方法で描かれており、これは日本の連載漫画のスタイルに通じる構成であり、
特に日本の読者には、なじみやすい構成で作品が作られている。
長さは文庫で270ページほどだが、現在出版されているSFでいうと500ページぐらいの本で5冊分ほどの内容があると思う。とにかく内容が濃いのだ。
浅倉久志の訳文が簡潔で、且つ情感たっぷりで、作品の文体にはまっており、名訳といえると思う。
作品は、ミュータントであり、知能及び身体能力にすぐれ、テレパシー能力を有するスランは、それゆえ人類から恐れられ迫害を受けている、そんな地球を背景に展開する。スランの少年ジョミー・クロスは両親をスラン狩りで失い、人に身をやつして貧民窟に身を潜めているが、彼には父親から受け継いだ使命がある。一方、スランの少女キャスリーン・レイトンは独裁者キア・グレイにより宮殿のにかこわれている。作品はこの二人の視点から交互に綴られていき、次第に人間とスランとの関係、もう一つのグループの存在、そしてスランにまつわる謎が明らかにされていく。
作品はミュータントをテーマとしたSFの古典で、「
地球(テラ)へ…
」等の様々な作品に大きな影響を与えたことで名高いが、
現在の言葉で遺伝子工学技術による人間の形質の転換を示唆した記載があったりして、
1944年に、アベリーらによって肺炎双球菌で DNA が形質転換の原因物質になることが発見されたという歴史的な事実をふまえると、
この記載は時代を超越した先進的なもので驚かされる。
また、ミュータントと人類の対立を、現実社会の人種間の対立やgenocideとして読み解けば、本書に描かれている内容が
きわめて卓越した議論を行っていることに気付かされるし、その解決法を、友愛だとか平和だとかという
甘い言葉に置き換えて終わらせていないところも、この作品の優れているところであろう。
今回は、kindle版「
Slan
」をtextにして、audible.comからdownloadしてきた、
Oliver Wyman朗読のUnabridged版を聞きながら読書した。
原文は平易で、複雑な技巧も凝らされていないが、簡素であるところが実によく、そのdryな感じの作風と合っていると思った。
読みながら(聞きながら)、ところどころ意味が判然としないところを朝倉久志氏の翻訳で確認しながら読んだが、
質感として訳の方が上で、美文といっていい訳文だと思う。
いやはや、とにかく密度が濃い作品で、古さは全く感じない。
次から次へと事件が起きるので、ドキドキするのだが、そのストーリ展開に作為性は感じさせない。
歴史的な傑作だと思うが、密度が濃いので、近年のアメリカンコーヒーのようなSFを読みなれている読者は注意。
読み飛ばしをすると作品から置いてけぼりをくらいます。
現在絶版中ですので、再販を希望します。
若い読者に是非読んでもらいSFのすごさを感じてほしい。
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スラン (ハヤカワ文庫 SF 234) 文庫 – 1977/4/1
A.E.ヴァン ヴォクト
(著),
浅倉 久志
(翻訳)
- 本の長さ278ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1977/4/1
- ISBN-104150102341
- ISBN-13978-4150102340
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1977/4/1)
- 発売日 : 1977/4/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 278ページ
- ISBN-10 : 4150102341
- ISBN-13 : 978-4150102340
- Amazon 売れ筋ランキング: - 428,479位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
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2014年6月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年12月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
愛すべき古典の名作です。初出版された時に読んで、こんなものが1940年代に書かれていたのか!と驚愕したのを憶えています。そのころの日本のSFやアニメにはこの本に書かれていることが、当たり前のようになっていましたが、これが原点だったと知り興奮したものです。
今のライトのベルのような体裁で読みやすい小説ですが、含まれている内容ははるかに深く素晴らしいものです。SFに興味のある人には必ず読むべきでしょう。素晴らしい作品を残してくれた作者に敬意を表して星5つと評価します。
今のライトのベルのような体裁で読みやすい小説ですが、含まれている内容ははるかに深く素晴らしいものです。SFに興味のある人には必ず読むべきでしょう。素晴らしい作品を残してくれた作者に敬意を表して星5つと評価します。
2014年1月4日に日本でレビュー済み
原著は1946年刊行。
最近、ミュータントが迫害されている世界を描くジョン・ウィンダム『さなぎ』を読んだので、改めて同様な世界を描いている先行作品である本作を読んでみた。
本作は基本的に子供向け作品で、ジュブナイル作品である。また、時代的制約もあっていささか古臭く感じられる処は否めないが、それでも、この時代に既に超能力者が人類の脅威と見なされ、排除・抹殺の対象とされるという物語が描けるとは凄いと思う。(本作がこういったものの最初の作品かどうかは不明であるが)
あと、何度読み返しても、初めて邂逅した同族の女の子とテレパスを交感する中で、お互いが一瞬で恋に落ちる処は良い場面である。
なお、同様な設定の作品として竹宮恵子『地球へ』や、筒井康隆『七瀬ふたたび』等があるが、本作が原型となっていると思う。
最近、ミュータントが迫害されている世界を描くジョン・ウィンダム『さなぎ』を読んだので、改めて同様な世界を描いている先行作品である本作を読んでみた。
本作は基本的に子供向け作品で、ジュブナイル作品である。また、時代的制約もあっていささか古臭く感じられる処は否めないが、それでも、この時代に既に超能力者が人類の脅威と見なされ、排除・抹殺の対象とされるという物語が描けるとは凄いと思う。(本作がこういったものの最初の作品かどうかは不明であるが)
あと、何度読み返しても、初めて邂逅した同族の女の子とテレパスを交感する中で、お互いが一瞬で恋に落ちる処は良い場面である。
なお、同様な設定の作品として竹宮恵子『地球へ』や、筒井康隆『七瀬ふたたび』等があるが、本作が原型となっていると思う。
2003年3月19日に日本でレビュー済み
何度も読み返しました。たぶん、20回以上。戦前の作品でありながら、未だに未来の地球と宇宙を描いて、全く古さを感じません。
人類の新種「スラン」は、額から伸びた「触毛」により、人間の心を読めます。だからこそ、人間に嫌われ、人間ースランの大戦争により、地球の各地に隠れ住んでいます。
主人公ジョンは、天才科学者だった父の才能と武器を受け継ぎ、10歳だが父と母を殺されても、しぶとく生き抜きます。
彼が度肝を抜かれたのは、「無植毛スラン」の存在でした。このスランには触毛がなく、しかも触毛がある「純スラン」を殺している!
人類と、純スランと、無植毛スランの間で、ジョンは、全ての戦争を避ける努力をします。
やっとめぐり合った、美人の純スランキャスリーンは、警官に殺されます。
無植毛スランの本拠地、火星に乗り込んだジョンを待っていたのは・・・
息もつかせぬストーリー、感動的なラスト、これはヴォークト氏の最高傑作です。
人類の新種「スラン」は、額から伸びた「触毛」により、人間の心を読めます。だからこそ、人間に嫌われ、人間ースランの大戦争により、地球の各地に隠れ住んでいます。
主人公ジョンは、天才科学者だった父の才能と武器を受け継ぎ、10歳だが父と母を殺されても、しぶとく生き抜きます。
彼が度肝を抜かれたのは、「無植毛スラン」の存在でした。このスランには触毛がなく、しかも触毛がある「純スラン」を殺している!
人類と、純スランと、無植毛スランの間で、ジョンは、全ての戦争を避ける努力をします。
やっとめぐり合った、美人の純スランキャスリーンは、警官に殺されます。
無植毛スランの本拠地、火星に乗り込んだジョンを待っていたのは・・・
息もつかせぬストーリー、感動的なラスト、これはヴォークト氏の最高傑作です。
2006年3月29日に日本でレビュー済み
超能力もの、ミュータントものの金字塔と言われる本書は一級のエンターテイメントだ。
若い2人のスラン、ジョミー・クロスとキャスリー・レイトンが、一難去ってまた一難といった感じで、次々と襲いかかる危機を切り抜ける様は読者に息つく暇も与えない。ジェットコースターにたとえられる、緩急の絶妙なバランスは、ヴォークト作品の最大の長所である。人間、純スラン、無触毛スランの三つ巴の設定、少しずつ解き明かされるスランの謎など、話のツボがうまく押さえられている。
まあそんな訳で読みやすいが、その分、『非A』など後のヴォークト作品ほど「引き」が強くない。
あとヴォークト作品に共通して言えることだが―多分、作者本人が物語の最後を考えないで書いているからなのだろうが―何となく尻つぼみの観が拭えない。その辺りがラストをかっこよく決める、アシモフ、ハインラインと大きく異なるところだろう。
若い2人のスラン、ジョミー・クロスとキャスリー・レイトンが、一難去ってまた一難といった感じで、次々と襲いかかる危機を切り抜ける様は読者に息つく暇も与えない。ジェットコースターにたとえられる、緩急の絶妙なバランスは、ヴォークト作品の最大の長所である。人間、純スラン、無触毛スランの三つ巴の設定、少しずつ解き明かされるスランの謎など、話のツボがうまく押さえられている。
まあそんな訳で読みやすいが、その分、『非A』など後のヴォークト作品ほど「引き」が強くない。
あとヴォークト作品に共通して言えることだが―多分、作者本人が物語の最後を考えないで書いているからなのだろうが―何となく尻つぼみの観が拭えない。その辺りがラストをかっこよく決める、アシモフ、ハインラインと大きく異なるところだろう。