デューン・第五部『砂漠の異端者』の第2巻、だんだん物語が見えてくる。
本書では大きく分けて3つの物語が描かれる。
一つは惑星ガムーでのゴーラ、ダンカン・アイダホの物語。
ダンカンは、修道会の城砦で老メンタート将軍テグと若い教母ルチリヤの訓練を受けていたが、ゴーラ計画に異を唱える老教母シュワンギュに命を狙われる。テグはダンカンを守るために城砦を離れ、副官バトリンが発見したハルコン時代の秘密の隠れ家に移って訓練を続ける。ダンカンは二人の教官のアトレイデの血と隠れ家のハルコンネンの気配から過去の記憶を甦らせて自由意志を主張するようになる。テグとルチリヤは修道会の愛と忠誠心を説くが、ダンカンは受け入れることができない。
ここで描かれるのは作られた存在であるダンカンの目覚めである。
その隠れ家にも追跡者が迫る。
二つ目はベネ・ゲセリットの物語。
教母長タラーザは修道会の存続と覇権確保のために知恵を絞り謀を巡らせる。信頼する将軍や部下の教母を指揮してゴーラ計画を推進し、反対派と対立する。一方、自らトライラックスの指導者と面談して彼を圧倒し、また、腹心の教母オドレイドを使ってラキスでの権益を確保する。
ここで描かれるのはベネ・ゲセリットの内情である。
オドレイドの幼少期、教育課程時代のタラーザとオドレイドの関係、ルチリヤとシュワンギュの考え方の違いなど、教母たちの個人的な事情も語られている。
大勢の教母の中には修道会の基本方針から外れる者や教母長の指示に従わない者がいて異端者と呼ばれている。異端者の中にはシュワンギュのように教母長と対立する者もいるが、テグの母親のように基本方針からは外れても結果的に修道会の役に立つ場合もある。かつてレイディ・ジェシカも修道会の指示を無視したが異端者と呼ばれたのだろうか。
本書では、愛と忠誠心についてたびたび言及されるが、(良き)異端者とは愛と忠誠心の間で引き裂かれた存在なのだろうか?
また、アトレイデ家の血統には特殊な能力が生まれる場合があることも語られる。
評者が気になったのは修道会の教育課程。各地から能力を持った若い娘が集められて特殊な教育を受け教母を目指す。教母となった者は様々な任務を与えられて組織の繁栄を目指すが、教母になることができなかった者は組織を支える業務に従事する。(これって銀河パトロール隊の設定と一緒じゃないか。前から考えていたことだが、マルチプレイヤーの覇権争いという基本設定は別にして、やっぱり本シリーズの原点の一つにはレンズマン・シリーズがあったのだと思う。ただ、単純に流用したのではなく、マチズモ優先の銀河パトロール隊に対してベネ・ゲセリットは女性優位の思想とした上に、レンズマンでも描かれていた精神と肉体の統合という考え方をより重視していると思う。)
三つ目は惑星ラキスに派遣されたオドレイドと砂虫を操る少女シーアナ、そしてワフの物語。
ラキスは分割された神(砂虫)を信奉する古い宗教組織によって統治されていたが、シーアナという奇跡が現れたことによって対立が広がる。トライラックスの指導者ワフは、歴史的、宗教的な聖地ラキスを手に入れるために自らその地に乗り込み大僧正チュエクを裏から支配する。一方、修道会のタラーザは特異な能力を持つシーアナを手に入れるために腹心の部下オドレイドを送り込む。
排他的で狂信的なトライラックスは以前からベネ・ゲセリットのことを宗教的に相容れない不倶戴天の敵と考えていたが、ワフはタラーザの策略によって修道会が自分たちと目的を共有しているのではないかと考えるようになる。オドレイドは巨大な砂虫を支配するシーアナを使ってワフの認識を混乱させ、僧侶集団と三者同盟の締結を迫る。
第五部『砂漠の異端者』第2巻では、覇権争いを繰り広げる多くの集団の中でベネ・ゲセリットとトライラックスに焦点が当てられる。
ベネ・ゲセリットについては、組織としても登場する複数の個人についても相当詳細に描かれているので、前巻までの描写と合わせるといろいろな部分が見えてくる。
一方、トライラックスについては、前巻で初めて指導者とその宮殿等が登場したがいまだに謎が多い。トライラックスの社会は意志と権力を持つマスターと自意識を持たないフェイス・ダンサーの二つの階級で構成されており、指導者のワフも多数のフェイス・ダンサーを使っているようだが、本書ではほとんど単独で行動しており組織としての行動が見えない。デューン・シリーズでは単身で行動する人物が描かれることが多いのでこれもそうだと思うが、強大な秘密結社の指導者が単身で動くのか?バックアップしている集団のことが意図的に伏せられているような気がする。
本書を読んでいると、結局のところ、第四部「神皇帝」の物語は第五部「異端者」で語られる物語の設定作りのためのものに過ぎなかったのではという思いを否定できない。
というのも、評者はいまだに第四部の物語の意味を掴めていない。にもかかわらず、この第五部を読んでいると、いたるところに第四部の物語の影響が顔を出す。
3500年続いた後、突然消滅して文明を崩壊させた神皇帝の治世から1500年経っているにも関わらず、いまだに世界はその影響を引きづっている。それどころか、その混乱を克服するための行動が新しい社会を生み出そうとしている。
それを読むと、神皇帝は自分の没後、この世界を生み出すために3500年間抑圧的な社会を維持し続けたのではないだろうかと思えてくる。それこそが神皇帝の物語であり“黄金の道”なのだと。
一時は低下していた続巻に対する期待が再び高まって来た。
付記
第五部第一巻『砂漠の異端者①』のレビューは、第四部第1巻『砂漠の神皇帝①』のレビューの後ろに追加しています。
というのは、両書のレビューは、それぞれの書名で検索できるものの、何故か同じサイトに表示されており、異なる書名を指定しても別々に投稿することができませんでした。そのため追加の形を取っています。
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デューン砂漠の異端者 2 (ハヤカワ文庫 SF 604) 文庫 – 1985/3/1
フランク ハーバート
(著),
矢野 徹
(翻訳)
昭和60年3月31日発行
- 本の長さ317ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1985/3/1
- ISBN-104150106045
- ISBN-13978-4150106041
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1985/3/1)
- 発売日 : 1985/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 317ページ
- ISBN-10 : 4150106045
- ISBN-13 : 978-4150106041
- Amazon 売れ筋ランキング: - 507,473位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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