ハインラインの短編集は過去に4つほど出ているが、人気が高いのはタイム・パラドックスの傑作「輪廻の蛇」を含む中短編集『輪廻の蛇』と、同じくタイム・パラドックスの傑作「時の門」をふくむ短編集『時の門』だろう。
2015年に「輪廻の蛇」を原作とする映画「プリデスティネーション」が公開されたおかげで中短編集『輪廻の蛇』は同年に復刊され2023年の今も版を重ねている。これに対し、『時の門』のほうは現在絶版なのがとても残念だ。
なぜなら、短編「輪廻の蛇」と「時の門」の2つを取り出して比較した場合、わずか29ページの中で様々なパラドックスが矢継ぎ早に起こるため全体のからくりがやや理解しづらい「輪廻の蛇」よりも、95ページのボリュームの中でパラドックスが具体的なシーンの (視点をかえた) 繰り返しにより、じっくりと説得力をもって描かれる「時の門」のほうがパラドックスのからくりをよりよくイメージできるからだ。
個人的には「時の門」のほうも映画化されて、短編集『時の門』が復刊されることを願ってやまない。
というのも短編集『時の門』収録の他の短編もSFとして大変面白く、なおかつハインラインの持ち味がよく出ているからだ。後年の楽天家ハインラインとはひと味ちがうペスミスティックな結末もかえって読後つよく印象に残る。
「大当りの年」(全60ページ) :統計分析の専門家ブリーンによって今年は世界のバイオリズムが最悪になり世界が滅亡にむかう大当りの年であることが判明。街なかで全裸になった若い女性 (これも大当りの年の兆候) とともに車で都心から離れ山間部まで命からがら逃げのびる。案の定、地震はおきるわ、ソ連との核戦争は勃発するわ、太陽に巨大な黒点があらわれるわ (超新星爆発の前兆) で、地球の運命やいかに・・・・。
「コロンブスは馬鹿だ」(全9ページ) :成功する可能性のきわめて低い恒星宇宙船に子供連れで乗り組むような人たちについて、賛成派男と反対派男が酒場で酒を酌み交わしながら議論するショートショート。最後のオチが冴えている。
「地球の脅威」(全38ページ):ルナ (月) シティを舞台とした一種の恋愛小説。16歳の多感な少女ホーリイを中心とした三角関係のいざこざと見えて、じつはピュアな純愛もの。月生まれのホーリイらが地球人のことを〈地ネズミ〉と呼んで反発しているところなどは大傑作『月は無慈悲な夜の女王』を思い出させる。
「血清空輸作戦」(全29ページ):冥王星で伝染病が発生。現地で働く300人近い人々を救うためには、大量の血液を超高速の光子船で、しかも異例の速さで運ばないといけない。ただしスピードが速ければ速いほど搭乗したパイロットに高いG (重力加速度) がかかって命すら危なくなる。気の進まないままパイロットに抜擢されたジョウ・アプルビイは・・・・。読後、胸がキュンとなる傑作。
「金魚鉢」(全55ページ):いっしゅの風刺SF。見たこともないような大竜巻と火の玉によって人間が立て続けにいなくなるという異常事態に科学者のグレイヴズとアイゼンバーグが果敢に挑む。しかし、アイゼンバーグは練習器を漕いでいる最中に火の玉によって、そしてグレイヴズは大竜巻探査のための潜水球で大竜巻に飲みこまれてしまい、ともに行方不明になる。2人は謎の異空間で目覚めるが・・・・。最後まで読むと人間存在とは一体何かということについて考えさせられる作品。
「夢魔計画」(全41ページ):超能力SF。ソ連によってアメリカの主要都市に設置された原子爆弾を、超能力者の老若男女をかき集めて探り出させ、かつ爆発を阻止させるべく悪戦苦闘するさまが手に汗握るサスペンスとして描かれている。
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時の門 (ハヤカワ文庫 SF 624) 文庫 – 1985/8/1
ロバート A.ハインライン
(著),
福島 正実
(翻訳)
- 本の長さ363ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1985/8/1
- ISBN-10415010624X
- ISBN-13978-4150106249
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1985/8/1)
- 発売日 : 1985/8/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 363ページ
- ISBN-10 : 415010624X
- ISBN-13 : 978-4150106249
- Amazon 売れ筋ランキング: - 496,347位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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4 星
これを読んだら、また始めから読まずにはいられない・・・・
鍵も掛け金もかかっているウィルスンの部屋に、見知らぬ男が突然現れた。なんと彼は「時の門」から来たという。しばらくすると、また男が現れた・・・・・。ウィルスンも「時の門」へ入り込んでしまうが、そこから続くのは、頭が痛くなるような果てしない「連鎖」であった・・・・・。繰り返し読めば読むほど、「あーなるほど」と思わずにはいられない。短編だが味のある作品。タイムパラドックスの原点ともいうべき名作「時の門」を始めとする7つの短編が収められている。
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2024年2月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
カバーを多少クリーニングしましたが、特に目立った折れや汚れもなく良い商品でした。
2023年9月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
表題作「時の門」目当てで買ったのだが、タイムスリップもののパラドックスを扱ったものとしては初期の部類に入ると思うが、あんまり面白いとは思わなかった。作品中ではダーク・トーンながら最初の「大当たりの年」が一番いい。読み進めるうちにこんな結末になるとは思わなかった。ハインラインは短編より少し長めのものの方が良い気がした。
2018年11月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ハインラインの短編が7本収録されています。その中でも「地球の脅威」という一作はハインラインの「未来史」年表の中に組み込まれた一作です。仰々しいタイトルからは拍子抜けしてしまうような一作ですが、この短編集に収められて以降はおそらく収録されいないと思いますので、未来史に興味があるのでしたらぜひ一読してみてください。もちろんこれ以外の短編も面白いです。
2023年10月4日に日本でレビュー済み
『時の門』(82年前の作品!)は不朽の名作と言われるだけあって、何度読んでも不思議さが消えない。「それが間違っていることを証明するには数学が実際に必要」とのこと(解説より)。ちなみに、諸星大二郎にも似た話が(『俺が増える』)、「涼宮ハルヒシリーズ」にも同じような無限ループの話があった。
2003年4月25日に日本でレビュー済み
鍵も掛け金もかかっているウィルスンの部屋に、見知らぬ男が突然現れた。なんと彼は「時の門」から来たという。しばらくすると、また男が現れた・・・・・。ウィルスンも「時の門」へ入り込んでしまうが、そこから続くのは、頭が痛くなるような果てしない「連鎖」であった・・・・・。
繰り返し読めば読むほど、「あーなるほど」と思わずにはいられない。短編だが味のある作品。
タイムパラドックスの原点ともいうべき名作「時の門」を始めとする7つの短編が収められている。
繰り返し読めば読むほど、「あーなるほど」と思わずにはいられない。短編だが味のある作品。
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鍵も掛け金もかかっているウィルスンの部屋に、見知らぬ男が突然現れた。なんと彼は「時の門」から来たという。しばらくすると、また男が現れた・・・・・。ウィルスンも「時の門」へ入り込んでしまうが、そこから続くのは、頭が痛くなるような果てしない「連鎖」であった・・・・・。
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タイムパラドックスの原点ともいうべき名作「時の門」を始めとする7つの短編が収められている。
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タイムパラドックスの原点ともいうべき名作「時の門」を始めとする7つの短編が収められている。
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