エルリックの物語は、万華鏡を覗いてそこにきらびやかな色彩世界を見る楽しみにも似て、本の中でしばし現実を離れ、エルリック世界を楽しむのが、これまでの読み方だった。絢爛たる、神秘の、おぞましくもあり、気まぐれな神々も幾重にも重なる世界も、目の前に繰り広げられる絵巻物のように、本を読みながらその世界が見える。ただし、あくまでファンタジーの世界として。
しかし今作では、エルリック世界が、この現代の世界と同じに存在感を持った、言葉を変えれば、現代世界がエルリック世界と同じような世界に見えて来る。例えば宿敵ジャグリーン・ラーンの残虐な在り様、それをも上回るらしいメルニボネ人の、倫理観だの道徳観だの人間性だのという、現代人の持つ当たり前の感性が欠落しているかのような人々のいるエルリック世界なのだが、それらはあくまでファンタジーの世界だけだと読む側には一種の安心感があった。が、今回の物語でナチの狂気の残虐性に、それらファンタジー世界の悪逆非道おぞましさが重なり合わされたのが、何よりの衝撃だ。物語世界の極悪さ残虐さは、絵空事ではない、確かに人間の持つ一面なのだということを否応なく思い出さされたと言おうか。
また今回の『夢盗人の娘』では、後書きにもあるように、「こんなに至近距離でエルリックを見たことはなかった」というような、人間に身近なエルリックが垣間見える。そこが新たな面白さ。
そして人類以前の存在としてのエルリックの物語が、現代の人間にも連綿と続いているのだと言う面白さ。この世界がファンタジー世界と連なっている、隣合わせだと言う、不思議な楽しさが読後感にあった。エルリックファンには是非ともお薦めです。
![Kindleアプリのロゴ画像](https://m.media-amazon.com/images/G/09/kindle/app/kindle-app-logo._CB666561098_.png)
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
夢盗人の娘 (ハヤカワ文庫 SF ム 1-26 永遠の戦士エルリック 5) 文庫 – 2006/11/1
- 本の長さ511ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2006/11/1
- ISBN-104150115893
- ISBN-13978-4150115890
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2006/11/1)
- 発売日 : 2006/11/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 511ページ
- ISBN-10 : 4150115893
- ISBN-13 : 978-4150115890
- Amazon 売れ筋ランキング: - 494,971位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.2つ
5つのうち4.2つ![](https://m.media-amazon.com/images/S/sash//GN8m8-lU2_Dj38v.svg)
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
21グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2007年2月14日に日本でレビュー済み
しかしこれって「エルリックサーガ新3部作」ではなくて、「ウルリック・フォン・ベック・サーガ」か「呪われし公子ゲイナーくんサーガ」ではないのだろうか……
今作では、コルムやエレコーゼで出てきた「呪われし公子」ゲイナー(本名ゲイナー・パウル・フォン・ミンクト)の誕生秘話が語られます。SS大尉。
この話は、エルリックが遍歴している頃のもののようです。「聖杯」こと「ルーンの杖」も登場するし、《百万世界》の構造がかいま見れるし、ナチの面々とエルリックのご対面とかもあるし(笑)、エンタテイメント小説としては良くできていると思います。
他方、「エルリックサーガ」としてどうか、というと、エルリックをフォン・ベックという外側の目から見ることで、多少「らしさ」が失われているかな、という感じ(極論を言えば、フォン・ベックを助けるのはエルリックでなく、エレコーゼでもコルムでもいい)。そういう意味でも「エルリックサーガ」かというと、「?」かもしれない。でも、《百万世界》の物語であると割り切れればOKかな。逆に、あのエルリックを……と思うとちょっと感覚が違うかもしれません。
この巻ではゲイナー・サーガに一応のケリがつくものの、次巻に引きをつくって終わっています。どうやら、多元宇宙の秘密が今後明かされていくらしい。いまいち今巻では影の薄かったウーナと共に、ウルリック伯の活躍に期待したいです。
ところで、「アリオッホ」は改訳されるべきである。
今作では、コルムやエレコーゼで出てきた「呪われし公子」ゲイナー(本名ゲイナー・パウル・フォン・ミンクト)の誕生秘話が語られます。SS大尉。
この話は、エルリックが遍歴している頃のもののようです。「聖杯」こと「ルーンの杖」も登場するし、《百万世界》の構造がかいま見れるし、ナチの面々とエルリックのご対面とかもあるし(笑)、エンタテイメント小説としては良くできていると思います。
他方、「エルリックサーガ」としてどうか、というと、エルリックをフォン・ベックという外側の目から見ることで、多少「らしさ」が失われているかな、という感じ(極論を言えば、フォン・ベックを助けるのはエルリックでなく、エレコーゼでもコルムでもいい)。そういう意味でも「エルリックサーガ」かというと、「?」かもしれない。でも、《百万世界》の物語であると割り切れればOKかな。逆に、あのエルリックを……と思うとちょっと感覚が違うかもしれません。
この巻ではゲイナー・サーガに一応のケリがつくものの、次巻に引きをつくって終わっています。どうやら、多元宇宙の秘密が今後明かされていくらしい。いまいち今巻では影の薄かったウーナと共に、ウルリック伯の活躍に期待したいです。
ところで、「アリオッホ」は改訳されるべきである。
2006年11月13日に日本でレビュー済み
待望の新章開幕です。ナチス統治下に生きるベック公を主人公にすえ、現代人にもなじみある第二次世界大戦期の世界観から多元宇宙へとわけ入っていくことで、ムアコックの宇宙がにわかに普遍性を帯びることが本巻の醍醐味でしょう。
<法>と<混沌>、黒の剣とルーンの杖、神々と仙境の生物たちも健在で、絢爛たる異世界奇譚も満喫できます。
古くからのファンには、かつての登場人物たちをただいまのムアコックがどのように解釈しているのか、うかがい知る余得もあります。主人公ベック公は『堕ちた天使』(集英社刊)のベック伯の末裔であり、聖杯にまつわる言及に懐かしさを覚えます。<紅衣の公子>コルムから知っている向きには、<呪われた公子>ゲイナーの原罪は感慨深いものがあるでしょう。
前巻までと比して好みは分かれそうですが、娘を前にしたエルリックの困惑や、ベック公の現代的価値観によるエルリック評など、楽しみどころは詰まっています。
<法>と<混沌>、黒の剣とルーンの杖、神々と仙境の生物たちも健在で、絢爛たる異世界奇譚も満喫できます。
古くからのファンには、かつての登場人物たちをただいまのムアコックがどのように解釈しているのか、うかがい知る余得もあります。主人公ベック公は『堕ちた天使』(集英社刊)のベック伯の末裔であり、聖杯にまつわる言及に懐かしさを覚えます。<紅衣の公子>コルムから知っている向きには、<呪われた公子>ゲイナーの原罪は感慨深いものがあるでしょう。
前巻までと比して好みは分かれそうですが、娘を前にしたエルリックの困惑や、ベック公の現代的価値観によるエルリック評など、楽しみどころは詰まっています。