物質の雲の罠から救出されたデータ貯蔵バンク‘コンプ’が本性を現しテラナーと対立する心理戦の攻防と故郷銀河でラール人が新たに企む悪魔的計画の発動を描く大長編ＳＦスペース・オペラ宇宙英雄ローダン・シリーズ第３９６巻。本巻の執筆者は最古参の大御所競演マールとダールトンです。第３５０巻の後半から始まったアフィリー・サイクルもいよいよ大詰めを迎えそうですが、本サイクルの以前と比べての一番顕著な変化は最大で３つの異なる場所での局面の物語を交互に少しずつ追いかける手法でしょう。ここに来て比較的落ち着いていた故郷銀河のラール人の動きを再び活発化させるという流れは私には予想外で完全に意表を突かれました。
『コンプとサイバネティカー』クルト・マール著：《ソル》にタワー状構造物コンプを搬入した日から船内で次々と異常事態が発生する。その影響を強く受けたのはヘルムートとロボット・ペアのロミオとジュリエットだった。本編では冷たく無慈悲な計算脳コンプに屈服せず心理的駆け引きを挑むローダンのギリギリの危険な賭けがスリリングで手に汗握ります。唯ヘルムートが‘首席コンプ係’に任命される操り人形に過ぎず良い所が無かったのが無理もないとは言え期待外れでした。『時空を超えた救援』クラーク・ダールトン著： ラール人ホトレノル＝タアクはローダンとアトランが帰還した時に備えて指導層の殲滅という悪魔的計画を立てる。本編ではＮＥＩ首席ティフラー、久々登場のロナルド・テケナー大佐と人類の殖民惑星ノオの住民とＮＥＩ工作員の運命が交差する数奇な物語が展開し、あの懐かしい人類の友ハルノが時空を超えて救援に駆けつけ温かな友情のドラマを見せてくれます。未来の運命を知るハルノがテラナーを援助して歴史に干渉する事に矛盾を感じますが、このオールド・ファンを喜ばせる心憎い演出はやはりダールトンにしか書けない境地だと言えましょう。
本巻の翻訳者、渡辺広佐氏のあとがきは前半で電化製品に翻弄されて生きて来た生涯だったなとの思いを述懐され、後半でＴＶアニメや小説で言及されるローダンの話題を紹介されています。人類なきテラで手強い侵略者に対し歯が立たず苦闘するアラスカの戦いの行方が非常に気になっていたのが先延ばしになってまたもや肩すかしを食らわされた気分ですが、どんな形であれもう少しで必ず劇的で輝かしい大団円が来ると信じて辛抱強く待ち続けようと思います。
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