大原まり子の宇宙は現実よりも美しい。なんだか全てが現実よりスタイリッシュに磨かれている地平なのたが、それが時々病的だったり偏執的だったりと危険な兆候もあるのだがそれまでもが美しい。これを他の言語に翻訳するのには骨が折れることだろうとかねてより思っている。
前触れもなく、いきなり30年もタイムワープする平凡な銀行員たる主人公は、本人が生まれ育った時代から1世代後の世界で、彼をスカウトしようとするタイムパトロールと、もとの時代からは1世代後のご当地権力との抗争に巻き込まれる…という話だが、大原まり子がそのような凡百のサスペンスになるわけもなく、突如として4000年ごろの未来の地球に行ったり、哺乳類ではないタイムパトロールの上司に邂逅したりと、大原まり子の宇宙は美しいだけではなくて時空を平気で捻じ曲げたり飛び跳ねたりと変幻自在である性質も備えているのであった。
しかし反面、とある悪役を割り振られた人物は「やせこけた外見に似合わず逞しいものを生やし」ていたりと妙にリアルな本能的シーンも詩的でありつつ生々しく描きこなすという、シュールに幾つもの要素を共存させる作風で、これのまま暴走すると共感も感動も求められない、なんだか知性が詩的になっただけの散文詩かおもちゃ箱をぶちまけたようなだけの作品になってしまうところ、タイムワープによって起きる家族の形成と終焉という人間感情の起承転結を描くことによって、そして最後の2ページによって、こんぐらかった時空は巻き戻されたり早送りされたりする操作のあとで、読者の感情は一直線に統合される。
これを読んだのは1990年代前半で、それからもう一世代が経過した。
そのときまだ僅か30代前半だった著者がこの物語を組み立てたことに驚いている。
30年が経過した今なおその印象は強烈である。
この後、著者は「吸血鬼エフェメラ」を描き、「戦争を演じた神々たち」を描き…その後、今に至る沈黙に入られたが、読んで30年が経過して今なおこの脳裏に鮮烈な物語を書いて下さったことに感激している。
できれば多くの人がまた後世にも手に取ってほしい…。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
タイム・リーパー (ハヤカワ文庫 JA オ 1-8) 文庫 – 1998/2/1
大原 まり子
(著)
- 本の長さ471ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1998/2/1
- ISBN-104150305951
- ISBN-13978-4150305956
この著者の人気タイトル
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1998/2/1)
- 発売日 : 1998/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 471ページ
- ISBN-10 : 4150305951
- ISBN-13 : 978-4150305956
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,098,503位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.8つ
5つのうち3.8つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
11グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2003年5月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
べたなタイトルでべたなお話(過去でわかかりしパパに恋心とか)ではあります。が、そこは大原まりこならではの世界観、恋愛観で独自な世界を描ききっています。
軽い読み物としてすらっと読める、でも本格SF。移動中などにぴったりの本なのでは?
軽い読み物としてすらっと読める、でも本格SF。移動中などにぴったりの本なのでは?
2015年6月23日に日本でレビュー済み
大原まり子さんの小説の魅力は、ディープな「SFマインド」と鮮烈な「女子的妄想力」とが渾然一体となった物語を物語る力にあると思ってます.1988年に連載開始され中断時期を挟んで1993年に完成したこの物語は、「これから僕の話すことはほんとうに起こったことだ」という語りで幕を開け、「時は複雑で美しい、長い長い織物」であるというイメージが提示されますが、この小説自体が主人公である23歳の青年(1988年から2018年に時間跳躍)、その恋人(当然エキセントリックで気の強い美人)、彼をスカウトしようとするタイムパトロール、彼らを追う超能力者組織等がそれぞれ経/緯となって織り上げられた「美しい織り物」の断片のようです.1980年代のサブカルネタも多々放り込まれ、超能力者同士の戦いは大原さんご自身の未来史シリーズを彷彿とさせ、またタイムパトロールのキサラギ隊長は感情抑制を欠いた草薙素子(@攻殻機動隊)のようだと思いました.せつないSF物語(例えば「アルジャーノンに花束を」とか)にキュンとなる方には特にお勧めです.