これは大変な名作で古い版は表紙が萩尾さんだったために、ずいぶん「そういった女性」が買ったこととおもわれます。
この復刊で表紙がかわり、しかも一冊にまとまったので、おそらく男性読者も手に取りやすくなったのではないでしょうか。それでもあえて女性向け、と書きたいです。
わたしは真夏になるたびこれが読みたくなり「真冬のエルシノアへ行こう」と言っては繰り返し読んでいます。
「そういった女性」にとっては何の疑問もないストーリーなのですが、一般の男性にとってはなにがなんだかわけのわからないハナシである可能性も否定できません。セラフィムがのっけからちびの天使の心臓を胸に手をつっこんで握るところで直観できる人はわかるしわからない人は最後も全然わからないことでしょう。
けれども物語の中で物語の中に飛び込んで行くというガチなSFで野阿さんの理屈っぽさといい視覚性といい趣味や文章の美麗さといい全開です。しかも長いわりに無駄がない。時間も次元も飛び越えて、セラフィムとともにジラフを追い、驚愕のラストシーンで腰を抜かす、あちこちのエピソードを完全攻略するために矢鱈歴史と文学勉強してみる、そんなこんなで当分は楽しめます。
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