SFが好きな読者の方なら、もうすでにお読みの方が多いだろう。評者にとっては、長いこと日本SFから遠ざかっていたのを(80-90年代のSFが歴史改変型の戦記物ばかりに見えてしまったため)、リアルタイムで読んで行く姿勢に引き戻してくれたアンソロジーである。特にSF的感銘を受けたのが、秋山瑞人作品であった。永遠に飛行する戦闘機とそれに搭載されて1度の発射にミサイル人生をかける”男”たち、機械同士の対話。それがリアルなのは、筆力と言えるだろう。
2015年もほぼ終わりの時点でのレビューの意味合いは、この本が出た時から数えた次の10年も半ばを過ぎようとしている今、シーンがどうなっているのか、を書いておこうと言う事である。冲方丁は、時代小説を物して一般読者に知られるようになったし、ここには出ていない伊藤計画はすでに、新作は出せない所にいる。秋山瑞人の軍隊3部作の新作にはまだ出あえていないが(空と海があるから、当然陸もあるはずとの思い込みで言っています)、桜坂洋は、ハリウッドメジャー作品の原作者となった。長谷敏司は、さらにテーマを拡大させて書き続けている。
評者の個人的な目に映るこの5年の収穫のうち最たる物は、小川一水”天冥の標”が本当に完結しそうな事だ。第一巻が2009年秋、そしてこの年末にはパート9、13冊目が刊行になる。10年代デビューの書き手も宮内祐介、藤井太洋はじめ多士済々だ。NOVAも2009年からはじまり、最後の10は2013年であった。このシリーズの功績は、SFファンの皆さんはすでにご存知だろう、東浩紀もまさかのSF作家デビューだったし(実際にはクォンタム・ファミリーズの方が先だと後で知った、ただし個人的にはNOVAで出あったので、こう感じてしまった)。円城塔も不思議な話しを相変わらず世に出している。少し心配なのは、SFマガジンの隔月刊移行だ。が、SF愛好家の一読者としては、買って応援か、このようなレビュー書きしかできない。
そういう訳で、心臓の具合をいたわりつつ、大森さんがんばってください。
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ゼロ年代SF傑作選 (ハヤカワ文庫 JA エ 2-1) 文庫 – 2010/2/10
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2002年のJコレクション創刊に続き、2003年のハヤカワ文庫JA内レーベル「次世代型作家のリアル・フィクション」によって、日本SFはゼロ年代の“初夏”を迎えた。秋山瑞人のSFマガジン読者賞受賞作「おれはミサイル」、冲方丁の《マルドゥック》シリーズ外伝、日本SF大賞候補作『あなたのための物語』で注目の長谷敏司による傑作短篇ほか、SFマガジン掲載のリアル・フィクションを中心に、精選した全8篇を収録
- 本の長さ380ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2010/2/10
- ISBN-104150309868
- ISBN-13978-4150309862
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2010/2/10)
- 発売日 : 2010/2/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 380ページ
- ISBN-10 : 4150309868
- ISBN-13 : 978-4150309862
- Amazon 売れ筋ランキング: - 178,038位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1975年生まれ。
高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。
04年『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。
『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。
『キッズファイヤー・ドットコム』で第39回野間文芸新人賞候補、第59回熊日文学賞受賞。
TBSラジオ「文化系トークラジオLife」クルー。
webサイト
http://uminekozawa.com
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年3月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
久しぶりのSFだったのですが、やはり…小松左京の時代ですので、何となく物足りないような、すっきりしないような感じです。最近のSFをもっと読もうかと考えているところです。
2013年7月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容は文句無し。秋山氏の「おれはミサイル」が読みたくて購入したが、それ以外の作家さんの作品群も
殆どが面白く読めた。特に「地には豊穣」は、三島由紀夫の豊饒の海を読んだことがある人にとっては
にやけてしまう部分が多いのではないだろうか。
さて、問題は内容ではなく天地にある。束がざくざくとなっており、不ぞろいになっているのだ。
これは本好きとしてはものすごく気になる。だからAmazonに交換を依頼したが、交換されたものも
やはりざくざくとなっていた。
どうもハヤカワはそういうのが多い。私はつい先日書店にて「マルドゥック」シリーズを買ったのだが、
それもやはりざくざくだった。印刷機の関係なのか? 理由がどうであれ、早川書房には早期改善を求める。
今日び紙媒体の書籍をわざわざ買うのにはそれなりの理由があるのだ。
2023.05.06.
買って十年経ったが追記。このカットは仕様であり、むしろ拘りを以って製作されているということを今更知った。出版社及び印刷会社の方々に己が不勉強を笑納頂ければ幸い。
それにしても、本当の名作は十年経っても色褪せない。紙面に載った文章の「色」に、自分の身の上に起きた色々な事が更なる色彩を与え、読むたびに新たな発見を齎してくれる。これだから小説は面白い。
殆どが面白く読めた。特に「地には豊穣」は、三島由紀夫の豊饒の海を読んだことがある人にとっては
にやけてしまう部分が多いのではないだろうか。
さて、問題は内容ではなく天地にある。束がざくざくとなっており、不ぞろいになっているのだ。
これは本好きとしてはものすごく気になる。だからAmazonに交換を依頼したが、交換されたものも
やはりざくざくとなっていた。
どうもハヤカワはそういうのが多い。私はつい先日書店にて「マルドゥック」シリーズを買ったのだが、
それもやはりざくざくだった。印刷機の関係なのか? 理由がどうであれ、早川書房には早期改善を求める。
今日び紙媒体の書籍をわざわざ買うのにはそれなりの理由があるのだ。
2023.05.06.
買って十年経ったが追記。このカットは仕様であり、むしろ拘りを以って製作されているということを今更知った。出版社及び印刷会社の方々に己が不勉強を笑納頂ければ幸い。
それにしても、本当の名作は十年経っても色褪せない。紙面に載った文章の「色」に、自分の身の上に起きた色々な事が更なる色彩を与え、読むたびに新たな発見を齎してくれる。これだから小説は面白い。
2010年11月27日に日本でレビュー済み
2000年から2009年までのゼロ年代に発表されたSFの短編を収録したアンソロジー。早川書房のSFマガジン掲載作品を中心に構成されているが、粒ぞろいでどれも面白かった。
収録作は、
「マルドゥック・スクランブル"104"」冲方丁
「アンジー・クレーマーにさよならを」新城カズマ
「エキストラ・ラウンド」桜坂洋
「デイドリーム、鳥のように」元長柾木
「Atmosphere」西島大介
「アリスの心臓」海猫沢めろん
「地には豊穣」長谷敏司
「おれはミサイル」秋山瑞人
の8作。
冲方丁のマルドゥック・スクランブル外伝は、言うまでもなく、このアンソロジーの目玉で、ファンとしては必読。
しかし、それ以外でも、新城カズマや桜坂洋、秋山瑞人の作品は、かなり自分好み。
最も好きだったのは、長谷敏司の「地には豊穣」だ。この作品は、長谷敏司の『あなたのための物語』と共通した世界での出来事を描き、一緒に読むとなお、理解が深まる。
作品だけでなく、巻末の藤田直哉氏の解説もゼロ年代のSFの状況を知るためには必読。この解説を読むと、ゼロ年代が日本SF界にとって重要なディケイドだったことがよく分かる。
収録作は、
「マルドゥック・スクランブル"104"」冲方丁
「アンジー・クレーマーにさよならを」新城カズマ
「エキストラ・ラウンド」桜坂洋
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「Atmosphere」西島大介
「アリスの心臓」海猫沢めろん
「地には豊穣」長谷敏司
「おれはミサイル」秋山瑞人
の8作。
冲方丁のマルドゥック・スクランブル外伝は、言うまでもなく、このアンソロジーの目玉で、ファンとしては必読。
しかし、それ以外でも、新城カズマや桜坂洋、秋山瑞人の作品は、かなり自分好み。
最も好きだったのは、長谷敏司の「地には豊穣」だ。この作品は、長谷敏司の『あなたのための物語』と共通した世界での出来事を描き、一緒に読むとなお、理解が深まる。
作品だけでなく、巻末の藤田直哉氏の解説もゼロ年代のSFの状況を知るためには必読。この解説を読むと、ゼロ年代が日本SF界にとって重要なディケイドだったことがよく分かる。
2010年5月6日に日本でレビュー済み
読んでいて難しくってよくわかんねーってのもあった。けど面白いのもあった。
マルドゥック・スクランブルやスラムオンラインの外伝は本編を知っていれば楽しめると思う。
個人的に好きだったのは「アリスの心臓」
最初は意味不明だったがわかると面白い。
あと電撃の冨樫こと秋山瑞人の短編が収録されているのがデカイ。
マルドゥック・スクランブルやスラムオンラインの外伝は本編を知っていれば楽しめると思う。
個人的に好きだったのは「アリスの心臓」
最初は意味不明だったがわかると面白い。
あと電撃の冨樫こと秋山瑞人の短編が収録されているのがデカイ。
2010年3月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
桜坂洋
『スラムオンライン』
の後日談、「エキストラ・ラウンド」を除く7編は全て『SFマガジン』(以下SFMと略記)に掲載された短編。おそらく単行本には未収録ながら、本誌掲載の短編に全て目を通しているような熱心な読者・SF者にはすでに既読の作品群。(ちなみに私は不熱心な読者なので、7本中3本が未読。その中では、テクノロジーの進歩と文化の関係がテーマの長谷敏司「地には豊穣」が素晴らしかった。)
しかしながら、この短編集はたとえ熱心なSFM読者でも、というか読者であればこそ。巻末の藤田直哉の解説、「ゼロ年代におけるリアル・フィクション」(14頁)。これを読むためだけに購入する価値あり。
これは収録作品の解説に止まらず、リアル・フィクションそのものを総括する評論。収録作品の著者だけでなく、ゼロ年代前半(というのも「リアル・フィクション」と銘打たれた作品が刊行されたのは本解説によれば07年が最後で、また本書に収録されている作品がSFMに発表されたのも海猫沢めろん「アリスの心臓」を除けば05年まで)の「SF冬の時代」を乗り越えたSFの展開と、その中で「リアル・フィクション」がどう位置づけられるかを論じている。
その中心に据えられているのは、昨年の3月号をもってSFM編集長を退かれた塩澤快浩氏だ。氏がSFの再興に果たした役割については今後さらに論じられるであろうけれど、編集長を退かれて1年がたち、氏が誌上で展開された「リアル・フィクション」を総括するのには丁度いい時期であるのか。(それに冲方丁は時代小説を手がけてるし。西島大介はあまりSF描いてないし。)
新たな10年を迎える直前に、評論とあわせてリアル・フィクションの粋である作品群を再読し、冬から初夏に季節が移ろった10年をふり返るのもよいのでは?
願わくば、次の10年が盛夏であることを。
しかしながら、この短編集はたとえ熱心なSFM読者でも、というか読者であればこそ。巻末の藤田直哉の解説、「ゼロ年代におけるリアル・フィクション」(14頁)。これを読むためだけに購入する価値あり。
これは収録作品の解説に止まらず、リアル・フィクションそのものを総括する評論。収録作品の著者だけでなく、ゼロ年代前半(というのも「リアル・フィクション」と銘打たれた作品が刊行されたのは本解説によれば07年が最後で、また本書に収録されている作品がSFMに発表されたのも海猫沢めろん「アリスの心臓」を除けば05年まで)の「SF冬の時代」を乗り越えたSFの展開と、その中で「リアル・フィクション」がどう位置づけられるかを論じている。
その中心に据えられているのは、昨年の3月号をもってSFM編集長を退かれた塩澤快浩氏だ。氏がSFの再興に果たした役割については今後さらに論じられるであろうけれど、編集長を退かれて1年がたち、氏が誌上で展開された「リアル・フィクション」を総括するのには丁度いい時期であるのか。(それに冲方丁は時代小説を手がけてるし。西島大介はあまりSF描いてないし。)
新たな10年を迎える直前に、評論とあわせてリアル・フィクションの粋である作品群を再読し、冬から初夏に季節が移ろった10年をふり返るのもよいのでは?
願わくば、次の10年が盛夏であることを。
2010年11月16日に日本でレビュー済み
SFマガジンの名企画「ぼくたちのリアルフィクション」を土台にした作品集。
「マルドゥック」の短編は長編以上のキレが感じられて好きですし、他の作品も、先行する作品・作家を意識しつつ自分の表現の開拓に挑んだ野心的な良作ばかりです。
なにより、長谷敏志「地に豊穣」が素晴らしすぎる。
「あなたのための物語」へと続く精緻な思考と、それをSF的に昇華させた美しいビジョン。どこか古典的なSFを感じさせる点で、伊藤計劃とは一つの軸の両端と言える作者かもしれません。この短編だけのために買っても惜しくない傑作です。
ただ一つ、星5つに届かなかった理由は…
なんで吉川良太郎の「ぼくが紳士と呼ばれるわけ」が入ってないんだよ!!
同じ「ぼくたちのリアルフィクション」枠だったのに!!
「マルドゥック」の短編は長編以上のキレが感じられて好きですし、他の作品も、先行する作品・作家を意識しつつ自分の表現の開拓に挑んだ野心的な良作ばかりです。
なにより、長谷敏志「地に豊穣」が素晴らしすぎる。
「あなたのための物語」へと続く精緻な思考と、それをSF的に昇華させた美しいビジョン。どこか古典的なSFを感じさせる点で、伊藤計劃とは一つの軸の両端と言える作者かもしれません。この短編だけのために買っても惜しくない傑作です。
ただ一つ、星5つに届かなかった理由は…
なんで吉川良太郎の「ぼくが紳士と呼ばれるわけ」が入ってないんだよ!!
同じ「ぼくたちのリアルフィクション」枠だったのに!!