これは近未来、人類が土星から先に進む目を自らの手で潰した頃の物語です。
舞台は技術立国、経済大国の名も高くも、その実態は凋落著しい日本国。
そこで、今はなき関東平野にぽつりと浮かぶ人工島「東京自治区」は、棄民の名の下に隔離され世代さえ重ねた男女その他含め、計二十八万人の足下を支えています。
このように。
この作品は、一貫して変則的な日本という舞台で繰り広げられるシリーズであります。
SFギミックの合間に花蝶風月、書き下し、風雅な単語が乱舞する、実にストレートな和風SFと言える物語でありんす。
さりとて。
移動の自由こそ制限されているものの、優れた公共福祉を与えられ平和で安楽な日常を送る自治区民たち。
人類という枠組みで括られる彼ら彼女たちの傍らには常に寄り添い、その目で伴侶のことを見つめてくれる人造人間「人工妖精」たちの献身がありました。
その一体、黒の衣を身に纏い、メスの白刃煌めかせながら諸般の事情から心身を狂わせていった同胞を狩る「揚羽」、彼女(便宜上)が本作の主人公です。
物語の性質としては、冒頭からして特殊な情景と設定の説明が続きます。
ただし、いささか特別な生まれをして若齢ながら鉄火場を潜ってきた揚羽の視点から、特有の価値観を踏まえた上で丁寧に説明がなされていくので、順を踏まえて読むと意外と楽です。
そんなこんなで、適度に無知な揚羽が「わからない」ことをしっかり専門家に聞いていく“歳”相応の親切&苦労人目線に、個性的(というには生ぬるい)登場人物たちの軽快なトークが加わることで、小洒落た比喩と予想外の方向から飛んでくるネタが笑いを演出します。
かと思えば、打って変わっての重厚な鉄と血と体液の描写、それに、体と心が壊れていく移り変わりが執拗なまでにじっくりと描かれています。
緩急の付け方と、美しさとグロテスクさが不思議と同居する文体には、私も惚れ惚れとするところであります。
魂を運ぶ「蝶」には可憐さと不気味さが同時に揺らぐ。
時に。
技術的なところもそうですが、この作品のジャンルは間違うことなきSF。
技術の進歩によってセピア色に褪せていくことは否めないかもしれませんが、当時も今も、未来にまで託せるだろう願いが込められていることは断言できます。
SFとは「ルール」。
これは誰かの受け売りですが、作中では人工妖精たちにアイザック=アシモフの「ロボット三原則」を踏まえた「人工知能の五原則」という縛りが適応されており、その上でなぜ殺人が起こったのか? という物語上での導線をまず読者に提供します。
しかして、古典的名作の後追い、本歌取りというだけでは終わりません。
人工妖精を定義する要素は他にもあります。
詳細について説明は本編に譲りますが、野放図に置かれては拡散するしかない思考(自我)が限定状況に置かれることで花開くというのは、ミステリーだけではないということです。
あなたが愛する、あなたが愛される。
それに値する人工妖精の姿を思い浮かべながら読み進めていくのもいいかもしれません。
けれども舞台であり、器となる「東京自治区」は優しい理想郷であるとともに、あくまで人の作ったものであるということをお忘れなく。
無形の悪意を溶かし込んだ箱庭の中で、人工妖精たちは自分たちを定義する規範と向き合い、誇り、生きていくのです。
そして、それを見る人間は、眩しさにいたたまれなくなる。また、目を閉じるのでしょうか?
そして、その視線に対して揚羽をはじめとする人工妖精たちは人に対してどのような答えを返すのか?
読者の皆さまにおきましてはその辺りを考えつつ、読み進めていただければと存じます。
ここ第一巻では、本土と同様にある種の戦後を経た東京自治区で、戦争を知る/知らない世代との間の断片的な交流、それを乗り越えていく身を灼くほどの恋の行方、絶望の果ての希望――などが描かれます。
ショッキングな事件が並列して起こりつつ、所詮は悪趣味なデコレート。
ポリティカル・アクションなんて柄じゃないのでは、揚羽蝶?
大仰な事件を外してみれば、万人にとって等身大と思えるだろう苦い現実が待っています。
けれど、歳若い揚羽にとっては遙かというすら生ぬるい、太古からの願いと呪いが渦巻くこの世界の中で、自分を渦巻く閉塞した世界の中で、自己という物を回復していく、その過程はまさに王道なのですよ。
最後に。
レビューの締めくくりとなる名句を引用するに事欠かないかもしれませんが、今はこちらを挙げることにいたします。
どうか結びて果てる、その先を御覧あれ――と。
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スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA) 文庫 – 2010/6/30
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〈種のアポトーシス〉の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精(フィギュア)と生活している。その一体である揚羽(あげは)は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団(イエロー)の曽田陽介と共に連続殺人犯"傘持ち(アンブレラ)"を追っていた。被害者の全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存亡を左右する謀略へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られる――苛烈なるヒューマノイド共生SF
- 本の長さ528ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2010/6/30
- ISBN-104150310017
- ISBN-13978-4150310011
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2010/6/30)
- 発売日 : 2010/6/30
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 528ページ
- ISBN-10 : 4150310017
- ISBN-13 : 978-4150310011
- Amazon 売れ筋ランキング: - 636,032位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2018年7月5日に日本でレビュー済み
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2012年5月1日に日本でレビュー済み
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すこし深く勉強をすると、海外のSF小説が引用されてたりする。
でもその中に日本の作品は少ない。
いや、でも捨てたもんじゃない。
学者、識者で構成される「ジェンダー研究会」の推薦も受けていた。
多分、3回読んでもこの本の真意は分からないのかもしれない。
それだけ深い作品。
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いや、でも捨てたもんじゃない。
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2015年4月18日に日本でレビュー済み
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本書の最大の魅力は、読み進むにつれて作品世界の重層的な構造が少しずつ明らかになっていく過程だと思います。殺人犯を追って都市中を駆け巡る主人公と視点を共有することで、マイクロマシン文明下の日常生活や社会システム、さらには都市の物理的な構造が一つ、また一つと見えてくる。そして要所に挟まれる他の登場人物の視点により、今まで見ていた世界が、さらに大きな世界の一部にすぎないことを知る。
最終的には「人工妖精とは何か」、「人類に未来はあるのか」といった重たくて暗いテーマにまで話が広がりながら、最後は物語がきれいに収束し、暗いトンネルから明るい光の中に出たような読後感が残ります。
蝶の羽を持つ美少女たちのガイドで不思議の国の旅をする。とても楽しい読書体験でした。
最終的には「人工妖精とは何か」、「人類に未来はあるのか」といった重たくて暗いテーマにまで話が広がりながら、最後は物語がきれいに収束し、暗いトンネルから明るい光の中に出たような読後感が残ります。
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2013年11月3日に日本でレビュー済み
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最初は意味不明のルビの多さに困惑しましたが、読み込むにつれ自然と頭に入ってくるようになりました。
造る側と造られる側の心情、等級と言う名の差別、その中で運命を受け入れ必死にもがく人工妖精、人間よりも人間らしい生き方だと思いました。
ラストは涙が止まりませんでした。
造る側と造られる側の心情、等級と言う名の差別、その中で運命を受け入れ必死にもがく人工妖精、人間よりも人間らしい生き方だと思いました。
ラストは涙が止まりませんでした。
2021年1月30日に日本でレビュー済み
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絵にしたら萌え系の少女そのもののようなキャラが主人公をはじめとして多数登場します。
美少女なのに、死体を量産しても顔い色ひとつ変えない冷酷非情で妥協なしのハードボイルド的なキャラだったり、
幼女の姿をしていながら超一流のサイエンティストだったり、外観と中身のギャップが面白いです。
読み進んでいくと、中身のさらに中に、本当の中身が見えてきて、さらに面白くなってきます。
ただ、説明がダラダラと長い部分が気になりました。
あるキャラがモーツァルトが嫌いな理由を、数ページにわたって書いている部分は、読み飛ばしてしまいました。
説明が長くて話が展開が遅い感じの部分は、前半に多いので、前半乗り切ると面白くなってきます。
SF的な要素も面白く、突っ込みたくなる矛盾は多々あるものの、使役するための道具に依存するようになった人類の未来など示唆に富む内容でした。
結末がすこし物足りなくて、続編が読みたくなる感じの終わり方だったので、星3つにしました。
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結末がすこし物足りなくて、続編が読みたくなる感じの終わり方だったので、星3つにしました。
2014年6月1日に日本でレビュー済み
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今のところ出版されている全4巻を読みました。美しい世界観と全巻通してのストーリー、人口妖精達の個性的なキャラクターが良いと思いました、非常に満足です。この著者の新刊、続巻が楽しみです。
2013年7月23日に日本でレビュー済み
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自分は星5つでとても気に入っているですが、それでも癖を感じる文だと思います。
なので正直人を選ぶのかなと感じます。
しかし、AIやアンドロイドをテーマにする作品が好きな人は一度読んでも損はないと思います。
なので正直人を選ぶのかなと感じます。
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2013年5月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
世界観が独特でありながら専門用語がどんどん出てくるので、序盤はなかなか読みにくかった。
でも人工知能とかアンドロイドというのは好きなテーマだったので何とか読み進めているうちに、グイグイと引き込まれてしまった。特に置名草が滅びる中盤辺りから物語の展開は一気にスピードを増す。
五等級の人工妖精揚羽、その双子の妹・真白、一級精神原型師の鏡子、自治区の総督である椛子。この四人に関わる物語の何と重く悲しいことか。終わり方もある意味衝撃的かつ感動的。読んでいる最中には想像だにしないエンディングだ。
それにしてもこの本のタイトルは何とかならないものか。「人工少女販売処」って・・・。
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