自分から奪われた、どうしても手に入れねばならぬ何かを探し求めているような表情で、だれにせよ、それを奪った者に対し、ありったけの力を込め、心の底からの悪意と憎しみと嫌悪を向けている。
弁護士事務所の仕事で訪れた先で、このような視線を受けた主人公の「わたし」が理不尽に呪われてしまうという、1983年発表のイギリスにおける伝統的正当派ともいうべきゴーストストーリーで、著者スーザン・ヒルはスティーブン・キングなどからもリスペクトされている作家です。
その場所に行ったというだけで、何の落ち度もないのに、何の関係もないのに、理不尽に呪われてしまい、その場所から遠く離れ、時間がたとうとも、その呪いからは逃れられないという恐怖は、「呪怨」などを思い出させますが、派手さはなく、様々なホラー作品にとっての古典とも言える正当派としての格調の高さを感じさせます。
ただ、私が本書で一番感心したのは、テリア犬スパイダーの存在です。
この小さな犬の存在が主人公「わたし」にとってどれだけ大きなものであったのか、この犬の描写が実に上手く描かれており、主人公がその存在に感謝する気持ちがとても理解できます。
「わたし」にとってスパイダーはこの上ない相棒です。
館のどこかでゴトリと音がする。
私が得も言われぬ恐怖におびえるときも、人間よりも敏感な犬のスパイダーがぴくりと反応し、そしておびえている姿を見ることで、逆に「わたし」自身気をしっかり持たねばという気持ちになり、ある程度気力を奮い起こすことができるのです。
それだけに、このなんとも恐ろしく寂しい場所で、これほどまでに「わたし」になぐさめと元気を与えてくれた、勇敢で利口な小さな生き物スパイダーが危険にさらされたとき、「わたし」は命がけで助けてやろうとします。
そういったスパイダーの存在が、本書全体の魅力を高めているように感じます。
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黒衣の女 (ハヤカワ文庫 NV 449 モダンホラーセレクション) 文庫 – 1987/6/1
- 本の長さ222ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1987/6/1
- ISBN-104150404496
- ISBN-13978-4150404499
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1987/6/1)
- 発売日 : 1987/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 222ページ
- ISBN-10 : 4150404496
- ISBN-13 : 978-4150404499
- Amazon 売れ筋ランキング: - 2,211,324位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
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2016年2月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2017年9月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
物語の骨組だけを取ってみると、よくある正統派の怪談だけれども、描写で読ませるというのだろうか。自然に物語に引き込まれていく。何にもまして、お化けが怖い。これがすべてという感じがする。お化けそのものの怖さは、理屈っぽい西欧の作家さんではなかなか出せない。最近の日本のホラー映画のようなと表現したらよいのか。なお、本書の映画版もまた、昔なつかしい正統派のホラー映画に仕上がっているが、お化けそのものはまったく怖くない。
2013年1月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
典型的なホラー。それも古典的な幽霊譚。母親の子供に対する想いをホラーにしたもので伊丹十三監督の映画を想い出してしまったが、古今東西、人の想いは同じと云う事なのだろう。
2016年2月8日に日本でレビュー済み
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ダニエル・ラドクリフ主演の映画を観た後に、気になって購入しましたが、正直映画よりもこちらの方が好みでした。
まず物語のロケーションが素晴らしく、淋しい墓地やひっそり佇む廃墟など、黒衣の女が立っている場面が容易に想像出来ます。
次いで、町の人々の態度なども映画とは違い、映画版鑑賞後でも十分に楽しめます。
また、人物に感情移入しやすく、人ひとり犬一匹と言う状況の心細さなどもリアルに感じられました。
どこまでも追いかけてくると言う恐怖感を見事に書き上げた一冊だと思われます。
まず物語のロケーションが素晴らしく、淋しい墓地やひっそり佇む廃墟など、黒衣の女が立っている場面が容易に想像出来ます。
次いで、町の人々の態度なども映画とは違い、映画版鑑賞後でも十分に楽しめます。
また、人物に感情移入しやすく、人ひとり犬一匹と言う状況の心細さなどもリアルに感じられました。
どこまでも追いかけてくると言う恐怖感を見事に書き上げた一冊だと思われます。
2012年12月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
作者スーザン・ヒルは現代の作家ですがこの作品はモダンホラーでもコズミックホラーでもなく正統派のゴシックホラーです。
作者はホラー専門のジャンル小説家ではなく伝統的なイギリス文学の1形態としてゴシックホラーを書いたようで、
ラブクラフト以降のモダンホラーを読み慣れた自分にはとても新鮮でした。
舞台は20世紀初頭のイギリス沼沢地方のうらさびれた町及び沼の中に建つ邸。
そこで当時の風物がふんだんに濃密に描かれる中、怪異潭が悠然と語られます。
20世紀初頭のイギリスの描写が素晴らしいのでアガサ・クリスティ、ドロシー・セイヤーズ等、黄金期の推理小説が好きな方にもお勧めです。
また人物描写も良く、特に地主のデイリー氏はまさにジェントルマンそのもので、イギリスの中流階級の感じが非常に良く出ています。
ダニエル・ラドクリフ主演の映画の予習として読みましたが、とても読み応えがありました。
作者はホラー専門のジャンル小説家ではなく伝統的なイギリス文学の1形態としてゴシックホラーを書いたようで、
ラブクラフト以降のモダンホラーを読み慣れた自分にはとても新鮮でした。
舞台は20世紀初頭のイギリス沼沢地方のうらさびれた町及び沼の中に建つ邸。
そこで当時の風物がふんだんに濃密に描かれる中、怪異潭が悠然と語られます。
20世紀初頭のイギリスの描写が素晴らしいのでアガサ・クリスティ、ドロシー・セイヤーズ等、黄金期の推理小説が好きな方にもお勧めです。
また人物描写も良く、特に地主のデイリー氏はまさにジェントルマンそのもので、イギリスの中流階級の感じが非常に良く出ています。
ダニエル・ラドクリフ主演の映画の予習として読みましたが、とても読み応えがありました。
2015年4月24日に日本でレビュー済み
小説は漫画と違い一度読んでみなければ自分の好みかどうかわからないためどうしても作家買いに偏りがちでした。それで新規開拓のため選んだ一冊がこの本でした。
ブルブル震えが走るくらい怖い本が読みたいと思いホラー小説で検索して評価の高かったこちらを購入したのですが、結果から言うとハズレの部類になるでしょう。
怖がらせよう怖がらせようほら主人公はこんなに怖がってますよ!という意図は文章となってくどいほど羅列されるのですが、実際に主人公の身に降りかかった出来事を考えると巷に溢れる数々のホラー小説に比べれば大した出来事は起こらず、この程度でこんなにビビるなんて本当にいい年をした大人なのか?とかえって白けてしまいます。
最後の最後にどんでん返しを意図したと思われる大きな事件が起きますが、これも悲惨な事件とはいえホラー小説というカテゴリでなくともありきたりな出来事であり、しかもかなり早い段階で先読みできるため驚きにも恐怖にも繋がりません。
書かれた年代を考えると古典ホラーに分類されるのでしょうか。まったく怖くなかったのですが現代の有名所のホラー小説をすでに読んでいて目新しい恐怖に慣れていたことが原因だとするなら、この本が発行された年に読んだら感想は違ったかもしれません。
なにはともあれ新旧含めホラー小説をよく読むという方にはおすすめしません。そういう方はきっと満足できないと思います。怖い話が苦手であまりホラー小説の類は読んだことないけれど怖いもの見たさで軽めのものを読んでみたいというホラー小説初心者におすすめします。
ブルブル震えが走るくらい怖い本が読みたいと思いホラー小説で検索して評価の高かったこちらを購入したのですが、結果から言うとハズレの部類になるでしょう。
怖がらせよう怖がらせようほら主人公はこんなに怖がってますよ!という意図は文章となってくどいほど羅列されるのですが、実際に主人公の身に降りかかった出来事を考えると巷に溢れる数々のホラー小説に比べれば大した出来事は起こらず、この程度でこんなにビビるなんて本当にいい年をした大人なのか?とかえって白けてしまいます。
最後の最後にどんでん返しを意図したと思われる大きな事件が起きますが、これも悲惨な事件とはいえホラー小説というカテゴリでなくともありきたりな出来事であり、しかもかなり早い段階で先読みできるため驚きにも恐怖にも繋がりません。
書かれた年代を考えると古典ホラーに分類されるのでしょうか。まったく怖くなかったのですが現代の有名所のホラー小説をすでに読んでいて目新しい恐怖に慣れていたことが原因だとするなら、この本が発行された年に読んだら感想は違ったかもしれません。
なにはともあれ新旧含めホラー小説をよく読むという方にはおすすめしません。そういう方はきっと満足できないと思います。怖い話が苦手であまりホラー小説の類は読んだことないけれど怖いもの見たさで軽めのものを読んでみたいというホラー小説初心者におすすめします。
2012年12月5日に日本でレビュー済み
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やっとこさ上映が決まった「ウーマン イン ブラック」(他国では既にディスクで販売もされている!)を観賞する前に原作を読んでおこうとKindle版で読みました。
内容に触れるのは野暮なので触れませんが、イギリスも同じ島国だからであろうか、実に日本的な陰鬱な怖さを感じました。
最後の訳者あとがきは映画をみようと思っている人は読まない方が良いでしょう。何気にネタバレしてます。読まなきゃ良かった。。。
内容に触れるのは野暮なので触れませんが、イギリスも同じ島国だからであろうか、実に日本的な陰鬱な怖さを感じました。
最後の訳者あとがきは映画をみようと思っている人は読まない方が良いでしょう。何気にネタバレしてます。読まなきゃ良かった。。。
2013年3月31日に日本でレビュー済み
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この作品、初めて読んだのは20年程前で。
当時はキングを始めホラー小説を好んで読んでいた。でも、深く深く心に残っているのはこの
「黒衣の女」である。とても静かに、しかし
しっかりと気温や湿度を感じ物語は進んで行き、
最後のページが終わってもまだ、鳥肌が収まらない。 身体の芯が冷えていく様な恐怖。
秀作です。
当時はキングを始めホラー小説を好んで読んでいた。でも、深く深く心に残っているのはこの
「黒衣の女」である。とても静かに、しかし
しっかりと気温や湿度を感じ物語は進んで行き、
最後のページが終わってもまだ、鳥肌が収まらない。 身体の芯が冷えていく様な恐怖。
秀作です。