長年待ち望んでいたが、Jurassic Worldの公開に合わせて、ついに、audible.comからDavid Morse朗読による、
Unabridged のAudiobookが発売されたので、早速、朗読を聞きながら、作品を読んだ。
以前に本作を読んだのは、1993年ジュラシック・パークの公開に合わせてだったので、20年ぶりの読書ということになり、
本作品を通読するのはトータルで3回目ということになる。
作品自体は1969年、東大安田講堂落城が起き、TVでは大橋巨泉の「はっぱふみふみ」の万年筆CMが人気を博した年に発表されているので、かれこれ半世紀前の作品ということになる。
物語は、
宇宙空間の微生物を回収し、新しい生物兵器を作り出すことを目的とした人工衛星が、アメリカのアリゾナ州、ピードモントに着陸後、
瞬時に、町の住人及び回収部隊が死滅することから始まる。
「地球外病原体」が地上にもたらされた可能性が疑われ、直ちにワイルドファイア警報が発令され、未知の病原体との戦いが開始された。
この本は、「Andromeda Strain」と命名された病原体との5日間の戦いをnon-fictionの報告書として描き出している。
まずは、科学的な部分の記載の正確さだが、登場する科学者の経歴の作り込みや、ワイルドファイア計画の全貌の詳細が、
今日でもnon-fictionとしても全く遜色のないように作りこまれている。
そこで、当時、まさに、アポロ計画の最中にあり、多くのことが未知で、宇宙から病原体が持ち込まれる可能性が真剣に論じられていたときに、
この話が、多くの読者に、どれほどの衝撃を与えたかは、容易に想像でき、
半世紀たった現在でも、読者は、現実に起きた/起きうることとして、十分に緊張感を持って読み進めることができ、
「さすが」としか表現できない内容になっている。
ただし、これは、私が生物学研究者なので気がつくのだと思うが、電子顕微鏡の理論や、結晶解析の科学的な説明にはやや間違いがあり、
同時に、本書に図示される、電子顕微鏡と結晶解析の解析データーや、病原体やその構成単位の大きさの説明にもナノサイズからマイクロサイズスケールへと飛躍や混乱がみられ、
得られる生データー風の図も電顕らしからぬものであること等、その科学的な内容には、ところどころ間違いが散見される。
ただし、本書が記載されたのは半世紀前で、しかも著者は当時26才のハーバード大学の現役の医学生であり、その博識さと、科学的な知識の正確さ、さらに医学に対する問題意識の高さや、
病原体との遭遇を、人類と宇宙生命体とのファーストコンタクトとして描いた点等、まちがいなく、傑出した天才のみが創り上げることのできる作品である。
(e.g.,同時期に発表されているJ・G・バラードやスタニスワフ・レムの作品に描かれる医学知識と本作のを比べると、それは18世紀と現在の科学知識と同程度に情報の正確さに差がある)
さらに、ここで描き出されるワイルドファイア研究所の施設は現在でいうバイオセーフティーレベル4の研究施設を表しており、
1969年当時に未知の病原体との遭遇をこのレベルで、システムとして描き出したことは、驚異としか言いようがないが、
同時に、施設に入る研究者が全身を消毒されないといけないとする等、明らかな誤解に基づく記載も認められる。
ただ、この本の素晴らしさは、専門家のみが気づくような微細な記載のミスに影響を受けるわけがないのは明らかである。
というのも、ワイルドファイア計画の全体像と施設、そして組織の描写ついては、同様のレベルで生物・医学研究の状況を正確に記載したSF作品が、
その後、半世紀間に存在しておらず、驚愕の水準で作品が作りこまれている事がわかるからである。
プロット的にも、作品前半に張り巡らせれていた伏線が、最後の部分で、回収されていき、畳み掛けるようにハラハラとさせるシークエンスが続き、
ラストを知っているにもかかわらず、私は、十分に緊張を、持って読み進めることができた。
DNAやタンパク質をもたない、未知の病原体の構成単位と、それが自己組織化することで形成される単位体とその変異を科学的にどう考えたらいいのかという点については、実は良くわからない点もあるが、
科学的な正確さを維持しながら、未知の病原体との戦いを、一方で、ファーストコンタクトとして、平易な文章で、無駄なく、緊張感を持って描き出すことに成功したという点で、
今日でも、稀有のSF作品といえる。
生物学という、現在、新しい知見が飛躍的に集積しているフィールドで、安易に描くと簡単に古びてしまう世界を、50年前に、正確な科学知識をもって思考実験を組み上げることで、
今日でもほぼnon-fictionといっていいレベルで、宇宙からの病原微生物との遭遇を描き出した点は、驚異的と言え、
腐らないSFの描き方の一つのヒントをもたらしているといえるのではないか?
まとめ:
本作はバイオハザードSFの嚆矢であり、内容は現在でも斬新であり、必読のSFといえる。
PS:
何人かの翻訳家がマイクル クライトン作品を訳出しているが、クライトンの文章は平易な英語を使っているが、簡潔で、論理的で、理知的だが、
浅倉久志氏の翻訳は、簡潔で、論理的で、理知的な部分を見事に訳出しており、浅倉氏を超える翻訳はいまのところ出ていないと思う。
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アンドロメダ病原体〔新装版〕(ハヤカワ文庫NV) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-30) 文庫 – 2012/4/6
マイクル・クライトン
(著),
浅倉久志
(翻訳)
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人類破滅か? 人工衛星落下をきっかけに起きた未曾有の災厄に科学者たちが立ちむかう
- 本の長さ464ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2012/4/6
- 寸法10.6 x 1.9 x 15.7 cm
- ISBN-104150412545
- ISBN-13978-4150412548
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商品の説明
著者について
マイクル・クライトンは1942年、イリノイ州シカゴ生まれ。ハーバード大学で人類学を専攻後、ハーバード・メディカル・スクールを卒業。在学中からペンネームで小説を書きはじめ、1968年に発表した『緊急の場合は』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞。1969年発表の本書『アンドロメダ病原体』で世界的なベストセラー作家となった。その後も、『スフィア―球体―』『ジュラシック・パーク』『タイムライン』など、次々と話題作を生み出している。映画監督としても「ウエストワールド」「コーマ」「大列車強盗」などの傑作を手がけ、また人気TVシリーズ「ER 緊急救命室」の製作者としても知られている。2008年死去。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2012/4/6)
- 発売日 : 2012/4/6
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 464ページ
- ISBN-10 : 4150412545
- ISBN-13 : 978-4150412548
- 寸法 : 10.6 x 1.9 x 15.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 243,892位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年7月1日に日本でレビュー済み
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2021年2月5日に日本でレビュー済み
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宇宙からの侵入したウイルスとの戦いについて、防疫のためにいかにしてアメリカの宇宙開発機関が複雑に何重ものシステム化しているかについてはそれなりに面白く読めた。感染が拡大していく時には、最後に小型の原水爆で建物や研疫機関ごとこの世から消滅させでしまう。そのストーリーは、面白く一気に読んでしまう。医学的にな話し「これが1960代のものとしても面白い。
2022年7月13日に日本でレビュー済み
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原書は1969年発行の本書を2022年に読むと、クラシックな趣きがある。
過去の危機を報告書で読む形式なので、古き時代を感じさせてよい。
未知へと分け入る科学者たちの興奮と恐怖。
システムの落とし穴と盛り上げ場面もあって飽きずに読み進められた。
過去の危機を報告書で読む形式なので、古き時代を感じさせてよい。
未知へと分け入る科学者たちの興奮と恐怖。
システムの落とし穴と盛り上げ場面もあって飽きずに読み進められた。
2021年7月26日に日本でレビュー済み
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これほどガチのサイエンスで固めたSFも珍しい。結末の唐突さも寝技の応酬で一瞬の隙にヒールホールドが決まってしまった思えば納得。
2020年7月15日に日本でレビュー済み
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とっても古い話ですが今読んでも面白いです
2020年5月3日に日本でレビュー済み
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小松左京の「復活の日」が着想のもとになったそうですが、病原体のアイディアが通信というアイディアが凄いです。
小松左京の偉大さも再認識しました。
小松左京の偉大さも再認識しました。
2019年10月18日に日本でレビュー済み
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1969年が初版だと知って驚愕。コンピュータの演出に懐かしさがあるものの、全体の印象は古びていない。悲劇的にも悪夢的にも書き足すこともできそうだが、この長さでシンプルにドキュドラマとしてまとめたことがこのアイデアを傑作にしていると思う。映画も見てみたくなった。
2020年2月21日に日本でレビュー済み
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この本を読んでいて、昔見た映画の記憶が蘇りました。映画のタイトルも覚えてなくて、「おじいさん」と「赤ちゃん」だけが助かったところだけを記憶していました。本書を読んで、実際はこんなストーリーだったんだと、改めてマイケル・クライトンの才能に気付きました。