競馬シリーズの傑作「大穴」の続編にして、ディック・フランシスが成しえた到達点のひとつだと思う。
「大穴」と「利腕」は、ひとつの前後編と見たほうが良く、この「利腕」だけ先に読むのはあまりお勧めしない。シッド・ハーレーというこの「利腕」では優れた探偵になっている元チャンピオン・ジョッキーを通して、ディック・フランシスが描いた、男の強さと弱さを味わうには、「大穴」を読んでいないと、十分ではないと思うからだ。
本作でシリーズ2度目の登場を果たす主人公シッド・ハーレーは、「大穴」のときより自信と経験と余裕のある探偵として読者の前に現れる。降りかかる身の危険を機転と運の良さで切り抜けていく展開は、じつに見事なもの。一方で、元妻のトラブルを解決しようと動くときの情けない感じは、これまたディック・フランシスならではの描き方だと思う。
これまでの競馬シリーズの主人公と同様、この「利腕」でも、シッド・ハーレーは屈辱感にまみれ、自己尊厳を喪失しかける。だが、そこからの復活と「10倍返し」がいつも通り素晴らしい。そして、ただの爽快感で終わらず、男として、もう一皮むける成長物語になっているところも、この作品を最高傑作の地位に至らしめていると思う。
元妻の父との不思議な友情、相棒チコ・バーンズとの会話、元妻とのやり取りすべてが、人間らしくて私は好きだ。とくにラスト近くで、元妻に心の中で掛ける言葉が、読後も胸の内に響く。
イギリスの障害競馬になんか興味ないと言わず、手に取ってほしい小説だ。
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利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-18 競馬シリーズ) 文庫 – 1985/8/1
ディック フランシス
(著),
菊池 光
(翻訳)
ディック・フランシスの本は始めて読んだ。競馬ものという偏見があったが、競馬はあくまで話のネタであって、内容は主人公が恐怖に打ち勝つ過程であり、胸が熱くなった。
- 本の長さ406ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1985/8/1
- ISBN-104150707189
- ISBN-13978-4150707187
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1985/8/1)
- 発売日 : 1985/8/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 406ページ
- ISBN-10 : 4150707189
- ISBN-13 : 978-4150707187
- Amazon 売れ筋ランキング: - 260,015位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
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2016年1月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
書店・古本屋で探しましたが見つからず(>_<)アマゾンでばっちり発見。感激(*^。^*)40年前学生時代の好きだった彼女の
愛読書だったそうで同じ空気に触れることが出来ました。別シリーズも読んでみようと思ってます。
愛読書だったそうで同じ空気に触れることが出来ました。別シリーズも読んでみようと思ってます。
2015年1月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
もう四半世紀前、ディック・フランシスが通勤の友達だった時期がある。正確には、ディック・フランシスが創ったシッド・ハレーやアラン・ヨークやダニエル・ロークといった主人公たちにとても親近感を覚えていた。会社と家とを往復するだけの味気ない毎日に、ひとときの興奮と刺激を与えてくれたのがディック・フランシスだった、と言ってもいい。
kindle版になって復活したのを知り、当時の熱中を思い出してこの本をダウンロードした。
当時と同じような興奮はよみがえらなかったけれど、当時は味わえなかった「風味」を発見した。私が年をとって、まがりなりにも経験を積んで、少しは機微が読めるようになったおかげだろうか。当時は気づかなかったハレーの哀しみやエゴ、妻の心の痛みやあせり、義理の父親の深い悔恨などが胸に迫った。
ディック・フランシスはやはり天才的なストーリーテラーだ。
そして訳者の菊池光はまれに見る優れた翻訳家だ。
kindle版になって復活したのを知り、当時の熱中を思い出してこの本をダウンロードした。
当時と同じような興奮はよみがえらなかったけれど、当時は味わえなかった「風味」を発見した。私が年をとって、まがりなりにも経験を積んで、少しは機微が読めるようになったおかげだろうか。当時は気づかなかったハレーの哀しみやエゴ、妻の心の痛みやあせり、義理の父親の深い悔恨などが胸に迫った。
ディック・フランシスはやはり天才的なストーリーテラーだ。
そして訳者の菊池光はまれに見る優れた翻訳家だ。
2016年3月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現在ディック・フランシスのストックは6さつです。私にとっては、常備薬のようなものです。ややこしい本を何冊か読んで、疲れたときに読みます。訳者菊池光の文章は読みやすいし、構成が複雑で、登場人物の生活やキャラクターがしっかり描いてあるので、間を開ければ2度は読めます。経済的でもあります。
2006年8月17日に日本でレビュー済み
作者は元競馬騎手。作家に転向後、その経歴を活かして競馬界を舞台にした作品を次々に発表し、好評を博した。主人公は元騎手が多く、いずれもストイックな性格の持ち主。シリーズの代表作は「興奮」か。
だが、作者の手法はマンネリ化してきて次第にスランプに陥っていった。そんな作者の再生を示したのが、本作である。
本作の主人公シッドはこれまでと同様ストイックな性格に設定されている。プライドも高い。それが、敵の肉体的脅迫に合い、恐怖のあまり自身の持つ矜持が崩れそうになる。この自己の精神の崩壊と再生が本書のテーマであり、シッドの再生はまた作者自身の再生でもあるのだ。
シリーズ中でも、読み応え満点の快作である。
だが、作者の手法はマンネリ化してきて次第にスランプに陥っていった。そんな作者の再生を示したのが、本作である。
本作の主人公シッドはこれまでと同様ストイックな性格に設定されている。プライドも高い。それが、敵の肉体的脅迫に合い、恐怖のあまり自身の持つ矜持が崩れそうになる。この自己の精神の崩壊と再生が本書のテーマであり、シッドの再生はまた作者自身の再生でもあるのだ。
シリーズ中でも、読み応え満点の快作である。
2011年11月11日に日本でレビュー済み
競馬については詳しくないのですが、
非常に面白いと思いました。
切れ味のある文章と
人間の心理描写(特に弱い部分)が上手いな、
と感心させられました。
競馬小説というよりも、
不屈の精神で悪に立ち向かう男の
生き様を描いている。
そこがまた良かったです。
非常に面白いと思いました。
切れ味のある文章と
人間の心理描写(特に弱い部分)が上手いな、
と感心させられました。
競馬小説というよりも、
不屈の精神で悪に立ち向かう男の
生き様を描いている。
そこがまた良かったです。
2007年12月21日に日本でレビュー済み
元花形ジョッキーのシッド・ハレーが主人公の第2作だ。前作の「大穴」では片腕を失ったシッドが調査事務所のパートナーとして第2の人生に踏み出す姿が描かれていたが、本作は時間的にはそれほど間もないところから始まる。
今回は前妻のジェニーが巻き込まれた詐欺事件、同一厩舎の有力馬の不審な敗北などの調査を立て続けに依頼されるところから始まり、サスペンス・スリラー小説としても十分楽しめるが、個人的には事件解決を通じて再び出合ったシッドと前妻のジェニーが共に不幸な結婚生活で負った心の傷を乗り越えて行く姿や、捜査の過程で暴力と脅迫に一旦は屈したシッドが深い喪失感から立ち直っていく姿により感銘を受けた。
自己の苦しみや悩みを妻にさえ打ち明けない自己抑制のきいた主人公が、内面では深い喪失感や劣等感を抱いてもがいている心理描写がすばらしい傑作だ。
今回は前妻のジェニーが巻き込まれた詐欺事件、同一厩舎の有力馬の不審な敗北などの調査を立て続けに依頼されるところから始まり、サスペンス・スリラー小説としても十分楽しめるが、個人的には事件解決を通じて再び出合ったシッドと前妻のジェニーが共に不幸な結婚生活で負った心の傷を乗り越えて行く姿や、捜査の過程で暴力と脅迫に一旦は屈したシッドが深い喪失感から立ち直っていく姿により感銘を受けた。
自己の苦しみや悩みを妻にさえ打ち明けない自己抑制のきいた主人公が、内面では深い喪失感や劣等感を抱いてもがいている心理描写がすばらしい傑作だ。
2009年7月22日に日本でレビュー済み
壁にブチ当たった時はシッド・ハレー物4作を読み返すことにしていますが、特に、自分自身の弱さを自分でも我慢ならないくらい思い知らされた時、本書は無くてはならない本です。