本作品は、1950年に発表されたものですが、
本書は1979年刊行のハヤカワ・ミステリ文庫を新訳化し、
2008年に発行されたものです。
物語は、ロンドンに住むジョージ・ランバートが
仕事を終え帰宅後、
居間で警察の到着を待つところから始まります。
妻のヒルダがガスの充満した台所で
ガスオーヴンに頭を突っ込んで死亡していたからです。
検死の結果、暴力の跡があること等により
殺人と断定した警察は、
アリバイの不明確な夫のジョージを逮捕します。
ドイツ帰りの友人、マックス・イースターブルックは、
彼の窮状を知り、犯人捜しを始めることとなりますが…。
この作品を有名にしたのは、ここからの展開で、
調べを進めていくと、ヒルダは、
ジョージの語る、静かで、のんびりして、身持ちの堅い妻、
という姿とは全然違う、
異常とも言える別の顔が見えてくるところ。
NO TEARS FOR HILDA(原題)
−−ヒルダに涙はいらない、涙に値しない女性だったのです。
こうしたヒルダの人物造型が当時は衝撃的だったようで、
本書解説にもあるとおり、
本作品以後、異常とも言える性格を持った人物を
主題にした作品が多く書かれていることからも、
本作品の影響の程が知れます。
現代のサイコ・ホラー系作品の原点として
読む価値は高いと言えましょう。
ただ、精神障害についての知見が広まった現代では、
本作品には別の見方ができるかもしれません。
(著者の意図とはもちろん違いますが)
ヒルダは、ある種の精神疾患にかかっていたようにも思えます。
だとすると、彼女は病から来る、
自分ではどうしようもない衝動に突き動かされて
行動していたわけで、
涙に値しないではなく、
大変に気の毒な女性にも思えてくるのです。
これから本書を読まれる方が
どんな印象を持たれるのか、興味深いところです。
本作品は、「悪女もの」というのを
どこかで耳にしたことがありますが、
それとは異なる印象を持った作品でした。
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ヒルダよ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 64-1) 文庫 – 1979/6/1
アンドリュウ ガーヴ
(著),
福島 正実
(翻訳)
- 本の長さ352ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1979/6/1
- ISBN-104150733511
- ISBN-13978-4150733513
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1979/6/1)
- 発売日 : 1979/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 352ページ
- ISBN-10 : 4150733511
- ISBN-13 : 978-4150733513
- Amazon 売れ筋ランキング: - 271,545位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年9月30日に日本でレビュー済み
1950年に発表された、アンドリュウ・ガーヴの、今や古典的名作といってもいい作品。
舞台は11月のロンドン。ヒルダがガスオーヴンの中に頭を突っ込んで中毒死しているのが発見され、警察がやってくるところから物語は始まる。最初は自殺と思われたが、遺体の状況から殺人であると断定される。そして、発見者である夫のジョージが、遺留指紋、若い女との浮気、あいまいなアリバイから容疑者として逮捕される。
彼の無実を信じる親友マックスは、冤罪を晴らそうと真相究明に乗り出す。ストーリーは夫妻、とりわけ妻のヒルダの、現在・過去の関係者に聞き込みに回るマックスの素人探偵調査が主軸となり進行していく。
関係者の話から浮かび上がってくるのは、ジョージのいう明るくて身持ちの堅い賢夫人イメージとは異なるヒルダの実像だった。曰く「煮ても焼いても食えない女」、「鼻持ちならない人」、「殺されても仕方がない」と、怪物的・ホラー的とさえ言えるほどのヒルダ像がこれでもかとばかり明らかになってくるのだ。
なぜヒルダは殺されたのか・・。果たして真犯人は・・。謎は深まるばかりである。
本書は、最後の最後まで息を抜けないタイムリミットのある心理サスペンスであり、かつ悪女ミステリーの妙が堪能できる快作である。
舞台は11月のロンドン。ヒルダがガスオーヴンの中に頭を突っ込んで中毒死しているのが発見され、警察がやってくるところから物語は始まる。最初は自殺と思われたが、遺体の状況から殺人であると断定される。そして、発見者である夫のジョージが、遺留指紋、若い女との浮気、あいまいなアリバイから容疑者として逮捕される。
彼の無実を信じる親友マックスは、冤罪を晴らそうと真相究明に乗り出す。ストーリーは夫妻、とりわけ妻のヒルダの、現在・過去の関係者に聞き込みに回るマックスの素人探偵調査が主軸となり進行していく。
関係者の話から浮かび上がってくるのは、ジョージのいう明るくて身持ちの堅い賢夫人イメージとは異なるヒルダの実像だった。曰く「煮ても焼いても食えない女」、「鼻持ちならない人」、「殺されても仕方がない」と、怪物的・ホラー的とさえ言えるほどのヒルダ像がこれでもかとばかり明らかになってくるのだ。
なぜヒルダは殺されたのか・・。果たして真犯人は・・。謎は深まるばかりである。
本書は、最後の最後まで息を抜けないタイムリミットのある心理サスペンスであり、かつ悪女ミステリーの妙が堪能できる快作である。
2006年11月29日に日本でレビュー済み
私が本書を読んだ際(30年以上前)は、ガーヴの作品はこれしか邦訳されていなかった(と思う)。後から考えると本作はガーヴにしては異色作である。絶版になったが「メグストン計画」(個人的にガーヴの最高作)のような、雄大な自然を背景に精緻な構想を織り込む作風が本領だったのだ。
本作は妻殺しの容疑を掛けられた夫が、妻ヒルダの周辺を探るうちに、ヒルダが思いがけず稀代の悪女だったという事を知るという話。一般に悪女ものと呼ばれているが、それとはチョット違う気がする。人間を見つめる際、視点によって様々に写るという点を強調したかったのであろう。サスペンスなので、夫には普通の女性に見えたヒルダが、他の人から見ると悪女に見えたという展開にせざるを得なかったと思う。
最初にガーヴに接した作品であり、ガーヴにとって異色作である事から印象深い作品。
本作は妻殺しの容疑を掛けられた夫が、妻ヒルダの周辺を探るうちに、ヒルダが思いがけず稀代の悪女だったという事を知るという話。一般に悪女ものと呼ばれているが、それとはチョット違う気がする。人間を見つめる際、視点によって様々に写るという点を強調したかったのであろう。サスペンスなので、夫には普通の女性に見えたヒルダが、他の人から見ると悪女に見えたという展開にせざるを得なかったと思う。
最初にガーヴに接した作品であり、ガーヴにとって異色作である事から印象深い作品。