短編のくせに、つまり短い話なのにすっかり読者をだまし、最後にすっかり納得させるという高度な構成の連続です。訳者もいい味出してます。いくつか紹介しましょう。
肉屋(Buchers)
肉屋の主人ピュー老人が冷凍庫に閉じ込められて死んでいた。こいつは欲張りで従業員から何かと恨まれています。フランクは同僚のパーシーの犯行と思い、彼をかばって証拠隠滅を図ります。 登場人物と読者が一緒になって騙される構成となっています。
ゴーマン二等兵の運(Private Gorman's Luck)
よくよくツいてないゴーマン二等兵は軍を脱走して憲兵隊に捕まること七回目。しかし今回は空襲のどさくさにまぎれて死んだ戦友プラムリッジの服を身につけ、脱走。プラムリッジの美人の恋人の所にたどり着くのですが・・・。珍しくお約束のオチですが、その先も一ひねり。
秘密の恋人(The Secret Lover)
33歳の独身パムは営業で街に来るトレーシーと恋に陥いります。トレーシーには妻がいて「愛人」という格好ですが、納得ずくのパムは恋人として、毎週一晩彼女の家に招きます。ある日、パムの家に同じくトレーシーの「愛人」となっているギボンズ夫人が訪ねてきて騙されていたことを知らされます。愛人たち2人は共謀してトレーシーを毒殺しようと企てますが。
このオチは最後まで予想つきませんでした。
ベリーダンス(Belly Dance)
ベリーダンスの上手な私は、ダンカンに仲介されてとある富豪の老人宅で踊ることになります。この富豪というのが最後まで正体を明らかにしないので、怪しい屋敷に連れていかれる私は不安がいっぱい。実は富豪はダンカンの叔父で、ダンカンは死後その膨大な遺産を相続することになっており、私はその殺人の片棒を担がされる羽目になっていたのです。これもオチが読めませんでした。
厄介な隣人(Fall-Out)
新しく隣に越してきた新人類の夫婦のことをクローショーは気に入りません。生活保護受給者のくせに大勢を呼んでパーティーしたり、路上で演奏してお金をもらったり、庭に生えているリンゴの木を切り倒したりと、いちいちカチンと来ます。その隣人が核シェルターを作ると庭を掘り起こしだします。クローショーも隣の庭との境の部分を掘り起こし、地下で我が家に入り込んでるシェルターをけしからんと壊すのですが。厄介な隣人とはクローショー自身のことでした。
女と家(Woman and House)
銀行員の夫がロンドンから遠く離れた田舎のペンザンス支店に支店長として転勤することになりました。妻のアニタは夫と家探しをするとたった1件理想的な家があったのですが、持ち主であるグラス氏は家を売るにあたって「信頼できる人にしか売りたくないんですよ」と、夫婦の趣味や週末の予定などをしつこく尋ねるのでした。多くの購入希望者の中で、グラス氏のお眼鏡に適った夫婦はめでたく理想的な家を購入します。しかししばらくして亭主が事故死してしまいます。一連の事件は実は仕組まれていたことで。Woman and Houseという題名が光ります。
アラベラの回答(Arabella's Answear)
雑誌の人生相談コーナーの記事だけからなる作品。書簡小説の範疇に入るのでしょうが、伏線が非常に巧みで大変よくできています。少女の恋愛相談に対する相談員の返事だけで綴られます。最後に待っていたのは殺人事件ですが、この一人称の記事から無理なくストーリーが想像できるように工夫されています。本書の中で一番出来がいい作品なのであえて筋書きは紹介しません。この作品だけでも立ち読みする価値ありです。
見つめている男(The Staring Man)
新婚旅行から帰ってきたばかりの夫婦。そのの写真を見ていた新郎ジェイミーは別の場所で撮った2枚の写真に同じ人が写っていて新婦ドナを見つめているのに気づきます。実はドナは自分の素性を隠して富豪のジェイミーを捕まえたのですが、ジェイミーにもじつは隠し事があって・・・写真に写っていた男の謎と相まっての上質なサスペンス。
煙草屋の密室(The Locked Room)
メスターという謎の男。空き室になるのを11ヶ月も待って煙草屋の2階に部屋を借ります。事務所として使うというのですが鍵をかけて何もしません。そのうち刑事が目スターのことを聞きに大家の煙草屋に聞きに来ます。犯罪がらみかと心配になった大家がメスターに問いただすと「実は今となってはものすごく高価になった切手をこの部屋の壁に張りつけた女がいて、これを見つけた私は今は金持ちだ。」と姿を消します。刑事とともに鍵を破って部屋に入った大家が見たものは。
いずれの短編も登場人物が3-4人ですので、一人は殺されて残りのうちから犯人を予想するのですが、これがなかなかうまくいきません。というくらい期待を裏切るいい出来となっています。しかもギミックやトリックに頼らずに、人間関係や心情でストーリーを展開させますので読み物として楽しめる構成です。したがって本書を推理小説として読むとちょっと腹が立つかもしれません。でも読者をミスリードする話の面白さは折り紙付きです。ピーター・ラヴゼイは短編の方が面白いかも。
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煙草屋の密室 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 3-6) 文庫 – 1990/2/1
- 本の長さ393ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1990/2/1
- ISBN-104150747067
- ISBN-13978-4150747060
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1990/2/1)
- 発売日 : 1990/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 393ページ
- ISBN-10 : 4150747067
- ISBN-13 : 978-4150747060
- Amazon 売れ筋ランキング: - 624,086位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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2019年11月27日に日本でレビュー済み
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2013年3月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
私にはダイヤモンド警視シリーズほか、長編作家のイメージが強かったラヴゼイですが、いやはやさすがの手錬れですね、この短編集も文句なく、佳品、名品ばかり。どの作品も登場人物が魅力的かつ立体的に描かれ、何かしらヒネリやオチ、シャレがあります。傑作とは言いませんが、どれも一級のエンタテインメント。ラヴゼイ好きでもそうでなくとも、お奨めの一品、いや逸品です。ヤッカイなのは、ラヴゼイを読むとミステリィに期待するハードルが上がってしまい、普通の作品では満足できなくなってしまうこと。--なんとも困った作家です。
2004年3月16日に日本でレビュー済み
ピリッとした 最高の短編が揃っています。
水泳のクイックターンのように天地が逆転する ツイストの楽しみが、25mごとの短距離で繰り返されます。
違うのは、そのたび毎に予想外に回転させてもらえます。
読みながら残りのページが少なくなるのが惜しい一冊です。
私の好きなのは、「肉屋」「秘密の恋人」「パパに話したの?」「煙草屋の密室」って ところです。
これだから 英国人って奴はねえ。
(長編とは 別の作家だと思って読んで見てください)
水泳のクイックターンのように天地が逆転する ツイストの楽しみが、25mごとの短距離で繰り返されます。
違うのは、そのたび毎に予想外に回転させてもらえます。
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私の好きなのは、「肉屋」「秘密の恋人」「パパに話したの?」「煙草屋の密室」って ところです。
これだから 英国人って奴はねえ。
(長編とは 別の作家だと思って読んで見てください)
2002年12月25日に日本でレビュー済み
今や英国を代表する本格推理のベテラン、ピーター・ラヴゼイの第一短編集。長編で3つのシリーズや単発もので大好評を博しているのみならず、アンソロジー編集者としてもすぐれ、そして、何と短編でも素晴らしい切れ味を誇る、本当にすごい作家だ。
煙草屋の2階を仕事場に借りた男の不可解な行動。そこには200年前に建てられた建物ゆえの秘密が!!(表題作)ゾッとする殺人から奇妙な事件、犯罪でありながら心温まる物語など、鮮やかすぎる短編の連続攻撃にKO必至。
この人の短編に鮮やかにパンチを食らうのは本当に楽しい。作品集は少ないが、もしかしたらこの人の本領は短編ではないかと思うことがある。本当に、オチまで読んだら感嘆放心必至。
煙草屋の2階を仕事場に借りた男の不可解な行動。そこには200年前に建てられた建物ゆえの秘密が!!(表題作)ゾッとする殺人から奇妙な事件、犯罪でありながら心温まる物語など、鮮やかすぎる短編の連続攻撃にKO必至。
この人の短編に鮮やかにパンチを食らうのは本当に楽しい。作品集は少ないが、もしかしたらこの人の本領は短編ではないかと思うことがある。本当に、オチまで読んだら感嘆放心必至。
2007年3月24日に日本でレビュー済み
「クリスマスに捧げるミステリー」に収録されていた『シヴァース嬢の招待状』で、がぜん注目するようになった、ピーター・ラヴゼイの短編集。
『シヴァース嬢…』ほどのインパクトはなく、オチが途中で見当がついてしまう話も少なくない。だが、どの話もそれなりにひねりが効いていて、なかなかおもしろかった。ひねりもマイルドなら、ユーモアもアイロニーもマイルドだが、一種独特なスマートな味わいがある。また、当たりはずれがなく、イヤな気持ちになる話も全くないので、安心して楽しめる。
ラヴゼイの短編集には、他に「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」があるので、機会があればこちらも読んでみたい。
『シヴァース嬢…』ほどのインパクトはなく、オチが途中で見当がついてしまう話も少なくない。だが、どの話もそれなりにひねりが効いていて、なかなかおもしろかった。ひねりもマイルドなら、ユーモアもアイロニーもマイルドだが、一種独特なスマートな味わいがある。また、当たりはずれがなく、イヤな気持ちになる話も全くないので、安心して楽しめる。
ラヴゼイの短編集には、他に「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」があるので、機会があればこちらも読んでみたい。