「ポアロの最後を描いた作品が現に存在する以上、いつかは読まなければならない。でも、そのときは、少しでも先に延ばしたい」。それが、熱烈なポアロファンの偽らざる本音ではないだろうか。私も、そんなうちの一人であったのだが、ついに、私にも、この作品を読まざるを得ないときがやって来たようだ。
ちなみに、この作品は、出版こそ1975年なのだが、実際には1943年に完成したポアロ物22作目の長編であり、アガサは、この後も11作品を書き続けることになる。ポアロ物については、自伝で、「初めの3、4作で彼を見捨て、もっと若い誰かで再出発すべきであった」と述べているように、人気に押されて書き続けなければならなかった面もあったようだが、このポアロ最後の舞台を、スタイルズ荘という、ポアロのデビュー作であるとともに、自身のデビュー作でもあった記念すべき作品と同じ場に置いたところに、アガサのポアロに対する思い入れの深さを感じたのは、私だけではないだろう。
さて、この作品の冒頭で、ポアロは、「立居もままならず、どこへ行くのも車椅子の厄介になり、すっかり肉が落ちて痩せ衰え、顔には皺が刻まれている」という、衝撃的ともいえる残酷な老いの描写をされており、デビッド・スーシェ演じるところの、あの小粋で誇り高いポアロのそんな変わり果てた姿が脳裏に浮かび、いたたまれない気持ちにさせられる。
しかし、そんなポアロも、頭脳は健在である。スタイルズ荘の住人の中にいて、新たな殺人を犯そうとしている狡智に長けた謎の連続殺人者Xとの命を懸けた戦いには、アガサの騙しのテクニックが幾重にも張り巡らされており、見事の一言だ。衝撃の結末とあいまって、これはもう、ポアロ物集大成の最高傑作といってもよいだろう。最後までこんな素晴らしい傑作を隠していたアガサは、内心、ほくそ笑んでいたに違いない。
誇り高く散っていったポアロよ、さらば!
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カーテン (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 文庫 – 2004/11/18
アガサ・クリスティー
(著),
中村 能三
(翻訳)
- 本の長さ364ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2004/11/18
- ISBN-104151300333
- ISBN-13978-4151300332
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2004/11/18)
- 発売日 : 2004/11/18
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 364ページ
- ISBN-10 : 4151300333
- ISBN-13 : 978-4151300332
- Amazon 売れ筋ランキング: - 762,581位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
随分昔の本でしたが、それなりの状態で不満はありませんでした。
2016年7月13日に日本でレビュー済み
作者はミス・マープルの肩を持つと書いているが、気取り屋で、自信家(自惚れや?)の灰色の脳細胞の働きを読めなくなると、考えるだけで寂しい。
2010年3月10日に日本でレビュー済み
殺人を防げないポアロの弱点は、殺人が起きてから動く警察という経験から仕方が無いのだろう。
ポアロの最後も、ポアロのポアロによる、ポアロのための殺人で終わると言えばいいのだろうか。
最後まで殺人を防げないポアロの失態を、ポアロがどう受け止めるのか、ポアロそのものの限界がここで明確になる。
映像作品がなければ、ここまで読み次ぐ意欲が湧かなかったかもしれない。
ポアロを演じた俳優に乾杯。
ポアロに冥福を。
ポアロの最後も、ポアロのポアロによる、ポアロのための殺人で終わると言えばいいのだろうか。
最後まで殺人を防げないポアロの失態を、ポアロがどう受け止めるのか、ポアロそのものの限界がここで明確になる。
映像作品がなければ、ここまで読み次ぐ意欲が湧かなかったかもしれない。
ポアロを演じた俳優に乾杯。
ポアロに冥福を。
2011年4月16日に日本でレビュー済み
第二次大戦中に娘さんへの遺産として書かれたものですが、どういうわけか。
したがって、この作品の年齢にいたるまでの年齢のポアロも作者の健康が許せば存在しえたことになります。
主たるトリックは既存のものでしたが、これ以外の一連の作品を読んできていた者にとっては、納得できる内容だったのではないでしょうか。
わたしは違和感をおぼえませんでした。
予定された晩年、というものは、ミス・マープルものとは好対照で、『スリーピング・マーダー』は老年の別のスタイルでの受容をも意味するでしょう。
ボーヴォワールの『老い』を思い出しました。
そして、NHKのアニメーションで、ポワロとミス・マープルが共演しているのを観たときに、感慨があったものです。
したがって、この作品の年齢にいたるまでの年齢のポアロも作者の健康が許せば存在しえたことになります。
主たるトリックは既存のものでしたが、これ以外の一連の作品を読んできていた者にとっては、納得できる内容だったのではないでしょうか。
わたしは違和感をおぼえませんでした。
予定された晩年、というものは、ミス・マープルものとは好対照で、『スリーピング・マーダー』は老年の別のスタイルでの受容をも意味するでしょう。
ボーヴォワールの『老い』を思い出しました。
そして、NHKのアニメーションで、ポワロとミス・マープルが共演しているのを観たときに、感慨があったものです。
2009年9月19日に日本でレビュー済み
よくできた小説なのかもしれない。
だが、ポアロを愛してきたファンとしては、あまりにも苦い。
題材は見事。犯人の恐ろしさもリアルで最悪。
ラスト直前までポアロの最後を飾るにふさわしいと、大事に、大事に
読み進んだが、これはポアロ以外でかたちにしてほしかった作品だ。
ポアロのファンは彼の尊大なユーモアと正義感を愛している。
この結末は、EQ「最後の事件」以上に私に大きなため息をつかせた。
だが、ポアロを愛してきたファンとしては、あまりにも苦い。
題材は見事。犯人の恐ろしさもリアルで最悪。
ラスト直前までポアロの最後を飾るにふさわしいと、大事に、大事に
読み進んだが、これはポアロ以外でかたちにしてほしかった作品だ。
ポアロのファンは彼の尊大なユーモアと正義感を愛している。
この結末は、EQ「最後の事件」以上に私に大きなため息をつかせた。
2007年8月7日に日本でレビュー済み
ポアロさんも 寄る年波には勝てず・・・。
読んでいて 痛々しいものがあったけど、作者が大事に育てた・・そして共に歩んできた探偵との別れは こうであるべきなんだなと実感しました。
それは 私の愛するもう一人の 探偵 ドルリーレーン(エラリークイーン作)にも当てはまることでもありました。
実際に手を下さなくても 殺人を示唆する 憎き犯人。
ポアロの脳細胞が最後まで 冴えます。
読んでいて 痛々しいものがあったけど、作者が大事に育てた・・そして共に歩んできた探偵との別れは こうであるべきなんだなと実感しました。
それは 私の愛するもう一人の 探偵 ドルリーレーン(エラリークイーン作)にも当てはまることでもありました。
実際に手を下さなくても 殺人を示唆する 憎き犯人。
ポアロの脳細胞が最後まで 冴えます。