シーモア・ベンザー(1921-2007)の評伝。原著は1999年刊。草稿にはベンザーも目を通している。
ショウジョウバエで遺伝の研究、しかもカルテックにいたので、てっきりトーマス・モーガンの直系と思っていた。でも、違った。物理学の出身で、その後生物物理に転向し、動物行動学や心理学にも目を向けるようになった。本格的に行動の遺伝に取り組み始めるのは、45歳でカルテックに移ってから。ちょうどそこにはモーガンのショウジョウバエがいた。
タイトルのように、ベンザーはショウジョウバエで時間・愛・記憶に関わる遺伝子の研究をしたが、最初の頃は視覚の形成に関わる遺伝子の研究もした。カルテックに移った時には(あの分離脳の)ロジャー・スペリーの研究室にいたというのが意外。
ベンザーの弟子たちは、2017年に時計遺伝子のクローニングの研究でノーベル生理学・医学賞を受賞。この遺伝子を発見したのはコノプカとベンザーだった。当時コノプカは23歳の大学院生。彼の前途は洋々たるものに見えたが、完璧を期してなかなか業績を出さなかったため、結局どこのテニュアも得ることができず、40過ぎで研究の世界を去った。本書が書かれた時には、「カルテックのキャンパスから数ブロック」のところに、「カフカの小説のKのように誰にも知られず一人で住んでいた」という。2015年58歳で逝去(obituaryがCell誌に掲載されている)。
レトリックが多用されているため、通読には少々難儀するが、重要な労作。
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時間・愛・記憶の遺伝子を求めて: 生物学者シーモア・ベンザーの軌跡 単行本 – 2001/12/1
- 本の長さ426ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2001/12/1
- ISBN-104152083883
- ISBN-13978-4152083883
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
国際生物学賞を受賞した生物学者・ベンザーによる、行動の遺伝的解剖学とは? 時間感覚に異常を来す遺伝子、愛の生活に変化を加える遺伝子等を発見したベンザー達の、その最初期から現在に至る経過を余すところなく伝える。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2001/12/1)
- 発売日 : 2001/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 426ページ
- ISBN-10 : 4152083883
- ISBN-13 : 978-4152083883
- Amazon 売れ筋ランキング: - 962,223位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 490位遺伝子・分子生物学
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2004年9月25日に日本でレビュー済み
分子生物学の系譜ではウニ、線虫、ホヤ、酵母、大腸菌、赤パンカビ、ファージ等々
の小生物が素晴らしい成果をあげてきた。その中で分子遺伝学の世界での主役は線虫
とハエであるが、モーガン一派のあとを次ぎ「行動の遺伝学的解剖」という切り口で
ショウジョウバエ第二の隆盛を築いた一人がシーモア・ベンザーである。ニーレンバー
グやオチョアらがtriplet codonの謎を次々に解明していった時代に、「コドンの縮合」
で華々しく分子生物学にデビューしたベンザー。デルブリュックの薫陶を得て、
ファージr2変異株を用いて古典的な手法ながら遺伝子の「交差」という現象を実証した
のもベンザーである。これだけでも素晴らしい実績である。
驚くべきことに60年代後半には彼は分子生物学に見切りをつける。このあたりは線虫
に転向したブレンナーの生き方に重なる。そして後半生をショウジョウバエに打ち込み
様々な変異体の行動異常をもとに新しい生物学をうち立てていく。
常に「辺境」にいることを好み、自分達の開拓した分野に人が集まり始めると、さっと
身を引いて次のターゲットに移る。面白い研究者である。
読み物としては面白いが、研究内容をもう少し掘り下げて欲しかった。
特に最近の動静についての記述がやや散漫になっていると思う。
余りに文学的で筆が流れるパートも多いのだが、この学問領域の「伝記」的読み物が
少ない中では、充分存在価値があると思われる。もちろん一読の価値は多いにあるのである。
の小生物が素晴らしい成果をあげてきた。その中で分子遺伝学の世界での主役は線虫
とハエであるが、モーガン一派のあとを次ぎ「行動の遺伝学的解剖」という切り口で
ショウジョウバエ第二の隆盛を築いた一人がシーモア・ベンザーである。ニーレンバー
グやオチョアらがtriplet codonの謎を次々に解明していった時代に、「コドンの縮合」
で華々しく分子生物学にデビューしたベンザー。デルブリュックの薫陶を得て、
ファージr2変異株を用いて古典的な手法ながら遺伝子の「交差」という現象を実証した
のもベンザーである。これだけでも素晴らしい実績である。
驚くべきことに60年代後半には彼は分子生物学に見切りをつける。このあたりは線虫
に転向したブレンナーの生き方に重なる。そして後半生をショウジョウバエに打ち込み
様々な変異体の行動異常をもとに新しい生物学をうち立てていく。
常に「辺境」にいることを好み、自分達の開拓した分野に人が集まり始めると、さっと
身を引いて次のターゲットに移る。面白い研究者である。
読み物としては面白いが、研究内容をもう少し掘り下げて欲しかった。
特に最近の動静についての記述がやや散漫になっていると思う。
余りに文学的で筆が流れるパートも多いのだが、この学問領域の「伝記」的読み物が
少ない中では、充分存在価値があると思われる。もちろん一読の価値は多いにあるのである。