それぞれの思惑を秘めたイギリス系の人間と搾取と差別に会うオーストラリアの先住民の一人一人の主観を並置して描いた小説。ここで出てくるイギリス系登場人物の先住民に対する偏見と差別意識は今の視点からか見ると勘違いも甚だしく(例えば他民族は能力的にアングロサクソンに劣るとか、エデンはタスマニアにあるとかいう宗教的押し付け等)、それ故偏見と軽蔑に満ちた英国の人間たちと独自の文化と文明を持つ先住民の語りを等価に並列して載せることで全ての人間が平等でありその主張も正しく尊重されねばならないというのが多分、著者のこの小説で言いたかったことのように思いました。オーストラリア先住民の虐げられた歴史を描くのがこの小説の主筋ではないようですが、似たようなタイプの小説にピーター・ケアリーの「イリワッカー」を思い出しました。どちらの小説もギャグやユーモアを満載しながら先住民の辿った道筋を描いた小説という意味で近しいと思います。まぁ私の誤読かもしれませんが、以上のようなことを抜きにしたもユーモア溢れる歴史小説としても堪能できます。
蛇足を少し。誤字脱字が多く校閲が不首尾。それと、この人の親父がナイジェル・ニールと聞いて少し驚きました。「トマトケイン」を持ってて結構好きなので。まだ読むに値する物があれば翻訳して頂きたいです。それと個人的にはこの叢書からでるという噂のジョン・クロウリー「エジプト」は何時出るのでしょうかと気がかりなのですが・・・
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
英国紳士、エデンへ行く (プラチナ・ファンタジイ) 単行本 – 2007/10/25
エデンの園を求める英国紳士たちの船旅を、語りの超絶技巧+ユーモアで描く奇想大作
1857年ヴィクトリア朝英国、科学的な地質研究によって、信仰のよりどころの危機にさらされた牧師ウィルソンは独学で地質学を修得。“エデンはタスマニアにある”という新説を発表し、キリスト教世界における時代の寵児となる。そしてついには、医師ポッターと植物学者レンショーを引き連れて、タスマニアへと実証の旅に出発する。だが、一行がチャーターした〈シンセリティ〉号は、船長をはじめ、英国人を目の敵にするマン島人だけが乗り組むいわくつきの帆船。そのため、税関史との数々のトラブルに巻き込まれたり、海賊に襲撃されたりと波瀾万丈の船旅が続く。さらに、性格が水と油の牧師と医師の対立は、旅程を追うにつれ、激化する一方。地球をほぼ半周する珍道中が繰り広げられるのだった。
一方、植民地化がようやく緒についたばかりの1820年のタスマニアでは、同化政策が積極的に進められていた。アボリジニの母親と白人の父親のあいだに生まれたため、母親やアボリジニ社会から疎まれて育ったピーヴェイは、種族の存続のため、白人の言葉を覚え、白人社会に入り込もうとしていくが……。
やがてウィルソンら一行はタスマニアに到着し、ついにエデンを目指すべく探検に出発する。そこには、ガイドとして彼らに随行するピーヴェイの姿があった。一行が英国から遙か東方の果ての地で目にしたものとは……。
博覧強記の作者ニールが、綿密な時代考証のもと、総勢20人の語り手を創造し綴った歴史奇想大作。2000年度ウィットブレッド賞受賞。
1857年ヴィクトリア朝英国、科学的な地質研究によって、信仰のよりどころの危機にさらされた牧師ウィルソンは独学で地質学を修得。“エデンはタスマニアにある”という新説を発表し、キリスト教世界における時代の寵児となる。そしてついには、医師ポッターと植物学者レンショーを引き連れて、タスマニアへと実証の旅に出発する。だが、一行がチャーターした〈シンセリティ〉号は、船長をはじめ、英国人を目の敵にするマン島人だけが乗り組むいわくつきの帆船。そのため、税関史との数々のトラブルに巻き込まれたり、海賊に襲撃されたりと波瀾万丈の船旅が続く。さらに、性格が水と油の牧師と医師の対立は、旅程を追うにつれ、激化する一方。地球をほぼ半周する珍道中が繰り広げられるのだった。
一方、植民地化がようやく緒についたばかりの1820年のタスマニアでは、同化政策が積極的に進められていた。アボリジニの母親と白人の父親のあいだに生まれたため、母親やアボリジニ社会から疎まれて育ったピーヴェイは、種族の存続のため、白人の言葉を覚え、白人社会に入り込もうとしていくが……。
やがてウィルソンら一行はタスマニアに到着し、ついにエデンを目指すべく探検に出発する。そこには、ガイドとして彼らに随行するピーヴェイの姿があった。一行が英国から遙か東方の果ての地で目にしたものとは……。
博覧強記の作者ニールが、綿密な時代考証のもと、総勢20人の語り手を創造し綴った歴史奇想大作。2000年度ウィットブレッド賞受賞。
- 本の長さ574ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2007/10/25
- ISBN-104152088699
- ISBN-13978-4152088697
商品の説明
著者について
マシュー・ニール MATTHEW KNEALE
1960年ロンドン生まれ。オックスフォード大学のモードリン・コレッジで近代史を学んだニールは、卒業後、日本で英語教師として1年間を過ごし、その間に短篇小説を書き始める。これまで、5作の長篇と、中篇、短篇集をそれぞれ1作発表しており、日本を舞台にした第一長篇 Whore Banquets(1987/2002年に Mr. Foreigner と改題)で、サマセット・モーム賞を受賞。第二長篇 Inside Rose's Kingdom(1989)を経て、1840年代ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした第三長篇 Sweet Thames(1992)を発表。2000年、同じくヴィクトリア朝英国を時代背景とした本書『英国紳士、エデンへ行く』を刊行。英国ユーモア小説の伝統に、ポスト・コロニアリズムを盛り込んだ意欲的な作品で、英国文芸界から絶賛を浴び、ウィットブレッド賞を受賞する。ブッカー賞の最終候補ともなったこの大作は、現時点でのニールの代表作である。2007年に久々の長篇 When We Were Romans を発表した。
1960年ロンドン生まれ。オックスフォード大学のモードリン・コレッジで近代史を学んだニールは、卒業後、日本で英語教師として1年間を過ごし、その間に短篇小説を書き始める。これまで、5作の長篇と、中篇、短篇集をそれぞれ1作発表しており、日本を舞台にした第一長篇 Whore Banquets(1987/2002年に Mr. Foreigner と改題)で、サマセット・モーム賞を受賞。第二長篇 Inside Rose's Kingdom(1989)を経て、1840年代ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした第三長篇 Sweet Thames(1992)を発表。2000年、同じくヴィクトリア朝英国を時代背景とした本書『英国紳士、エデンへ行く』を刊行。英国ユーモア小説の伝統に、ポスト・コロニアリズムを盛り込んだ意欲的な作品で、英国文芸界から絶賛を浴び、ウィットブレッド賞を受賞する。ブッカー賞の最終候補ともなったこの大作は、現時点でのニールの代表作である。2007年に久々の長篇 When We Were Romans を発表した。
登録情報
- 出版社 : 早川書房; 46判上製版 (2007/10/25)
- 発売日 : 2007/10/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 574ページ
- ISBN-10 : 4152088699
- ISBN-13 : 978-4152088697
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,558,107位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 18,057位英米文学研究
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
2グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2011年4月17日に日本でレビュー済み
2007年11月17日に日本でレビュー済み
500ページを超えるボリュームにもかかわらず、飽きることなく最後まで堪能できた素晴らしい作品でした。
20名ほどの語り手が登場するなかで主に中心となるのはマン島出身のキューリ船長、「エデンの園」はタスマニアにあると信じているウィルソン牧師、外科医でありサクソン人が人類の中でもっとも優れていると確信しているポッター医師、無理やり探検に参加させられた若き植物学者ティモシー、そしてアボリジニの母と白人の父の間に生まれたピーヴェイ。
それぞれの人物がそれぞれの偏見を心に抱えており、その偏見こそがこの物語を最後まで引っ張っていくような印象でした。
キューリ船長は、英国本土の人間からは蔑まれるマン島出身者。
作者自身の視点はこの船長に一番近いようです。
読み始めの印象は、イギリス人お得意の「ユーモア小説」ですが、読み進むにつれ、そんな単純な話じゃないことが証明されていきます。
「人種による偏見」や盲目的なキリスト教信仰への作者の批判は特に痛烈ですが、それをユーモアのオブラートに包むやり方は秀逸です。
19世紀の英国人がいかに残酷な方法でタスマニアのアボリジニを絶滅へ追いやったかという事実は、重苦しい気持ちにならずに読むことは不可能ですが、その事実をピーヴェイの視点から真摯に描きつつ、最後の最後までエンターテイメント作品としての面白さは失いません。
そして個人的には、憎しみと悲劇の元凶である「偏見」から一番自由だったティモシーの存在に、作者が落とした希望の種を感じました。
色々なことを考えさせてくれるこんな優れた作品を、素晴らしい翻訳で出版してくれた早川書房さんに感謝です。
20名ほどの語り手が登場するなかで主に中心となるのはマン島出身のキューリ船長、「エデンの園」はタスマニアにあると信じているウィルソン牧師、外科医でありサクソン人が人類の中でもっとも優れていると確信しているポッター医師、無理やり探検に参加させられた若き植物学者ティモシー、そしてアボリジニの母と白人の父の間に生まれたピーヴェイ。
それぞれの人物がそれぞれの偏見を心に抱えており、その偏見こそがこの物語を最後まで引っ張っていくような印象でした。
キューリ船長は、英国本土の人間からは蔑まれるマン島出身者。
作者自身の視点はこの船長に一番近いようです。
読み始めの印象は、イギリス人お得意の「ユーモア小説」ですが、読み進むにつれ、そんな単純な話じゃないことが証明されていきます。
「人種による偏見」や盲目的なキリスト教信仰への作者の批判は特に痛烈ですが、それをユーモアのオブラートに包むやり方は秀逸です。
19世紀の英国人がいかに残酷な方法でタスマニアのアボリジニを絶滅へ追いやったかという事実は、重苦しい気持ちにならずに読むことは不可能ですが、その事実をピーヴェイの視点から真摯に描きつつ、最後の最後までエンターテイメント作品としての面白さは失いません。
そして個人的には、憎しみと悲劇の元凶である「偏見」から一番自由だったティモシーの存在に、作者が落とした希望の種を感じました。
色々なことを考えさせてくれるこんな優れた作品を、素晴らしい翻訳で出版してくれた早川書房さんに感謝です。