聡明だけど勝ち気なメイの約1年間の奮闘が、老婆の霊との奇怪な交信、脱魂と憑衣を繰り返すような彼女の言動、寓話的なメディカル・ストーリーなどとともに描かれてます。山村の住民像と人間関係、痴話もどきはリアルで、というか詳細すぎて長過ぎで重い感じもしますし最後の具体的な結末は余りにも確固たるモノに多少余韻をそがれそうです。ただ主人公がこの手の作品恒例の少女ではなく、酸いも甘いも噛みわけた四十路すぎの女性だけに決して現実をぼかしたり結末からフェードアウトせず実直に物語る姿勢には大作を駆動する直線的な力強さがあります。
シャーマニズム/アニミズムへの憧憬からなると思われるメイ/エアを通しての霊魂世界観の展望は日本人から見れば多少しつこくは感じられます。しかし森羅万象の全てが神性の対象となる太古の風景と、全てが検索の対象となる未来の電脳環境とを重ねあわせそれらを関係づける高次で特殊な機能が<エア>であるということは描ききれてると思いました。単なる技術革新によるグローバリゼーションの象徴だけでは無さそうです。そしてこの<エア>とはシンボル/物語を介して世界を解釈しその秩序を造り上げてきた人類なら誰もが潜在的に持ってる能力でもあるのでしょう。メイが体裁と亡魂という足枷を引きずりながらも未来に向かって<エア>を実践し物語を駆動していく姿は不器用かもしれませんが小気味良くもあります。それはその姿が人類の共通の軌跡を辿ってるからなのかもしれません。そしてその軌跡の中の全ての時点に「失ってしまった美しいものとこれから失う美しいもの」があるんだと考えさせてくれる物語でした。
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エア (プラチナ・ファンタジイ) 単行本 – 2008/5/23
未知のテクノロジーがもたらす衝撃を、
ひとりの女性の人生に託して描く大作。
2020年、中国、チベット、カザフスタンに国境を接する山岳国家カルジスタンのキズルダー村では、先祖伝来の棚田を耕し、昔から変わらぬ生活を続ける人々が暮らしていた。中国系女性チュン・メイは、そんな村の女性のために、町にでかけてドレスや化粧品を調達し収入を得る“ファッション・エキスパート”だった。
ある日、キズルダー村で、新システム〈エア〉のテスト運用が行なわれることになった。〈エア〉は脳内にネット環境を構築し、個々人の脳から直接アクセスを可能にする新ネットワーク・システムで、一年後の全世界一斉導入が予定されていた。
だが、テストの最中に思わぬ悲劇が起きる。メイの隣人タンおばあさんが、システムの誤作動が原因で事故死してしまったのだ。テスト中、メイは〈エア〉内でタンおばあさんと交感、彼女の全人生を体験する。それ以降、おばあさんの意識はメイの脳内に住みついてしまうが、まるでその代償であるかのように、メイは偶然〈エア〉にアクセス可能なアドレスを取得する。それをきっかけにメイの人生は急転回を見せはじめる。〈エア〉がメイに、そして人類にもたらすものとは……。
SF界を代表する物語作家が、異質なテクノロジーとの出会い、アジアの小村から世界を変えることになるひとりの女性の人生を、ストレートに描いた巨篇。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞。
ひとりの女性の人生に託して描く大作。
2020年、中国、チベット、カザフスタンに国境を接する山岳国家カルジスタンのキズルダー村では、先祖伝来の棚田を耕し、昔から変わらぬ生活を続ける人々が暮らしていた。中国系女性チュン・メイは、そんな村の女性のために、町にでかけてドレスや化粧品を調達し収入を得る“ファッション・エキスパート”だった。
ある日、キズルダー村で、新システム〈エア〉のテスト運用が行なわれることになった。〈エア〉は脳内にネット環境を構築し、個々人の脳から直接アクセスを可能にする新ネットワーク・システムで、一年後の全世界一斉導入が予定されていた。
だが、テストの最中に思わぬ悲劇が起きる。メイの隣人タンおばあさんが、システムの誤作動が原因で事故死してしまったのだ。テスト中、メイは〈エア〉内でタンおばあさんと交感、彼女の全人生を体験する。それ以降、おばあさんの意識はメイの脳内に住みついてしまうが、まるでその代償であるかのように、メイは偶然〈エア〉にアクセス可能なアドレスを取得する。それをきっかけにメイの人生は急転回を見せはじめる。〈エア〉がメイに、そして人類にもたらすものとは……。
SF界を代表する物語作家が、異質なテクノロジーとの出会い、アジアの小村から世界を変えることになるひとりの女性の人生を、ストレートに描いた巨篇。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞。
- 本の長さ475ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2008/5/23
- ISBN-104152089229
- ISBN-13978-4152089229
商品の説明
著者について
ジェフ・ライマン
GEOFF RYMAN
1951年カナダ生まれ。映画評論家として活躍するかたわら小説の執筆を始め、1976年に短篇“The Diary of the Translator”でデビュー。本書同様アジアの小国を舞台にした中篇「征たれざる国」(1984)で、世界幻想文学大賞、英国SF協会賞を受賞。一躍期待の作家として注目を集めるようになる。1985年、第一長篇であるファンタジイThe Warrior Who Carried Life を発表。つづくバイオSFの第二長篇The Child Garden (1989) は、クラーク賞とジョン・W・キャンベル記念賞を受賞する。そして、1992年、日本では初の長篇紹介作となる第三長篇『夢の終わりに…』を上梓。『オズの魔法使い』を下敷きにしたこのモダン・ファンタジイの傑作は、世界幻想文学大賞の候補になり、日本の読書界でも高い評価を受けた。第四長篇253(1997)、第五長篇Lust(2001)を経て、2004年に発表された本書『エア』は、英国SF協会賞、クラーク賞、ティプトリー賞の主要SF三賞を受賞、21世紀初頭のSF界を代表する作品となった。現在展開中のラジカルなムーヴメント“マンデーンSF”の提唱者でもあるライマンは、まぎれもなく英米SF界を代表する作家のひとりである。
GEOFF RYMAN
1951年カナダ生まれ。映画評論家として活躍するかたわら小説の執筆を始め、1976年に短篇“The Diary of the Translator”でデビュー。本書同様アジアの小国を舞台にした中篇「征たれざる国」(1984)で、世界幻想文学大賞、英国SF協会賞を受賞。一躍期待の作家として注目を集めるようになる。1985年、第一長篇であるファンタジイThe Warrior Who Carried Life を発表。つづくバイオSFの第二長篇The Child Garden (1989) は、クラーク賞とジョン・W・キャンベル記念賞を受賞する。そして、1992年、日本では初の長篇紹介作となる第三長篇『夢の終わりに…』を上梓。『オズの魔法使い』を下敷きにしたこのモダン・ファンタジイの傑作は、世界幻想文学大賞の候補になり、日本の読書界でも高い評価を受けた。第四長篇253(1997)、第五長篇Lust(2001)を経て、2004年に発表された本書『エア』は、英国SF協会賞、クラーク賞、ティプトリー賞の主要SF三賞を受賞、21世紀初頭のSF界を代表する作品となった。現在展開中のラジカルなムーヴメント“マンデーンSF”の提唱者でもあるライマンは、まぎれもなく英米SF界を代表する作家のひとりである。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2008/5/23)
- 発売日 : 2008/5/23
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 475ページ
- ISBN-10 : 4152089229
- ISBN-13 : 978-4152089229
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,378,841位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年8月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2008年7月6日に日本でレビュー済み
日本経済新聞の書評で★が5つ!
そうか!そんなにおもしろいのか!!
と期待して、読みました。
でも、期待してはダメですね。
全くおもしろくありませんでした。
私の読解力がないのでしょうか。
隣人と不倫した後、夫の弟と懇ろになり、胃で妊娠して出産する・・・
怒ったり、ヒスを起こしたり、
さっきまで良いと言っていたことを、スグ後に全否定。
支離滅裂な主人公につきあうのは、
作者への不信感をつのらせるだけでありました。
訳者あとがきにあるとおり、
主人公の行動に共感して読める読者なら、
もしかすると、おもしろいかもしれません。
そうか!そんなにおもしろいのか!!
と期待して、読みました。
でも、期待してはダメですね。
全くおもしろくありませんでした。
私の読解力がないのでしょうか。
隣人と不倫した後、夫の弟と懇ろになり、胃で妊娠して出産する・・・
怒ったり、ヒスを起こしたり、
さっきまで良いと言っていたことを、スグ後に全否定。
支離滅裂な主人公につきあうのは、
作者への不信感をつのらせるだけでありました。
訳者あとがきにあるとおり、
主人公の行動に共感して読める読者なら、
もしかすると、おもしろいかもしれません。
2013年2月1日に日本でレビュー済み
私の中では「征たれざる国」の作家として記憶していたジェフ・ライマン。他を読む機会がなく、長編はこれが始めての作品となりました。
最初の読後感としては、良作だけど、ちょっと緩いかなというものです。SF的なガジェットやアイデアを排するのは悪くないのですが、それらに頼らない分、ストーリーの飛躍がなく、まどろっこしさを感じるのも事実です。またSFとしてもファンタジーとしてもちょっと甘さが気になります。
なのでファンタジーでもSFでもなく、普通小説と思って読んだほうがよいと思います。
登場人物のほとんどが、いかにも人間臭い駄目な中年男や見栄っ張りの中年女だというのも大きな理由でしょうか。その人間模様と、後進国と先進国、一国の中でのマイノリティの問題などを描いた小説として読むのなら、かなり満足できる作品です。
最初の読後感としては、良作だけど、ちょっと緩いかなというものです。SF的なガジェットやアイデアを排するのは悪くないのですが、それらに頼らない分、ストーリーの飛躍がなく、まどろっこしさを感じるのも事実です。またSFとしてもファンタジーとしてもちょっと甘さが気になります。
なのでファンタジーでもSFでもなく、普通小説と思って読んだほうがよいと思います。
登場人物のほとんどが、いかにも人間臭い駄目な中年男や見栄っ張りの中年女だというのも大きな理由でしょうか。その人間模様と、後進国と先進国、一国の中でのマイノリティの問題などを描いた小説として読むのなら、かなり満足できる作品です。