カナダのトロントで’71年に生まれたSF作家、コリイ・ドクトロウが’08年に発表した4冊目の長編にあたる本書は、初のヤング・アダルト向け小説。ヒューゴー賞とネビュラ賞という二大SF賞の最優秀長編賞候補となり、それらに次ぐSF賞であるジョン・W・キャンベル記念賞、プロメテウス賞、ホワイトパイン賞のそれぞれ’09年度の受賞作となった。≪ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー・リスト≫に7週間リスト入りするなど全米でベストセラーを記録した。
サンフランシスコで未曾有の爆弾テロが発生。たまたま授業を抜け出し、友人3人とARG(代替現実ゲーム)を行おうとした‘ぼく’こと17才の高校生にして天才ハッカーのマーカスは事件に巻き込まれ、負傷した親友を助けようとして逮捕される。‘ぼく’たちがネット上で不審な動きをしたかどでテロリストの疑いをかけ、拘束したのは国土安全保障省(DHS)で、そこで屈辱的な扱いを受けた‘ぼく’は釈放後、友人たちとガールフレンドの協力を得ながら“国民の自由とプライバシー”のために強大な国家権力であるDHSと対決する。
DHSがテロ対策として市民が持つファストパスからその人の行動を追跡するなど、ここで謳われているのは、国家権力が“本気”を出せば、ネット上で全国民のプライバシーを完全に監視できる<警察国家>となる危機である。‘ぼく’は国家権力の影響の及ばないXネットなるもので、それらを妨害し、逆手にとって大規模な逆襲大会を催すのだった。
ヤング・アダルト小説としての本書は、‘ぼく’がそんなふうに勇気と機転とコンピューターの博学な知識を武器に、傷つき、悩み、真剣な恋を経験しながら闘うようすを描いた瑞々しい青春ストーリーである。
若者がハマり自在に操るネットの世界の詳細は、50過ぎの私にはいまひとつピンと来なかったが、ネット上で国民を意のままに監視できる国家権力の脅威は、データが第三者によってゆがめられて悪用された場合、少し前の映画、サンドラ・ブロック主演の『ザ・インターネット』やウィル・スミス主演の『エネミー・オブ・アメリカ』、ジェフリー・ディーヴァーのミステリー『ソウル・コレクター』等で紹介された通りであり、たとえそれらが改竄・悪用されなくとも「9・11」以降、一層現実味を増してきた。
本書はネットやデジタル技術の脅威に警鐘を鳴らす意味でも興味深い一冊である。
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リトル・ブラザー 単行本(ソフトカバー) – 2011/3/10
【津田大介氏・推薦】 サンフランシスコに住む17歳のマーカス・ヤロウは、コンピューターやゲームに強い、ごくふつうの高校生。じつは、w1n5t0n--ウィンストンのハンドルネームをもつハッカーでもあった。校内に設置された歩行認識カメラをだましたり、居丈高な生徒指導主任の個人情報を調べたりするのは、お手のもの。 だが、ある日、授業中に親友のダリルといっしょに学校を抜けだし、他の高校の仲間たちと遊んでいた最中に、世界が永遠に変わってしまう事件が起こった。サンフランシスコ湾で、大規模な爆弾テロがおこなわれたのだ。 警報が鳴りひびくなか、避難しようとしていたマーカスたちは、テロリストの疑いをかけられ、国土安全保障省に拘束されてしまった。最初は尋問に抵抗していたマーカスだったが、やがて肉体と精神の両方をいためつける厳しい拷問をうけるはめに…… ネット仲間やガールフレンドとともに、強大な国家権力に対して果敢な戦いをくりひろげる高校生マーカスの活躍をあざやかに描く、全米ベストセラー長篇。
- 本の長さ448ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2011/3/10
- ISBN-104152091991
- ISBN-13978-4152091994
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2011/3/10)
- 発売日 : 2011/3/10
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 448ページ
- ISBN-10 : 4152091991
- ISBN-13 : 978-4152091994
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,008,143位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 273,203位文学・評論 (本)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年3月27日に日本でレビュー済み
2011年3月19日に日本でレビュー済み
コリイ・ドクトロウの名前も、この本の存在も知ってはいたんだけど、読むのは初めて。こういったコンピュータ・ネットワークが出てくるSFは大好きなので期待していたんだけど、期待以上の作品。今年読んだSF、いやSFだけでなく全小説の中でも最高だ。古くはヴァーナー・ヴィンジの『マイクロチップの魔術師』、最近(でもないか)ではニール・スティーブンスンの『クリプトノミコン』が好きなら、この作品もきっと楽しく読めるだろう。
17歳の少年ハッカーがサンフランシスコで起きた大規模テロに巻き込まれ、政府の機関に拘束されたことをきっかけに、セキュリティを理由として市民の徹底した監視に対して反抗するという話。主人公の恋愛話も盛り込まれたジュブナイル、ヤングアダルト小説なんだけれど、内容は市民の自由と安全保障、セキュリティとの緊張関係をハッカー的な視点で描いており、とても面白かった。
現代版ジョージ・オーウェルの『1984』とも称されているが、そこまでの深さ、怖さは、実は感じられない。自由を守る正義の味方、ハッカーと邪悪な国家、政府という図式は、あまりにも単純化しすぎているきらいもあるが、9・11以後、国民の安全を守るという大義名分のもと、監視を強化しているアメリカで、この本が出版され、多くの読者を得たということには、アメリカの社会の良心の存在を感じる。
この本でも触れられているハッカーの精神やサイファーパンクの思想には、共感を覚えるが、ちょうど、今、読んでいる東浩紀の『情報環境論集』において、現代の監視社会への反抗手段としてのハッカーの活動では有効ではないという記述もあり、そんなに単純な図式では描けないということも理解している。でも、この本の主人公たちが求める「自由」、そしてそれを実現するための行動力というものは、非常に魅力的だ。読んでいて、胸が熱くなった。もはや、すでに少年どころか、青年ですらなくなった自分だが、著者のメッセージは確実に伝わってきた。最高でした。
17歳の少年ハッカーがサンフランシスコで起きた大規模テロに巻き込まれ、政府の機関に拘束されたことをきっかけに、セキュリティを理由として市民の徹底した監視に対して反抗するという話。主人公の恋愛話も盛り込まれたジュブナイル、ヤングアダルト小説なんだけれど、内容は市民の自由と安全保障、セキュリティとの緊張関係をハッカー的な視点で描いており、とても面白かった。
現代版ジョージ・オーウェルの『1984』とも称されているが、そこまでの深さ、怖さは、実は感じられない。自由を守る正義の味方、ハッカーと邪悪な国家、政府という図式は、あまりにも単純化しすぎているきらいもあるが、9・11以後、国民の安全を守るという大義名分のもと、監視を強化しているアメリカで、この本が出版され、多くの読者を得たということには、アメリカの社会の良心の存在を感じる。
この本でも触れられているハッカーの精神やサイファーパンクの思想には、共感を覚えるが、ちょうど、今、読んでいる東浩紀の『情報環境論集』において、現代の監視社会への反抗手段としてのハッカーの活動では有効ではないという記述もあり、そんなに単純な図式では描けないということも理解している。でも、この本の主人公たちが求める「自由」、そしてそれを実現するための行動力というものは、非常に魅力的だ。読んでいて、胸が熱くなった。もはや、すでに少年どころか、青年ですらなくなった自分だが、著者のメッセージは確実に伝わってきた。最高でした。