3編からなる連作です。第1話の「ゲルマニウムの夜」ですが、ドン・セルベラ院長への主人公の性的奉仕は某芸能事務所の長年にわたるカスリマ・トップの性的虐待を連想させ、ある意味予言的小説であると、感じました。白という犬は白人神父を象徴しているのかも知れません。また、以下の表現は深い示唆に富んでいます。→社会は規模を拡大された、しかも壊れかけた修道院のようなものにすぎないのだから。
アスピラントとのセックスの描写で、<女の積極的な行動と体勢は記述をはばかられる>とあり、あえて過激な性的描写を避けたのか不明ですが、その辺をきちんと書いて欲しかったので、少しだけ残念です。
第2話の「王国の犬」ですが、私事で恐縮ですが子供の頃、友人と二人で先輩を漁網にぐるぐる巻きにして泣かしたことがあり、やはり子供や少年にはそのような残虐性が潜んでいるのだと振り返り、結構この主人公に共感してしまいました。
第3話の「舞踏会の夜」ですが、舞踏会とはそう言う意味であったかと、読んでみて納得しました。主人公が三浦の傍若無人ぶりに堪忍袋の緒が切れて、男性性器を強く蹴るシーンは(小説の中では蹴る理由は違っていますが)読んでいてすっきりしました。主人公がこのままやられっぱなしなのは虚構の世界の小説とは言え、辛いものがあります。現代社会に置いても、いじめ問題は学校でも会社でもどこでもありうる話で、この小説もそれに対して深い示唆をあたえてくれます。
全体的な感想としては、作者はキリスト教の矛盾を鋭く指摘していて感心しました。例えば、カトリックが真の宗教ならば、天皇制と相容れることなどあり得ないとか、モスカ神父が「神をつくったのは人間だ」と主人公に反論するシーンなど。ただ、議論の中で説明になっているところが多く見られ、その辺は説明ではなく描写するなりなんなり、別の方法で表現して欲しかったと思います。何れにしても、とても素晴らしい作品で大変気に入っています。
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ゲルマニウムの夜 単行本 – 1998/9/1
花村 萬月
(著)
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人を殺し、修道院兼教護院に逃げ戻った青年・朧。冒涜の限りを尽くすことこそ、現代では神に最も近く在る道なのか。戦慄の問題作
- 本の長さ251ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日1998/9/1
- ISBN-104163180702
- ISBN-13978-4163180700
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
人を殺し、育った修道院兼救護院に舞い戻った青年・朧。修道女を犯し、暴力の衝動に身を任せ、冒涜と倫理のはざまで揺れる日々。目指すは、僕の王国-世紀末の虚無の中、「神の子」は暴走する。第119回芥川賞受賞作。
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (1998/9/1)
- 発売日 : 1998/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 251ページ
- ISBN-10 : 4163180702
- ISBN-13 : 978-4163180700
- Amazon 売れ筋ランキング: - 283,083位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 6,971位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1955(昭和30)年、東京生れ。
1989(平成元)年、『ゴッド・ブレイス物語』で小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。1998年、『皆月』で吉川英治文学新人賞を、『ゲルマニウムの夜』で芥川賞をそれぞれ受賞。人間の生の本質に迫る問題作を、発表し続けている。
『眠り猫』『なで肩の狐』『鬱』『二進法の犬』『百万遍 青の時代』『私の庭 浅草篇』『たびを』『愛情』『錏娥哢た』『少年曲馬団』『ワルツ』など著書多数。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年2月9日に日本でレビュー済み
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普通に生きていたら想いもしない発想の内容が詰め込まれていた。怖かった....
ただ、巻末の小川国夫さんと花村萬月さんの対談は非常に興味深くて、何度も読んでしまった。
ただ、巻末の小川国夫さんと花村萬月さんの対談は非常に興味深くて、何度も読んでしまった。
2019年10月23日に日本でレビュー済み
殺人を犯し、少年の頃暮らしていた修道院兼教護院に身を隠す青年 朧が主役の連作短編集。
著者の作品には、グロテスクともいえる暴力やあからさまな性的描写が多く見られる。そんな中にも、著者なりの美学があるのだが、本作品集にはどうにもそれを感じとることができない。
本作品集に通底するのは、欺瞞に対する沸々とした憤懣だろうか。読み進めると、朧の自己中心的な正義(?)にゲンナリしてしまう。ただ、こういう露悪的なものにも惹かれるのは事実であり、それは、自分の暗黒面をくすぐるからなのだろうと思う。
嫌悪感と文学的な面白さが同居する作品集だ。
著者の作品には、グロテスクともいえる暴力やあからさまな性的描写が多く見られる。そんな中にも、著者なりの美学があるのだが、本作品集にはどうにもそれを感じとることができない。
本作品集に通底するのは、欺瞞に対する沸々とした憤懣だろうか。読み進めると、朧の自己中心的な正義(?)にゲンナリしてしまう。ただ、こういう露悪的なものにも惹かれるのは事実であり、それは、自分の暗黒面をくすぐるからなのだろうと思う。
嫌悪感と文学的な面白さが同居する作品集だ。
2021年2月1日に日本でレビュー済み
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今まで読んだ中で最も衝撃を受けた小説です。
花村萬月さんは相当頭が良かったとのことですが、読んで納得しました。表現力とか感性が普通ではありません。「感傷がたけなわだ。」とか大好きです。
主人公は殺人したことや女性を犯したことに自分なりに心を痛めたりするのですが、それでもどこか他人ごとで、飄々としています。頭が良すぎるとそうなっちゃうのかな。とても真似できないですが。
花村萬月さんにはこれからも多大に期待いたします。
花村萬月さんは相当頭が良かったとのことですが、読んで納得しました。表現力とか感性が普通ではありません。「感傷がたけなわだ。」とか大好きです。
主人公は殺人したことや女性を犯したことに自分なりに心を痛めたりするのですが、それでもどこか他人ごとで、飄々としています。頭が良すぎるとそうなっちゃうのかな。とても真似できないですが。
花村萬月さんにはこれからも多大に期待いたします。
2021年9月25日に日本でレビュー済み
修道院を舞台にしてるだけ。
キリスト教文学になるほどの宗教性も、バタイユのような反キリスト今日的な涜神も感じなかった。
キリスト教の偽善を説きながら、自分のやってることは暴力とエロでしかないという矛盾に全く気が付かない主人公。
キリスト教文学になるほどの宗教性も、バタイユのような反キリスト今日的な涜神も感じなかった。
キリスト教の偽善を説きながら、自分のやってることは暴力とエロでしかないという矛盾に全く気が付かない主人公。
2004年2月25日に日本でレビュー済み
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まるで御伽の中のようなアブノーマルな世界の中の、人間味あふれるノーマルな登場人物たちが魅力的でした。面白かったです。
2017年9月21日に日本でレビュー済み
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主人公の心の動きは面白いのだが表現が少々回りくどいのが難点。狭い世界の中での出来事だからしかたないか。
2015年2月13日に日本でレビュー済み
カトリックの更正施設を舞台に、宗教の欺瞞を若者の性と暴力で暴くことを主題にした小説。荒々しいロックを奏でているような調子が、全体を纏う筆力は確かなものだが、とげとげしく粋さを感じない。また、古今東西堕落していない宗教を探す方が難しいと思うが、司祭の説教より拳や喘ぎ声の方がリアルだというような主張に意味があるかどうかはわからない。
個人的な思春期の体験や思想を綴ったような小説で、意味深長なようなで、なにか安っぽい空虚なものを感じた。
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