パリ移住後、初期(2003年〜2005年)に「文學界」に掲載した5作品に、
某ラグジュアリーブランドの小冊子に掲載したラブストーリーを加えた、良質な作品集。
中でも、「ポスト」は「世にも奇妙な物語」タッチで、面白い。
見知らぬ女が、連日、職場に現れて、ただ見つめられるだけの日々。
自身がこうした状況に陥ると、やはり、この作品のラストのような台詞をいうのだろうな。
次に良いのが「明日の約束」。
辻版「ビルマの竪琴」というか、文明批判が巧み。
戦場ドクターが、過去形も未来形も持たない部族と触れ合うとどうなるかが詳細に描かれる。
恋愛テイストが満載の「世界で一番遠くに見えるもの」も、
往年の月9ラブストーリーを彷彿とさせる、ベタな世界だが、ステキである。
男は「限りない未来」と見なすが、女は「限りある未来」と見なしている。
そのボタンの掛け違い加減が一周して重なり合うところに爽快感がある。
他の作品のほど良い長さに慣れていると、
5作目に来る「歌どろぼう」は少し長く感じる。
歌が盗まれるということが、愛情が奪われることという比喩であるのは分かるが、
テーマ性(長年連れ添った男女間のほつれ具合とその修復の可能性)は、
9・11後に書かれた2作「君と僕のあいだにある」「愛という名の報復」と同様で、焼き直しのよう。
「隠しきれないもの」は、エレファントマンのような麻の布袋をかぶった男が登場し、
それを主人公の少年が追うという構図は、初期の辻作品(ヘンシツシャとカイのよう)に回帰しており、
主人公の兄もエコーズの「JACK」のような破天荒さで、原点に触れるようだが、記述が冗長。
「覆面をすると、世界の隠し切れていないものが見える」というテーマも分かるようで分からず、読後には刺さらなかった。
あと1作の「ピジョンゲーム」は、何度読み返しても理解できなかった。
本著の中では最初(2003年10月)に発表された作品であるが、何を言いたいのかさっぱり分からない。
「ピンクのハト」とは何の象徴?
以上、6作品中3作(ポスト、明日の約束、世界で一番遠くに見えるもの)がお薦めできるので、星3つ。
1頁当たりの分量が少な目なので、辻作品ビギナーはまず「ポスト」と「明日の約束」をぜひ一読あれ!
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アカシア 単行本 – 2005/9/28
辻 仁成
(著)
ポスト,明日の約束,ピジョンゲーム,隠しきれないもの,歌どろぼう
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2005/9/28
- ISBN-104163242902
- ISBN-13978-4163242903
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2005/9/28)
- 発売日 : 2005/9/28
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 240ページ
- ISBN-10 : 4163242902
- ISBN-13 : 978-4163242903
- Amazon 売れ筋ランキング: - 981,107位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 22,362位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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東京生まれ。
89年「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞し、作家デビュー。97年「海峡の光」で第116回芥川賞、99年「白仏」の仏翻訳語版「Le Bouddlha blan」で、仏フェミナ賞・1999年外国小説賞を日本人としては初めて受賞。
文学以外の分野でも幅広く活動している。監督・脚本・音楽を手がけた映画「千年旅人」「ほとけ」「フィラメント」「ACACIA」でも注目を集め、メディアの垣根を越えたその多岐にわたる活躍は、今、もっとも注目されている。2003年より渡仏。現在はフランスを拠点に創作活動を続けている。
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年1月29日に日本でレビュー済み
「あとがきにかえて」以外はどれも、現実離れした虚構の世界観を持って描かれた作品ばかりのような気がします。しかし!読み終わってずっとその空気が自分の周りに立ち込めているような不思議な感覚がする作品ばかりでした。
私としては、「明日の約束」が一押しですね。文明とは無縁の世界で時間の概念がない生活を送る種族。少しづつ文明を剥ぎ取られていく男の変化が、説得力を持って描かれています。
現代のストレスに疲れた方、真の愛を探りたい方にお勧めです。
私としては、「明日の約束」が一押しですね。文明とは無縁の世界で時間の概念がない生活を送る種族。少しづつ文明を剥ぎ取られていく男の変化が、説得力を持って描かれています。
現代のストレスに疲れた方、真の愛を探りたい方にお勧めです。
2005年10月26日に日本でレビュー済み
全体的に静かで落ち着いた雰囲気を持つ短編集+1(この1が嬉しいおまけになっています)。
「歌どろぼう」が印象的でした。
生きることを放棄しているような人間が“歌を盗まれる”。
ある日突然、歌うことができなくなってしまうのです。
この発想ってうまい。
人生の光や希望を“歌”にあてはめているわけですね。
ついつい“自分は歌を盗まれるような人生を送ってはいないか?”と立ち止まって考えてしまいます。
「明日の約束」では文明が介在されることで失われていくものの大きさを感じられます。
名前があり、個性や責任が生じることによって生まれてしまう余計なもの。
コンプレックス、プレッシャー、差別・・・
【みんな神の子、自然に生かされ、自然に死んでいくだけのこと】
こんな当たり前のことが当たり前じゃない今、
シンプルに生きたいな、と今の社会では到底無理なことに思いを馳せてしまいました。
「歌どろぼう」が印象的でした。
生きることを放棄しているような人間が“歌を盗まれる”。
ある日突然、歌うことができなくなってしまうのです。
この発想ってうまい。
人生の光や希望を“歌”にあてはめているわけですね。
ついつい“自分は歌を盗まれるような人生を送ってはいないか?”と立ち止まって考えてしまいます。
「明日の約束」では文明が介在されることで失われていくものの大きさを感じられます。
名前があり、個性や責任が生じることによって生まれてしまう余計なもの。
コンプレックス、プレッシャー、差別・・・
【みんな神の子、自然に生かされ、自然に死んでいくだけのこと】
こんな当たり前のことが当たり前じゃない今、
シンプルに生きたいな、と今の社会では到底無理なことに思いを馳せてしまいました。