『繁栄と衰退と――オランダ史に日本が見える』(岡崎久彦著、文春文庫。出版元品切れだが、amazonで入手可能)は、17世紀に世界の大国にのし上がったオランダが衰退してしまったのは、驚くべきことに、イギリスの嫉妬が最大の原因だったと言い切っている。著者も「嫉妬」という人間臭い言葉は歴史の記述にはなじまないと考え、相当入念に確認作業を行ったようだが、やはり、英蘭戦争の原因はオランダの繁栄に対するイギリスの嫉妬であったとの結論を下している。
経済の繁栄と技術の優位がいかに他国の嫉視の的になり得るか、そして、その嫉妬の感情が国際的なオランダいじめの動機となり、戦争を避け難くする原因になるという冷酷な事実が、この時代のオランダ史から立ち現れてくるのである。
16世紀の世界を特徴づけるものは、ヨーロッパの膨張である。外洋航海に乗り出した「大航海の時代」「地理上の発見の時代」である。17世紀に入ると、前世紀に膨張をリードしたポルトガル、スペインの勢いは後退し、17世紀前半はオランダの黄金時代となる。16世紀末にスペインからの独立を果たしたオランダは、ヨーロッパ貿易で圧倒的優位を占めたばかりでなく、アジアにおいてもポルトガルを抑えて胡椒貿易を支配し、ヨーロッパで最も富裕な商業国家となる。しかし、17世紀の後半、オランダはその経済的繁栄を嫉視するイギリスやフランスの挑戦を受け、3度の英蘭戦争そして仏蘭戦争によって国力が衰え、ヨーロッパの表舞台から消えてゆく。
商売でも賭け事でも戦争でも、一番難しいのは降り時を知ることであり、一番危険なのは判断が甘く、降りるチャンスを失うことである。当時のオランダは、不幸なことに、国家的な見地から国際情勢を判断する中央集権的機能が欠如していたため、気づいた時はもう戦争を避ける方法がないという苦境に立たされていたのである。不断の情報収集、情報共有と情勢判断は、どの時代にあっても国家の存立に関わる大事なのだ。
著者は、17世紀のオランダ史から、現在の日本の進むべき道を探ることに力点を置いているが、戦略あっての戦術だと言う。戦略さえよければ、戦術的な失敗は取り返せる。逆に戦略が悪ければ、戦術的にいくら勝ってもいずれは負ける。むしろ、戦術的に勝ち進むほど戦略の悪さが露呈するのが遅れ、それだけ大きな破局を招いてしまうというのである。これは、国ばかりでなく企業にとっても、その命運を決する重要な問題と言えるだろう。
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繁栄と衰退と: オランダ史に日本が見える 単行本 – 1991/6/1
岡崎 久彦
(著)
- 本の長さ318ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日1991/6/1
- ISBN-104163453504
- ISBN-13978-4163453507
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (1991/6/1)
- 発売日 : 1991/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 318ページ
- ISBN-10 : 4163453504
- ISBN-13 : 978-4163453507
- Amazon 売れ筋ランキング: - 693,280位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年11月27日に日本でレビュー済み
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2017年3月19日に日本でレビュー済み
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法律学を学ぶと必ず国際法の父、グロチウスの名前を目にすることになる。その活躍した時代は祖国オランダがスペインから独立し今度は友邦であるイギリスとの対立の最中だった。その時代の政治背景をわかりやすく説明した稀有な一冊です。
オランダといえば江戸時代、日本と唯一交流のあった欧米の国家ですが、ナポレオンの時代には実は本国も含め植民地も根こそぎ奪われ、オランダ国旗がはためいていたのは出島とアフリカの要塞のたった二か所というほど戦争と政治がへたくそなのに国際法では金字塔を立てたということに違和感を感じていました。その謎解きに手に取りましたが、なるほどと腑に落ちました。
金儲けにまい進する商人にとっては軍事は金食い虫で政治は自分たちの手足をしばる鎖に過ぎない。しかしスペインもイギリスもそしてフランスも油断できないとなればなるべく安上がりに済ましたいし、あわよくばこの三国から貿易で利益を搾り取りたいという欲求が主権を得て成立したのが、オランダという国家です。その理論武装が国際法であったというのはどこか間抜けな感じが否めない。結局はイギリスとフランスの軍事力に屈服する様は見識は高くてもビジョンがない政治家が国を危うくするという好例となっています。
絵画の世界では市民が自分の家の居間に絵を飾るのが一般的になり、その嗜好を反映した作品群が絵画史の転換点となりました。しかしそれが政治の世界、軍事の世界に起きなかったのがオランダの奇妙さであり、悲劇でもあります。オランダ史に日本が見えるとは日米貿易摩擦の真っただ中で筆者が感じた危機感を吐露したものです。ただ、違うなと感じるのはオランダは王室をお飾りにしたがるのに対して日本は良いにつけ悪しきにつけ皇室を統治の要と意識している点です。それを支える政治も商人のそろばんから遠い場所にある。ホラント州の専権は日本には見出しがたい。
明治維新にしても歴史の彼方というほど政治や行政そして法律の世界では遠い話ではありません。ちょっと公図を開いても江戸時代に引いた一本の境界線を明治の法律で裏付け、戦後の地震で生じたひずみを法令に基づき修正し、平成の電算システムがGPSデータとリンクさせて地下埋設物の位置を表示する時代です。一本の線に歴史が刻み込まれています。
国の求心力が商人の帳簿ではなく、連綿と続く歴史にこそある点は筆者の杞憂に留まる幸運を喜ぶべきなんでしょう。
オランダといえば江戸時代、日本と唯一交流のあった欧米の国家ですが、ナポレオンの時代には実は本国も含め植民地も根こそぎ奪われ、オランダ国旗がはためいていたのは出島とアフリカの要塞のたった二か所というほど戦争と政治がへたくそなのに国際法では金字塔を立てたということに違和感を感じていました。その謎解きに手に取りましたが、なるほどと腑に落ちました。
金儲けにまい進する商人にとっては軍事は金食い虫で政治は自分たちの手足をしばる鎖に過ぎない。しかしスペインもイギリスもそしてフランスも油断できないとなればなるべく安上がりに済ましたいし、あわよくばこの三国から貿易で利益を搾り取りたいという欲求が主権を得て成立したのが、オランダという国家です。その理論武装が国際法であったというのはどこか間抜けな感じが否めない。結局はイギリスとフランスの軍事力に屈服する様は見識は高くてもビジョンがない政治家が国を危うくするという好例となっています。
絵画の世界では市民が自分の家の居間に絵を飾るのが一般的になり、その嗜好を反映した作品群が絵画史の転換点となりました。しかしそれが政治の世界、軍事の世界に起きなかったのがオランダの奇妙さであり、悲劇でもあります。オランダ史に日本が見えるとは日米貿易摩擦の真っただ中で筆者が感じた危機感を吐露したものです。ただ、違うなと感じるのはオランダは王室をお飾りにしたがるのに対して日本は良いにつけ悪しきにつけ皇室を統治の要と意識している点です。それを支える政治も商人のそろばんから遠い場所にある。ホラント州の専権は日本には見出しがたい。
明治維新にしても歴史の彼方というほど政治や行政そして法律の世界では遠い話ではありません。ちょっと公図を開いても江戸時代に引いた一本の境界線を明治の法律で裏付け、戦後の地震で生じたひずみを法令に基づき修正し、平成の電算システムがGPSデータとリンクさせて地下埋設物の位置を表示する時代です。一本の線に歴史が刻み込まれています。
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2017年9月7日に日本でレビュー済み
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国際情勢を認識することの重要さを説いた本です。書かれている対象は、中世の冷戦ともいうべく30年戦争前後の、1600年代のオランダ。本書が書かれたのは、冷戦が終わり日米経済摩擦が激しかった1990年の日本。キーワードは、「われわれ(英国人)のように強く勇敢な国民が貧乏していて、自分達のための戦争も金を払って他国民にして貰っているような卑怯な商人どもが世界の富を集めているのは、果たして正しいことなのだろうか?」 。なんどもなんども出てきます。 現在でも心しなければ。トランプ氏を米大統領におしあげた支持層は、このような感情を強く持っている人達でしょうから。
2017年12月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ちょうどバブル絶頂から転落するころの出版ですね。
嫉妬を感じさせることは敵を生むのを知っているか。
大戦略を持つ必要性を分かっているか。
歴史を見る面白さを教えてくれました。
嫉妬を感じさせることは敵を生むのを知っているか。
大戦略を持つ必要性を分かっているか。
歴史を見る面白さを教えてくれました。
2012年1月27日に日本でレビュー済み
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一度は世界の海を支配したオランダが、理想主義・平和主義に冒されて衰退していく様子が、まるで日本の歴史を追っているよう。
歴史は繰り返す、というなら、ここまで元気を無くしておかしな理想主義に走っている日本を見ると、衰退の一途をたどることは必然なのか、と思えてくる。
はじめは図書館で借りて読んだのだが、やっぱり手元に一冊置いておきたくて買った。
著者は外交評論で定評のある岡崎氏で、私の尊敬する作家・評論家の一人。
歴史は繰り返す、というなら、ここまで元気を無くしておかしな理想主義に走っている日本を見ると、衰退の一途をたどることは必然なのか、と思えてくる。
はじめは図書館で借りて読んだのだが、やっぱり手元に一冊置いておきたくて買った。
著者は外交評論で定評のある岡崎氏で、私の尊敬する作家・評論家の一人。
2010年8月16日に日本でレビュー済み
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司馬遼太郎の「オランダ紀行」でオランダに興味を持って、
クセジュ文庫「オランダ史」や「近世ヨーロッパの誕生」などを読んだが、まったく要領を得なかった。
『繁栄と衰退と』を読んで初めて、オランダ史の近世からの全体と、その重要性を理解できた。
クセジュ文庫「オランダ史」や「近世ヨーロッパの誕生」などを読んだが、まったく要領を得なかった。
『繁栄と衰退と』を読んで初めて、オランダ史の近世からの全体と、その重要性を理解できた。