誰でも作家、誰でも評論家のこの時代において、已むに已まれずものを書く人の姿が見えづらくなっているように思う。高山文彦によるこの中上健次評伝は、そういう生まれながらの作家をこれまた已むに已まれず追った作品だ。一本の木から中上健次という早世の天才作家を、魂を吹き込みつつ彫り出していったかのような筆致である。
中上健次の作品で最初に読んだのは彼の唯一のルポルタージュである『木の国 根の国の物語』だった。そこでこの作家の作品は紀州という土地と切り離しては存在しえないものであることを知ったが、その作品を書かせた本人の生い立ちについてまず知らなければと本書を手に取った。作家は作品だけで評価するべきだとする考え方もあるだろう。中上も最初は自らの出自を担当編集者にさえ明かすことなく書き続けた。それを河出書房新社の編集者、鈴木孝一は見抜いていた。梅干の殻をかち割って出てくる真っ白い核、その核になっている部分を書けと詰め寄る。奔放な母、若くして命を絶った兄、言葉を持たない「路地」の人々の現在過去未来のなかにあったその梅干しの「核」は『岬』という作品として結実し、中上は念願の芥川賞を受賞する。そこまで中上をある意味で追い詰めた鈴木をはじめとする歴代の編集者たちの已むに已まれない思いもそこで成就した。
この本に出てくる芥川賞受賞シーンを読むと、昨今の芥川賞はなんとあっさりしたものだろうと思う。近年の受賞者でただならぬ雰囲気を感じたのは西村賢太くらいだ。個人の人生と書くという行為が一体化した作家が減ってきたのは、出版業の弱体化とも関係あるのだろうか。人生を賭けて書いても「マネタイズできない」ゆえだろうか。一人の人間を已むに已まれず表現にかりたてるような不条理に対して別の解決方法が出てきたからだろうか。江藤淳が『岬』を評した文章が引用されている。「……そういうなにがしかの偽善を含む“時代の歌”は、俗耳に入りやすい。それは集団の歌であり、さらに集団を操作しようとする者の歌である。その限りで、政府が音頭をとろうが、マス・コミが音頭をとろうが、“国策文学”成立の基盤は過去四十年間一貫して普遍であるともいえる。しかし、かかる“時代の歌”を含む文学は、かならず薄汚れる。それは、“正しい”ことによって薄汚れ、“正しく”あろうとする偽善によってさらに薄汚れる。しかし、幸いにして、中上健次氏の『岬』から聴こえてくる歌は、そういう“時代の歌”とはまったく異質である」。「社会現象」などともてはやされて消費される文学と中上の書くものは本質的に違っているということなのだろう。とことん自分と自分を生んだ土地と人間にこだわった、パーソナルでローカルな物語だからこその普遍である。
ギリシャ悲劇のような血なまぐざい物語を紡ぎ続けた中上。「熊野のフォークナー」を自称した作家。彼が伊勢神宮の神宮文庫で「天皇の言葉」に打ちのめされたと言うくだりがとても興味深い。「私がここで見たのは神宮あるいは『天皇』の言葉、詞に対する自信である。天地の分かれる創世記の時代からコトノハを持っている。光を光と、闇を闇とコトノハを与えた自信である。天皇がコトノハ、文字という言葉によってこの国を治めている、と思ったのだった」とそのときの思いを書き記している。「初めに言葉があった。 言葉は神と共にあった。 言葉は神であった。 この言葉は、初めに神と共にあった」とヨハネによる福音書の冒頭にある。天皇の言葉に対する敗北感を昇華させたグローバル文学を書くための時間がこの作家に十分に与えられなかったことが残念である。
¥3,799¥3,799 税込
無料配送 6月9日-10日にお届け
発送元: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】 販売者: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
¥3,799¥3,799 税込
無料配送 6月9日-10日にお届け
発送元: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
販売者: 令和書店 毎日発送中です!【安心の返金保証適用品】
¥502¥502 税込
配送料 ¥240 6月12日-14日にお届け
発送元: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】 販売者: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
¥502¥502 税込
配送料 ¥240 6月12日-14日にお届け
発送元: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
販売者: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
中上健次の生涯 エレクトラ 単行本 – 2007/11/14
高山 文彦
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥3,799","priceAmount":3799.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"3,799","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"vMFJNuBeJgyFN4tVHdRsXtENAjRLppJ7fZvbPtktf1%2FH%2FIxK69bIlrybnFmB7kTshm4BRmhlRjf2wBW7oYkby9AfXF88aQA4b%2F2Yx4XbimDzvfh1e8%2BLmTWSbru6Jql1alng1zk7BJ5n4VV2zZowabABfMy7gg5CBRttelPzaIl0rsHXbhddOg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥502","priceAmount":502.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"502","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"vMFJNuBeJgyFN4tVHdRsXtENAjRLppJ7bO8f58LaX8GjBuBW2tSxDpB4OrmJuwj3dA9b81NfCeN99dthh%2BOgcPOAcPnwkmoavnYxbbG6rLZUaXgxoJ0DZToA79%2BcLgBX3oDRudD8RkWgw6hP6Rdpi9U%2FkKJ%2F4l60vVHqWKvOICDs%2F%2B3cnVisog%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
“最後の無頼派”中上健次はいかにして作家となり、いかに死んでいったのか。幼少期から腎ガンの病室までを執拗に追った傑作評伝
- 本の長さ413ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2007/11/14
- ISBN-104163696806
- ISBN-13978-4163696805
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2007/11/14)
- 発売日 : 2007/11/14
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 413ページ
- ISBN-10 : 4163696806
- ISBN-13 : 978-4163696805
- Amazon 売れ筋ランキング: - 794,420位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 18,204位日本文学
- - 120,995位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.1つ
5つのうち4.1つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
34グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年10月25日に日本でレビュー済み
中上健次を「路地」だけで語るのは危険だ しかし「路地」抜きで語るのも違う気がする
それが中上健次を読む事のハードルを上げてしまったり、極端な讃美に走ってしまったりの要因の一つではなかろうか
そんな中上健次をまず知るのにはこの「エレクトラ」が最適な入門書だろう
健次が何故このように生き、どんな思考をし、たくさんの作品を生み出したのかが非常に分かりやすく書かれている評伝だと思う
永山則夫への共感、新宿フーテン時代の仲間達、パッシングの後ろめたさ、兄への複雑な思い、父や母への尽きぬ思い、
「路地」への愛おしさと憎しみ…
それらの筋道が非常にわかりやすく愛情と熱意を込めて書かれている
そして小説家「中上健次」がけして個の天才として表れたのではなく、様々人との出会いから生まれてきた事実まで教えてくれる
(しかし編集者って言う職業は凄い過酷な商売だと思う 少し間違えれば一人の人間の人生を台無しにしてしまう
その丁丁発止のやり取りは凄く消耗するだろうし、それがお互いにとって報われるかどうかはわからない
まさに作品と言うのは決して一人では作りえる物ではないのだろう)
そして「路地」を書く事を封じ込められていた健次が解き放たれた時(この時のやりとりも凄まじい)「岬」が芥川賞を受賞する
「受賞のことば」〜言ってみれば、書きたくてしょうがなかった小説だった。ずいぶん昔から、まだ力がない、まだ駄目だ、と、はやる腕を、おさえてきた。書き上げて、ゲラ刷りのなった小説を読んで、ぼくは、一人、部屋で泣いた。暑い盛りだった。よく、いままで、じっとがまんしてきたと、自分の、小説家としての男気を、汗のような涙で、慰めた。その小説が、芥川賞をいただいた。
力を貸してくれたすべての人々に、感謝したい。死んだ人と生きている人の、激励の声を、ぼくは、いま、耳いっぱいに聴く。
声に、はじらうことも、すくむことも、てらうこともなく、小説家として、しっかり、大地に立ちたい。そして一刻もはやく、あなたの、一等幼い子供が、この現世の大人たちから、小説家として認められましたよ、と故保高徳蔵先生に、報告に行く。うれしい〜中上健次
作者は「小説家」にこだわる、このような「受賞のことば」を私は見たことない。素直なよろこびようも、見たことがない。
戦後生まれの、初めての受賞だった。と結んでいる
それは物言えぬ者達の代表として全てを引き受けようとした健次の裸の姿だったのだろう
健次という巨大な熱を、健次に負けない程の熱で(しかし冷静に筋道を辿り、核を見つめる)高山文彦のこの傑作評伝
今、この時代にこそ、たくさんの人に読んでもらいたいと思います
後、後書きに書かれた健次の娘への手紙にはまいった あれほど暴力を書き続け、自らも暴力から逃げられないでいたであろう
健次の本音と娘に対する思いが...これは是非自らの目で確かめてほしいです
それが中上健次を読む事のハードルを上げてしまったり、極端な讃美に走ってしまったりの要因の一つではなかろうか
そんな中上健次をまず知るのにはこの「エレクトラ」が最適な入門書だろう
健次が何故このように生き、どんな思考をし、たくさんの作品を生み出したのかが非常に分かりやすく書かれている評伝だと思う
永山則夫への共感、新宿フーテン時代の仲間達、パッシングの後ろめたさ、兄への複雑な思い、父や母への尽きぬ思い、
「路地」への愛おしさと憎しみ…
それらの筋道が非常にわかりやすく愛情と熱意を込めて書かれている
そして小説家「中上健次」がけして個の天才として表れたのではなく、様々人との出会いから生まれてきた事実まで教えてくれる
(しかし編集者って言う職業は凄い過酷な商売だと思う 少し間違えれば一人の人間の人生を台無しにしてしまう
その丁丁発止のやり取りは凄く消耗するだろうし、それがお互いにとって報われるかどうかはわからない
まさに作品と言うのは決して一人では作りえる物ではないのだろう)
そして「路地」を書く事を封じ込められていた健次が解き放たれた時(この時のやりとりも凄まじい)「岬」が芥川賞を受賞する
「受賞のことば」〜言ってみれば、書きたくてしょうがなかった小説だった。ずいぶん昔から、まだ力がない、まだ駄目だ、と、はやる腕を、おさえてきた。書き上げて、ゲラ刷りのなった小説を読んで、ぼくは、一人、部屋で泣いた。暑い盛りだった。よく、いままで、じっとがまんしてきたと、自分の、小説家としての男気を、汗のような涙で、慰めた。その小説が、芥川賞をいただいた。
力を貸してくれたすべての人々に、感謝したい。死んだ人と生きている人の、激励の声を、ぼくは、いま、耳いっぱいに聴く。
声に、はじらうことも、すくむことも、てらうこともなく、小説家として、しっかり、大地に立ちたい。そして一刻もはやく、あなたの、一等幼い子供が、この現世の大人たちから、小説家として認められましたよ、と故保高徳蔵先生に、報告に行く。うれしい〜中上健次
作者は「小説家」にこだわる、このような「受賞のことば」を私は見たことない。素直なよろこびようも、見たことがない。
戦後生まれの、初めての受賞だった。と結んでいる
それは物言えぬ者達の代表として全てを引き受けようとした健次の裸の姿だったのだろう
健次という巨大な熱を、健次に負けない程の熱で(しかし冷静に筋道を辿り、核を見つめる)高山文彦のこの傑作評伝
今、この時代にこそ、たくさんの人に読んでもらいたいと思います
後、後書きに書かれた健次の娘への手紙にはまいった あれほど暴力を書き続け、自らも暴力から逃げられないでいたであろう
健次の本音と娘に対する思いが...これは是非自らの目で確かめてほしいです
2018年2月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
もともと被差別民には興味があり、その関係で中上健次氏の著作を何作か読みました。本作を読んでより中上健次氏の著作を読みたくなった。
2008年3月12日に日本でレビュー済み
今や伝説となった中上健二の評伝です。著者によれば、
フーテン、薬物依存、そして被差別部落に学生運動と、
同時期に青春時代を過ごした者ならどれかに思い当たる
ような経験を、彼はフルコースで演じていたとのこと、その
人の人生が後に神格化されたのもむべなるかなと思いま
した。
被差別部落で非嫡出子として生まれ、母親が他の男と
婚姻すると共に姉達が離散、後には兄も自殺してしまう
という、その運命の客観化を生涯のテーマとした彼ですが、
結局は自らの家族に救われたように思います。エピロー
グに収められた次女あての私信は、人生の先輩としての
成熟した暖かいまなざしとわが子への深い信頼で満たさ
れていました。
マグマがたぎるような熱い小説への想いと、憑かれた
ように故郷、熊野を語りの海として再生しようする姿勢は、
いずれも稀有のものだったのでしょう。しかし、とわたしは
思うのです。人は小説を書くことに、これほどまでに苦しむ
必要はないのではないかと。
例えば、最近読んだ近藤史恵『サクリファイス』は、肩の
力を抜いた筆づかいで、読後の爽やかさを感じさせたし、
玉岡かおる『お家さん』や伊坂幸太郎『ゴールデンスラン
バー』はフィクションを楽しみながら神戸や仙台という地域
の息遣いを感じることができました。それで、いやそれだ
けでもいいのではないでしょうか。
フーテン、薬物依存、そして被差別部落に学生運動と、
同時期に青春時代を過ごした者ならどれかに思い当たる
ような経験を、彼はフルコースで演じていたとのこと、その
人の人生が後に神格化されたのもむべなるかなと思いま
した。
被差別部落で非嫡出子として生まれ、母親が他の男と
婚姻すると共に姉達が離散、後には兄も自殺してしまう
という、その運命の客観化を生涯のテーマとした彼ですが、
結局は自らの家族に救われたように思います。エピロー
グに収められた次女あての私信は、人生の先輩としての
成熟した暖かいまなざしとわが子への深い信頼で満たさ
れていました。
マグマがたぎるような熱い小説への想いと、憑かれた
ように故郷、熊野を語りの海として再生しようする姿勢は、
いずれも稀有のものだったのでしょう。しかし、とわたしは
思うのです。人は小説を書くことに、これほどまでに苦しむ
必要はないのではないかと。
例えば、最近読んだ近藤史恵『サクリファイス』は、肩の
力を抜いた筆づかいで、読後の爽やかさを感じさせたし、
玉岡かおる『お家さん』や伊坂幸太郎『ゴールデンスラン
バー』はフィクションを楽しみながら神戸や仙台という地域
の息遣いを感じることができました。それで、いやそれだ
けでもいいのではないでしょうか。
2012年8月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
中上健次の作品では長編では『枯木灘』くらいしか読んでおらず、あとはつかこうへいのエッセイや角川春樹との対談などから得た知識だけでしたので、特に出生、家族、上京してから芥川賞をとるまでのことが、部分的にはかなり衝撃的なこともあり、大変興味深かったです。また、『文藝』『文学界』などの編集者たちがいかに苦労して中上を指導し激励し、作家として育てていったかも知ることができました。
2011年6月9日に日本でレビュー済み
生前の中上健次というと、すぐに人をお前呼ばわりして大声で怒鳴りつけている姿を連想する。テレビでそういう映像を何度か観た。小説はどれも読み辛く、傲岸な印象を受けた。
どこの馬の骨。解放同盟。永山則夫。土方小説。知的な人間が一人も登場しない。熊野大学。腎臓癌。日本のフォークナー。高額の仕送り。フォークリフト。文藝首都。勝目梓。路地。にいやん。秋幸。大逆事件。天皇。崖。芋。春日。マツネノオジ。オリュウノオバ。私生児。梅干しの殻。都はるみ。隣保館。短いセンテンス。八王子の自宅。事務所経費月額150万。男の秘書。
没後十余年。差別がなくなったといえるかどうかはともかく、全国的に同和対策事業が終結し、隣保館は名前を変えたり姿を消したりした。熊野は世界遺産に登録され観光客は飛躍的に増えているという。草葉の陰で彼はこの事実をどう思っているか。
筆者は本著の中で彼のことを単に「ケンジ」と呼んでいるが、そういう呼ばれ方をするのは(それで通じるのは)、宮沢賢治と中上健次しか思い浮かばない。丸山健二も沢田研二も鈴木健二もそうではない。
どこの馬の骨。解放同盟。永山則夫。土方小説。知的な人間が一人も登場しない。熊野大学。腎臓癌。日本のフォークナー。高額の仕送り。フォークリフト。文藝首都。勝目梓。路地。にいやん。秋幸。大逆事件。天皇。崖。芋。春日。マツネノオジ。オリュウノオバ。私生児。梅干しの殻。都はるみ。隣保館。短いセンテンス。八王子の自宅。事務所経費月額150万。男の秘書。
没後十余年。差別がなくなったといえるかどうかはともかく、全国的に同和対策事業が終結し、隣保館は名前を変えたり姿を消したりした。熊野は世界遺産に登録され観光客は飛躍的に増えているという。草葉の陰で彼はこの事実をどう思っているか。
筆者は本著の中で彼のことを単に「ケンジ」と呼んでいるが、そういう呼ばれ方をするのは(それで通じるのは)、宮沢賢治と中上健次しか思い浮かばない。丸山健二も沢田研二も鈴木健二もそうではない。
2014年7月17日に日本でレビュー済み
自分は中上健次の小説に特別興味はなくて、ただ、凄いと言われている作家の本を読めば、得したような気持ちになれるんじゃないか、くらいの動機で作品を読んだら、文体は読みづらい(そうじゃないのもあるけど)し、平和ボケしてるせいか、路地の物語にも今一つピンとこない。作者本人はといえば、インテリが全然出てこない小説を書いてるわりにはインタビューや対談で、やたらと難しい事言ってるし、彼の研究者や解説者は、更に輪をかけて言葉を使う。気になるけど難しくて自分には縁のない人だわ、と遠ざけ気味の気分のところに、そういえば、こんな本も出てたなあと思い出して、「エレクトラ」を読みました。
そしたら、すごい読みやすくて、分かりやすかった。
中上健次がどんな風に生まれ育って、何を考えたり思ったりして、そして死んでいったのか、
関係者の証言をもとに、ドラマのように彼に感情移入できるように上手いこと書かれていて、
この本は、読めば自然と「中上健次ってこういう人だったんだ」と思えるように作られてます。
泣ける箇所がいっぱいある。
将来小説家志望の歳若い人には、こんなすごい人でも、最初は猿真似パクリで批判されて、おまけに甘ったれてるし、詩作にもそれが出てたりしてるし、と、ホッとすると同時に、小説を書かないと、比喩ではなく、本当に、生きていけない、死ぬ他ないという人種がいて、そうじゃない自分は、書く資格がないというよりは、必要がないんじゃないかと、これでもかというくらい絶望できるようにもなっているのでお勧めです。
作者の抑制しつつも中上と彼の周辺への暖かい感情が伝わってくる良書です。
そしたら、すごい読みやすくて、分かりやすかった。
中上健次がどんな風に生まれ育って、何を考えたり思ったりして、そして死んでいったのか、
関係者の証言をもとに、ドラマのように彼に感情移入できるように上手いこと書かれていて、
この本は、読めば自然と「中上健次ってこういう人だったんだ」と思えるように作られてます。
泣ける箇所がいっぱいある。
将来小説家志望の歳若い人には、こんなすごい人でも、最初は猿真似パクリで批判されて、おまけに甘ったれてるし、詩作にもそれが出てたりしてるし、と、ホッとすると同時に、小説を書かないと、比喩ではなく、本当に、生きていけない、死ぬ他ないという人種がいて、そうじゃない自分は、書く資格がないというよりは、必要がないんじゃないかと、これでもかというくらい絶望できるようにもなっているのでお勧めです。
作者の抑制しつつも中上と彼の周辺への暖かい感情が伝わってくる良書です。