グリゴーリー・ペレルマン(1966~)。数学の超難問「ポアンカレ予想」に挑み、2002年36歳で解明に成功。しかし、ミレニアム賞やフィールズ賞の受賞を拒否、数学の世界から姿を消した。本書は、関係者をロシアとアメリカに取材し、その謎を解き明かす。
著者のマーシャ・ガッセンはペレルマンと同年齢、同じくユダヤ系のロシア人。ペリルマンと同様、少年時代に数学の英才教育を受けた。1981年に家族とアメリカに移住、現在はニューヨークでジャーナリストとして活動している。ペレルマンのことを書くなら、彼女ほどの適任者はいない。
ペレルマンが数学界を翻弄するのは後半だが、むしろ前半が読みどころ。ソ連の時代(とくにスターリン主義の政権下)の自然科学に対する締め付けと激しいユダヤ人差別が描かれている。そうした状況のなかで、どのように数学は命脈をつなぎ、数学的天才を出現させたのか。そしてペレストロイカやグラスノスチなど、束の間自由が顔を覗かせた時期に、それらの天才がどのように世界に出ていったのか。
充実の一冊。青木薫訳もすばらしい。
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完全なる証明 単行本 – 2009/11/12
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購入オプションとあわせ買い
100万ドルの賞金がかけられた
数学の七つの難問のひとつ
「ポアンカレ予想」の証明。
今世紀中の解決は到底無理と言われたその証明が
2002年にインターネット上にアップされる。
だが、世紀の難問を解いたその男は、
フィールズ賞を拒否し、研究所も辞職、
数学界からも世間からもすべての連絡をたって消えた。
ペレルマンと同時代に旧ソ連で数学のエリート教育を
うけた著者だからこそ書けた傑作評伝ノンフィクション!
【著者紹介】マーシャ・ガッセン
1967年モスクワ生まれ。この本の主人公であるグリーシャ・ペレルマンと同様に、ユダヤ人であるにもかかわらず選抜され、数学専門学校で学んだ。旧社会主義体制下でのユダヤ人に対する差別を逃れるために,、大学進学を待たず、1981 年に一家でアメリカに移住した。1991年、ジャーナリストとしてモスクワに戻り、『 US News & World Report 』誌の特派員の傍ら、自らの2人の祖母が、東欧のユダヤ人として、ホロコーストと、スタリーンの圧政をいかに生き延びたかを綴った『Two Babushkas』(2004)などを著している。同時期にソ連で数学のエリート教育をうけたユダヤ人という著者自身の背景を最大限にいかし、本書では、世紀の難問、ボアンカレ予想の証明をなしとげた数学者ペレルマンの実像を、これまでにない形で浮かび上がらしている。
【訳者紹介】青木薫(あおき・かおる)
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院終了。
理学博士。翻訳家。主な訳書にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『宇宙創世』ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなす物』など、専門の理論物理学を活かしたものから、数学、分子生物学まで、科学書をもっとも美しく訳す訳者としてファンは多い。
数学の七つの難問のひとつ
「ポアンカレ予想」の証明。
今世紀中の解決は到底無理と言われたその証明が
2002年にインターネット上にアップされる。
だが、世紀の難問を解いたその男は、
フィールズ賞を拒否し、研究所も辞職、
数学界からも世間からもすべての連絡をたって消えた。
ペレルマンと同時代に旧ソ連で数学のエリート教育を
うけた著者だからこそ書けた傑作評伝ノンフィクション!
【著者紹介】マーシャ・ガッセン
1967年モスクワ生まれ。この本の主人公であるグリーシャ・ペレルマンと同様に、ユダヤ人であるにもかかわらず選抜され、数学専門学校で学んだ。旧社会主義体制下でのユダヤ人に対する差別を逃れるために,、大学進学を待たず、1981 年に一家でアメリカに移住した。1991年、ジャーナリストとしてモスクワに戻り、『 US News & World Report 』誌の特派員の傍ら、自らの2人の祖母が、東欧のユダヤ人として、ホロコーストと、スタリーンの圧政をいかに生き延びたかを綴った『Two Babushkas』(2004)などを著している。同時期にソ連で数学のエリート教育をうけたユダヤ人という著者自身の背景を最大限にいかし、本書では、世紀の難問、ボアンカレ予想の証明をなしとげた数学者ペレルマンの実像を、これまでにない形で浮かび上がらしている。
【訳者紹介】青木薫(あおき・かおる)
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院終了。
理学博士。翻訳家。主な訳書にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『宇宙創世』ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなす物』など、専門の理論物理学を活かしたものから、数学、分子生物学まで、科学書をもっとも美しく訳す訳者としてファンは多い。
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2009/11/12
- ISBN-104163719504
- ISBN-13978-4163719504
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2009/11/12)
- 発売日 : 2009/11/12
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 320ページ
- ISBN-10 : 4163719504
- ISBN-13 : 978-4163719504
- Amazon 売れ筋ランキング: - 566,135位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 94,864位ノンフィクション (本)
- - 151,934位文学・評論 (本)
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2023年6月19日に日本でレビュー済み
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2017年8月6日に日本でレビュー済み
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長年解けなかったポアンカレ予想を証明したロシアの天才数字者ペレルマンの伝記。ソ連時代に差別されていたユダヤ人の天才がいかに育てられれていったかを丹念な取材から描き出している。
2016年1月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
共産主義という理想を実現するはずの国家体制がユダヤ人差別を生むという矛盾…。
貧しきを憂わず、等しからざるを憂う。
これではまるで中国の古代ではないでしょうか。
確かに平等は大事ですが…。
ペリルマンの人生が共産主義という厳しい体制の現実に、わずかながら清涼感を与えてくれます。
ただ、この本はどちらかといえば社会的読み物です。
数学的な解説を期待するなら別の本が良いでしょう。
貧しきを憂わず、等しからざるを憂う。
これではまるで中国の古代ではないでしょうか。
確かに平等は大事ですが…。
ペリルマンの人生が共産主義という厳しい体制の現実に、わずかながら清涼感を与えてくれます。
ただ、この本はどちらかといえば社会的読み物です。
数学的な解説を期待するなら別の本が良いでしょう。
2022年5月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は、ロシアの数学者ペレルマン
Grigori Yakovlevich Perelman(1966-)
の半生を描いた評伝の日本語版です。
ペレルマンは「ポアンカレ予想」を証明したこと
で知られています。それは
「単連結な3次元コンパクト多様体は3次元球面
に同相である」という内容です。
フランスの数学者アンリ・ポアンカレ
(1854-1912)が1904年、提唱しました。
トポロジー(位相幾何)の王道に位置する命題
ですが、ペレルマンはリッチフローと非線形
熱方程式を用いて証明することに成功しました
(2002-2003のプレプリント3本)。
トポロジーの予想を、微分幾何および物理学的
手法によって証明した点が、独創的です。
ポアンカレ予想の解決によって、ペレルマンは
2006年度のフィールズ賞を受賞しましたが、
辞退します。同年年、スペイン・マドリードで
開かれた国際数学者会議(ICM)にも出席しま
せんでした。それどころか、所属していた
サンクトペテルブルクのステクロフ数学研究所
も辞めてしまい、現在はスウェーデンに移住し
研究を続けていると伝えられます。
(この書評では表記の都合上、ペレルマン氏には
原則、敬称をつけませんが、あくまで形式的な
理由なのでご海容をいただけますと幸いです)
米国のクレイ数学研究所は2000年、数学分野の
7つの難問について「プレミアム懸賞問題」と
名付けて発表しました。ポアンカレ予想はその
中の一つです。プレミアム懸賞問題の解決者には
100万ドルの懸賞が与えられる決まりです。
しかしペレルマンはこれも拒否しました。
本書の副題の「100万ドルを拒否した…」はこの
事実を踏まえています。
本書を読んでいただければご理解いただけると
思いますが、ペレルマンがポアンカレ予想を証明
したとき、ニューヨーク・タイムズをはじめ、
米国のメディアは「これで100万ドル」という
観点からの報道に終始した嫌いがあります。
ペレルマンが、何でもかんでも金に結びつける
西側の報道に通底する価値観を、嫌悪していた
のは間違いないので、「100万ドルを拒否した
天才数学者」という本書の副題には、私は賛成
できません。「ブルータスよ、お前もか」と
いう印象です。
私にはむしろフィールズ賞を辞退したことの方が
驚きです。1936年に同賞が開設されて以来、
辞退したのは後にも先にもペレルマン独りです。
フィールズ賞は間違って「数学のノーべル賞」と
呼ばれることもありますが、ノーベル賞とは性格
が違いますし、ノーベル賞よりも権威が上です
(反対に賞金はずっと安い)。
フィールズ賞は、国際数学者連合(IMU)が4年
に1回開く総会である国際数学者会議(ICM)で
発表されます。4年に1回で、1回につき2名
ないし4名、しかも40歳未満という年齢制限が
付きます。年齢制限がなく、賞金が多額である
という点からは「アーベル賞」(ノルウェーが
主催)の方がノーベル賞に近い性格です。
ペレルマンがフィールズ賞を受賞した理由は
「①幾何学への貢献。②リッチフローの
解析学的かつ幾何学的な構造に対する、革命的な
洞察力」です。なお「リッチフロー」のリッチは
イタリア人数学者の名前です。キャッシュフロー
など似た用語と混同されませんように。
フィールズ賞を辞退した理由は、諸説ありますが
「証明が正しければ賞には興味がない」という
価値観によるとするものや、数学界の不誠実さや
不公平さを憂える観点から、とするものが多い
ようです。しかし本書を読んで私が感じたのは
フィールズ賞の受賞理由が「ポアンカレ予想の
解決」でなかったことが、ペレルマンの矜恃に
傷をつけたのではないか、です。上記のように
受賞理由は曖昧模糊としていて、「じゃあ、
ポアンカレ予想を解決したのは誰なのか?」
という一番肝心な点をはぐらかしているように
読めます。査読終了から時間がなかったせい
なのでしょうが、このような評価では、自分の
仕事を正当に評価されていない、とペレルマン
は感じたのではないかと私は思います(私見)。
本書の著者マーシャ・ガッセンは、残念ながら
ペレルマンとは会ったこともないとの由です。
しかし著者は実はロシア(ソ連)生まれで、
ペレルマンと同い年であり、自身も数学優秀で
ソ連のエリート校である数学学校に進学した
経歴を持ちます。途中で米国に移住し、数学
研究者にはなりませんでしたが、ジャーナリスト
として活躍しています。ソ連およびロシアの
数学界の様子、数学教育のシステムについて
リアルかつ詳しいのが本書の最大の特長です。
その意味で、本書をペレルマンの評伝として
読むよりも、ソ連の数学教育についての具体的
な記述として読む方が適していると思います。
そこでフィールズ賞という切り口から、数学大国
であるソ連(ロシア)を考察してみます。比較の
意味で日本と比べてみましょう。(もちろん、賞
だけで学問が図れるものではありませんが、一つ
のモノサシとして取り上げます。)
2022年4月段階で、ソ連(法的にその国家として
の継承者である)ロシアは、9人がフィールズ賞
を受賞しています。それに対し、日本は3人のみ
です。ざっくりと申しあげて、ソ連の人口は日本
のざっと2倍、ロシアの人口は日本のざっと1.2
倍くらいです。人口の差を補正しても、ソ連=
ロシアは、日本よりもかなり多くのフィールズ賞
受賞者を輩出していることが分かります。
事態は(日本にとって)さらに深刻です。
1990年の国際数学者会議は京都で開かれました。
このとき日本の森重文氏(1951-)、ソ連の
ウラジーミル・ドリンフェルト氏(1954-)ら
4人がフィールズ賞を受賞しています。この
時点で受賞者を累計しますと、ソ連が3人、
日本も3人で互角に並んでいました。
あれから32年。ソ連=ロシアはさらに6人が
受賞しトータル9人になりましたが、日本は
一人も受賞者がなく3人のままです。
ソ連が崩壊したのは法的には、1991年12月26日
ですが、1990年代のロシアは深刻な経済危機、
国家の体をなさないくらいのカオスの中にあり
ました。誇張でなく、飲まず食わずの危機に
さらされていました。しかるに1994年、1998年
と続けて受賞者を出し、さらに2000年代に入ると
2002年、2006年、2010年と受賞者を出してい
ます。2006年にペレルマンは辞退しましたが、
ウラジーミル・ヴォエヴォドスキー氏が受賞
しています。
ソ連崩壊直後のロシアでは、陸軍の軍人が
餓死することもあったほど、日常は混乱を極め
生活は不安定でした。にもかかわらず、数学界
最高の栄誉とされるフィールズ賞受賞者を輩出
し続けるとは、ソ連=ロシアの数学における
「基礎体力」「底力」を示唆しています。
もっとも、ソ連においては、軍事・核・宇宙など
工学・科学技術は国が生存するために必要であり
数学は、言わば科学と技術の「心臓」ですから
徹底したエリート教育が成されていました。その
リアルな実態は本書で詳述されています。政府が
数学ができる子供をスカウトして数学学校に入れ
一層のエリート教育を施すシステムです。実は
ペレルマンもその一人でした(本書の著者も)。
なおソ連では(エリートでない一般庶民も)
教育は基本、無償でした。ざっくりと申し上げる
ならば、国をあげて数学に力を入れていた関係で
もともとソ連の数学研究は裾野が広く、かつ水準
も高かったのですが、ソ連末期のグラスノスチと
ペレストロイカ政策によって、数学研究者が国外
へ留学するのが相対的に少しずつ容易になり、
ソ連崩壊後は基本的に自由になりました。その
結果、優秀な数学研究者が「国外流出」し、
欧米の大学や研究所で研究を続け、フィールズ賞
を受賞するだけの業績をあげたことになります。
もちろんそれだけが理由ではありません。
日本の大学は「数学科」「数理科学科」で数学を
勉強しますが、ソ連=ロシアでは、伝統的に
「力学数学科」で数学を勉強します。ここで言う
「力学」は狭義には物理学の一分野としての力学
ですが、広義には理論物理学を意味します。
日本の数学科が物理学を峻別(というより拒絶)
する傾向にあるのに対し、ソ連=ロシアでは
力学(物理学)も数学の一分野という意識があり
それがいわば数学に新しい血液を供給することに
よって、動脈硬化のような現象を防いでいるよう
にも見えます。
事実、トポロジーの大命題であった「ポアンカレ
予想」を、微分幾何の概念(リッチフロー)と
物理学的手法(非線形熱方程式など)を用いて
ペレルマンは証明しました。この事実は、
トポロジーの専門家に衝撃を与えたと言われて
います。力学数学科を持つ、ソ連=ロシアの
数学の通奏低音のようなものが有形無形に奏功
したのかもしれません。
なお上記において、ソ連にはウクライナも含まれ
ています。事実、上述のドリンフェルト氏は、
ソ連の数学者としてフィールズ賞を受賞しました
が、ウクライナのハリコフ出身の方(ユダヤ系)
です。現在ならウクライナ国籍に分類されるの
ではないかと思われます。
最後に、ソ連=ロシア出身の数学者は、
「数学のノーベル賞」と言われる「アーベル賞」
を既に3人受賞しています。グロモフ氏、
シナイ氏、マルグリス氏です。
一方、アーベル賞を受賞した日本人はいません。
やはり1990年以降の「失われた30年」による
日本の科学と技術と経済における衰退は顕著な
ものがあるとしみじみ実感します。
本書を読んで(数学に限らず)教育の大切さを
再認識しました。国(国民、国土、国語…)を
守るためには、防衛費よりも教育費の方が優先
されてしかるべきと思いました。他山の石と
する意味において本書は有益です。
Grigori Yakovlevich Perelman(1966-)
の半生を描いた評伝の日本語版です。
ペレルマンは「ポアンカレ予想」を証明したこと
で知られています。それは
「単連結な3次元コンパクト多様体は3次元球面
に同相である」という内容です。
フランスの数学者アンリ・ポアンカレ
(1854-1912)が1904年、提唱しました。
トポロジー(位相幾何)の王道に位置する命題
ですが、ペレルマンはリッチフローと非線形
熱方程式を用いて証明することに成功しました
(2002-2003のプレプリント3本)。
トポロジーの予想を、微分幾何および物理学的
手法によって証明した点が、独創的です。
ポアンカレ予想の解決によって、ペレルマンは
2006年度のフィールズ賞を受賞しましたが、
辞退します。同年年、スペイン・マドリードで
開かれた国際数学者会議(ICM)にも出席しま
せんでした。それどころか、所属していた
サンクトペテルブルクのステクロフ数学研究所
も辞めてしまい、現在はスウェーデンに移住し
研究を続けていると伝えられます。
(この書評では表記の都合上、ペレルマン氏には
原則、敬称をつけませんが、あくまで形式的な
理由なのでご海容をいただけますと幸いです)
米国のクレイ数学研究所は2000年、数学分野の
7つの難問について「プレミアム懸賞問題」と
名付けて発表しました。ポアンカレ予想はその
中の一つです。プレミアム懸賞問題の解決者には
100万ドルの懸賞が与えられる決まりです。
しかしペレルマンはこれも拒否しました。
本書の副題の「100万ドルを拒否した…」はこの
事実を踏まえています。
本書を読んでいただければご理解いただけると
思いますが、ペレルマンがポアンカレ予想を証明
したとき、ニューヨーク・タイムズをはじめ、
米国のメディアは「これで100万ドル」という
観点からの報道に終始した嫌いがあります。
ペレルマンが、何でもかんでも金に結びつける
西側の報道に通底する価値観を、嫌悪していた
のは間違いないので、「100万ドルを拒否した
天才数学者」という本書の副題には、私は賛成
できません。「ブルータスよ、お前もか」と
いう印象です。
私にはむしろフィールズ賞を辞退したことの方が
驚きです。1936年に同賞が開設されて以来、
辞退したのは後にも先にもペレルマン独りです。
フィールズ賞は間違って「数学のノーべル賞」と
呼ばれることもありますが、ノーベル賞とは性格
が違いますし、ノーベル賞よりも権威が上です
(反対に賞金はずっと安い)。
フィールズ賞は、国際数学者連合(IMU)が4年
に1回開く総会である国際数学者会議(ICM)で
発表されます。4年に1回で、1回につき2名
ないし4名、しかも40歳未満という年齢制限が
付きます。年齢制限がなく、賞金が多額である
という点からは「アーベル賞」(ノルウェーが
主催)の方がノーベル賞に近い性格です。
ペレルマンがフィールズ賞を受賞した理由は
「①幾何学への貢献。②リッチフローの
解析学的かつ幾何学的な構造に対する、革命的な
洞察力」です。なお「リッチフロー」のリッチは
イタリア人数学者の名前です。キャッシュフロー
など似た用語と混同されませんように。
フィールズ賞を辞退した理由は、諸説ありますが
「証明が正しければ賞には興味がない」という
価値観によるとするものや、数学界の不誠実さや
不公平さを憂える観点から、とするものが多い
ようです。しかし本書を読んで私が感じたのは
フィールズ賞の受賞理由が「ポアンカレ予想の
解決」でなかったことが、ペレルマンの矜恃に
傷をつけたのではないか、です。上記のように
受賞理由は曖昧模糊としていて、「じゃあ、
ポアンカレ予想を解決したのは誰なのか?」
という一番肝心な点をはぐらかしているように
読めます。査読終了から時間がなかったせい
なのでしょうが、このような評価では、自分の
仕事を正当に評価されていない、とペレルマン
は感じたのではないかと私は思います(私見)。
本書の著者マーシャ・ガッセンは、残念ながら
ペレルマンとは会ったこともないとの由です。
しかし著者は実はロシア(ソ連)生まれで、
ペレルマンと同い年であり、自身も数学優秀で
ソ連のエリート校である数学学校に進学した
経歴を持ちます。途中で米国に移住し、数学
研究者にはなりませんでしたが、ジャーナリスト
として活躍しています。ソ連およびロシアの
数学界の様子、数学教育のシステムについて
リアルかつ詳しいのが本書の最大の特長です。
その意味で、本書をペレルマンの評伝として
読むよりも、ソ連の数学教育についての具体的
な記述として読む方が適していると思います。
そこでフィールズ賞という切り口から、数学大国
であるソ連(ロシア)を考察してみます。比較の
意味で日本と比べてみましょう。(もちろん、賞
だけで学問が図れるものではありませんが、一つ
のモノサシとして取り上げます。)
2022年4月段階で、ソ連(法的にその国家として
の継承者である)ロシアは、9人がフィールズ賞
を受賞しています。それに対し、日本は3人のみ
です。ざっくりと申しあげて、ソ連の人口は日本
のざっと2倍、ロシアの人口は日本のざっと1.2
倍くらいです。人口の差を補正しても、ソ連=
ロシアは、日本よりもかなり多くのフィールズ賞
受賞者を輩出していることが分かります。
事態は(日本にとって)さらに深刻です。
1990年の国際数学者会議は京都で開かれました。
このとき日本の森重文氏(1951-)、ソ連の
ウラジーミル・ドリンフェルト氏(1954-)ら
4人がフィールズ賞を受賞しています。この
時点で受賞者を累計しますと、ソ連が3人、
日本も3人で互角に並んでいました。
あれから32年。ソ連=ロシアはさらに6人が
受賞しトータル9人になりましたが、日本は
一人も受賞者がなく3人のままです。
ソ連が崩壊したのは法的には、1991年12月26日
ですが、1990年代のロシアは深刻な経済危機、
国家の体をなさないくらいのカオスの中にあり
ました。誇張でなく、飲まず食わずの危機に
さらされていました。しかるに1994年、1998年
と続けて受賞者を出し、さらに2000年代に入ると
2002年、2006年、2010年と受賞者を出してい
ます。2006年にペレルマンは辞退しましたが、
ウラジーミル・ヴォエヴォドスキー氏が受賞
しています。
ソ連崩壊直後のロシアでは、陸軍の軍人が
餓死することもあったほど、日常は混乱を極め
生活は不安定でした。にもかかわらず、数学界
最高の栄誉とされるフィールズ賞受賞者を輩出
し続けるとは、ソ連=ロシアの数学における
「基礎体力」「底力」を示唆しています。
もっとも、ソ連においては、軍事・核・宇宙など
工学・科学技術は国が生存するために必要であり
数学は、言わば科学と技術の「心臓」ですから
徹底したエリート教育が成されていました。その
リアルな実態は本書で詳述されています。政府が
数学ができる子供をスカウトして数学学校に入れ
一層のエリート教育を施すシステムです。実は
ペレルマンもその一人でした(本書の著者も)。
なおソ連では(エリートでない一般庶民も)
教育は基本、無償でした。ざっくりと申し上げる
ならば、国をあげて数学に力を入れていた関係で
もともとソ連の数学研究は裾野が広く、かつ水準
も高かったのですが、ソ連末期のグラスノスチと
ペレストロイカ政策によって、数学研究者が国外
へ留学するのが相対的に少しずつ容易になり、
ソ連崩壊後は基本的に自由になりました。その
結果、優秀な数学研究者が「国外流出」し、
欧米の大学や研究所で研究を続け、フィールズ賞
を受賞するだけの業績をあげたことになります。
もちろんそれだけが理由ではありません。
日本の大学は「数学科」「数理科学科」で数学を
勉強しますが、ソ連=ロシアでは、伝統的に
「力学数学科」で数学を勉強します。ここで言う
「力学」は狭義には物理学の一分野としての力学
ですが、広義には理論物理学を意味します。
日本の数学科が物理学を峻別(というより拒絶)
する傾向にあるのに対し、ソ連=ロシアでは
力学(物理学)も数学の一分野という意識があり
それがいわば数学に新しい血液を供給することに
よって、動脈硬化のような現象を防いでいるよう
にも見えます。
事実、トポロジーの大命題であった「ポアンカレ
予想」を、微分幾何の概念(リッチフロー)と
物理学的手法(非線形熱方程式など)を用いて
ペレルマンは証明しました。この事実は、
トポロジーの専門家に衝撃を与えたと言われて
います。力学数学科を持つ、ソ連=ロシアの
数学の通奏低音のようなものが有形無形に奏功
したのかもしれません。
なお上記において、ソ連にはウクライナも含まれ
ています。事実、上述のドリンフェルト氏は、
ソ連の数学者としてフィールズ賞を受賞しました
が、ウクライナのハリコフ出身の方(ユダヤ系)
です。現在ならウクライナ国籍に分類されるの
ではないかと思われます。
最後に、ソ連=ロシア出身の数学者は、
「数学のノーベル賞」と言われる「アーベル賞」
を既に3人受賞しています。グロモフ氏、
シナイ氏、マルグリス氏です。
一方、アーベル賞を受賞した日本人はいません。
やはり1990年以降の「失われた30年」による
日本の科学と技術と経済における衰退は顕著な
ものがあるとしみじみ実感します。
本書を読んで(数学に限らず)教育の大切さを
再認識しました。国(国民、国土、国語…)を
守るためには、防衛費よりも教育費の方が優先
されてしかるべきと思いました。他山の石と
する意味において本書は有益です。
2012年1月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
数学や物理学の分野で定評のある訳者青木薫氏の著作を読むのは、「フェルマーの最終定理」、「暗号解読」に続いて
3作目です。
フェルマーの最終定理と同様、ポアンカレ予想という数学上の世紀の難問を証明したロシア人ペレルマンの物語ですが、
ポアンカレ予想というのがいったいどういう問題なのか、最後まで説明されません。いわゆる伝記物と考えたほうがよ
いでしょう。
著作の前半は、ペレルマンも含めたユダヤ人が、旧ソビエト体制のなかで、いかに差別・冷遇されてきたかが、彼の幼
少期のエピソードなどを交えて説明されていきますが、少々ページ数を割き過ぎで食傷気味です。
後半は、この数学上の難問に懸けられた100万ドルの賞金や、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞など、一切の
栄誉を拒否したペレルマンの心情を、彼を知る関係者たちからの証言で推察しています。すなわち、世紀の難問を解
いた自分と他の受賞者が同列に扱われるのを嫌ったからだとか、純粋な数学上の業績が金銭の絡む問題となり侮辱を
感じたからだとかです。あるいはノーベル賞でもそうですが、名誉を横取りしようとする輩が必ず出現し、トゲのあ
る言葉で論評されるのに気分を害したのかもしれません。結果、彼は数学界から身を引いてしまうのです。
しかし、まぎれもなく今世紀最高の数学者の一人である彼には、どこかの国の文学賞受賞者のように、「賞をもらって
やる」と言ってほしかった。そして数学界発展のためにも後輩の指導にまい進してほしかった。
私の評価としては、冒頭で述べた前作のようなドキドキ感が少なく、☆3つです。
3作目です。
フェルマーの最終定理と同様、ポアンカレ予想という数学上の世紀の難問を証明したロシア人ペレルマンの物語ですが、
ポアンカレ予想というのがいったいどういう問題なのか、最後まで説明されません。いわゆる伝記物と考えたほうがよ
いでしょう。
著作の前半は、ペレルマンも含めたユダヤ人が、旧ソビエト体制のなかで、いかに差別・冷遇されてきたかが、彼の幼
少期のエピソードなどを交えて説明されていきますが、少々ページ数を割き過ぎで食傷気味です。
後半は、この数学上の難問に懸けられた100万ドルの賞金や、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞など、一切の
栄誉を拒否したペレルマンの心情を、彼を知る関係者たちからの証言で推察しています。すなわち、世紀の難問を解
いた自分と他の受賞者が同列に扱われるのを嫌ったからだとか、純粋な数学上の業績が金銭の絡む問題となり侮辱を
感じたからだとかです。あるいはノーベル賞でもそうですが、名誉を横取りしようとする輩が必ず出現し、トゲのあ
る言葉で論評されるのに気分を害したのかもしれません。結果、彼は数学界から身を引いてしまうのです。
しかし、まぎれもなく今世紀最高の数学者の一人である彼には、どこかの国の文学賞受賞者のように、「賞をもらって
やる」と言ってほしかった。そして数学界発展のためにも後輩の指導にまい進してほしかった。
私の評価としては、冒頭で述べた前作のようなドキドキ感が少なく、☆3つです。
2009年12月20日に日本でレビュー済み
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本書は数学史上の難題「ポアンカレ予想」を解きながら、賞金100万ドルの授受及びフィールズ賞の受賞をも固辞した上、忽然と姿を消したロシア生れのユダヤ人数学者ペレルマンの謎に迫ったもの。著者は同じロシア生まれのユダヤ人で、数学専攻後、アメリカへ移住したジャーナリスト。そのため、旧ソ連の社会体制の告発本ともなっている。
「数学は社会主義に奉仕すべし!」とのスローガン。反共と目された大物数学者が次々と弾劾される様子。研究成果の西側への発表も、エリート教育も不可である。そんな中、エリート教育機関の創設・運営に注力したコルモゴロフが紹介される。しかし、彼もまた晩年弾劾の憂き目に遭う。次いで、数学の能力を持つ少年を自ら発掘し教育を施す名伯楽ルクシンが紹介される。"数学クラブ"を主宰する彼こそがペレルマンの育ての親であり、庇護者であった。そして、若き日のペレルマンの経験を通じ彼の三つの特性が語られる。
(1) 自身の理想に合わない外界(ユダヤ人差別等)への閉鎖性。
(2) 世間的成功よりも信念が大切。
(3) 自身の世界での完全な成功を目指す。
現実との折り合い方に苦労した様子が窺える。ペレルマンは幾何学を選び、ペレストロイカによってアメリカに渡り、「ソウル予想」を証明し脚光を浴びる。アメリカに残る選択肢もあったが、ロシアに帰国する。この頃から、「自身の数学的能力を理解出来るのは自身だけ」との考えがあったようだ。イデオロギー統制と人種差別への反発が大きいと思う。そして、「ポアンカレ予想」の内容が紹介され、ペレルマンは証明を公表する...。
斬新な切り口である。専門分野の記述を極力避けながら、関係者へのインタビューの積み重ねを中心に、潔癖過ぎる天才数学者の孤高の人生を追った秀逸な評伝。
「数学は社会主義に奉仕すべし!」とのスローガン。反共と目された大物数学者が次々と弾劾される様子。研究成果の西側への発表も、エリート教育も不可である。そんな中、エリート教育機関の創設・運営に注力したコルモゴロフが紹介される。しかし、彼もまた晩年弾劾の憂き目に遭う。次いで、数学の能力を持つ少年を自ら発掘し教育を施す名伯楽ルクシンが紹介される。"数学クラブ"を主宰する彼こそがペレルマンの育ての親であり、庇護者であった。そして、若き日のペレルマンの経験を通じ彼の三つの特性が語られる。
(1) 自身の理想に合わない外界(ユダヤ人差別等)への閉鎖性。
(2) 世間的成功よりも信念が大切。
(3) 自身の世界での完全な成功を目指す。
現実との折り合い方に苦労した様子が窺える。ペレルマンは幾何学を選び、ペレストロイカによってアメリカに渡り、「ソウル予想」を証明し脚光を浴びる。アメリカに残る選択肢もあったが、ロシアに帰国する。この頃から、「自身の数学的能力を理解出来るのは自身だけ」との考えがあったようだ。イデオロギー統制と人種差別への反発が大きいと思う。そして、「ポアンカレ予想」の内容が紹介され、ペレルマンは証明を公表する...。
斬新な切り口である。専門分野の記述を極力避けながら、関係者へのインタビューの積み重ねを中心に、潔癖過ぎる天才数学者の孤高の人生を追った秀逸な評伝。
2015年8月8日に日本でレビュー済み
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つまらない。肝心の主人公がなかなか登場しない。。自分の事など書かなくてよろしい。