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氷山の南 単行本 – 2012/3/26
- 本の長さ547ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2012/3/26
- ISBN-10416380790X
- ISBN-13978-4163807904
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2012/3/26)
- 発売日 : 2012/3/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 547ページ
- ISBN-10 : 416380790X
- ISBN-13 : 978-4163807904
- Amazon 売れ筋ランキング: - 980,220位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
1945年、北海道生れ。埼玉大学理工学部中退。
二十代から世界各地を旅し、ギリシャ、沖縄、フランスで暮らす。現在は、札幌在住。公式サイトは[cafe impala]
http://www.impala.jp
1988年「スティル・ライフ」で芥川賞を受賞。詩、小説、随筆、翻訳(英・ギリシャ語)、書評と執筆は多岐にわたる。広く深い文学的教養と理系的知識を土台に、自然と人間の関わりについての示唆に富んだ作品を多く著している。
ワープロ原稿で芥川賞を受賞した初めて作家でもあり、9.11をきっかけに毎日メールマガジンを通じて意見を表明する(『新世紀へようこそ』に収録)など、早くからデジタル・メディアの活用に関心を持つ。2014年からは株式会社ボイジャーと共同で自身の著作の電子アーカイブ化にも取り組んでいる。
主な著書に『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)『ハワイイ紀行』(JTB出版文化賞)『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)『すばらしい新世界』(芸術選奨文部科学大臣賞)『イラクの小さな橋を渡って』『憲法なんて知らないよ』『言葉の流星群』(宮沢賢治賞)『静かな大地』(親鸞賞)『パレオマニア』等。2003年、著作活動全般について司馬遼太郎賞、「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」の編纂で朝日賞を受賞。
東日本大震災の後は被災地に通い、『春を恨んだりはしない』『双頭の船』『アトミック・ボックス』を執筆。震災をきっかけに日本と日本人について思索したいとの思いから、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」に取り組み、2014年末から刊行開始。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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氷山を港まで引っ張ってくるという壮大なスケールのプロジェクトと、プロジェクトを遂行するため、世界中から集められたそれぞれの専門家たち。
出航するシンディバード号に、主人公のジン・カイザワは密航を試みます。
結局、密航は早々に発見されたものの、新聞記者を任されたジン・カイザワは、船内の多民族クルー、氷山の曳航を妨害する”アイシスト”からの攻撃、自分の中に流れるアイヌの血など、
さまざまな出来事や考え方に対峙し、それらを咀嚼し、成長していきます。
冒険もの、と聞くと想像するような、派手な戦闘があるわけではありませんが、
哲学的で静謐な闘いと、読み終わった後に、瞑想していたかのような不思議な余韻が残る作品です。
近未来冒険小説なのだけれども、非常に現実味があるのだ。
化学は正しく使ってこそ意味がある。
そんなことがひしひしと伝わってくる。
自然への畏敬の念は絶対に必要なのだ。
密航者のジンの罪が赦され、トントン拍子に物事が進む序盤は、ご都合主義的でやや興醒めしたが、読み進めるうちに、本書の世界観にはまっていった。
本書は、現代版・海洋版のバベルの塔の物語だ。神の摂理に挑む人類を待ち受けているのは、新たなる展望か、はたまた破滅的な未来か。
大自然の中に神を見出だしてきたアイヌ、アボリジニを主要登場人物とする一方で、敬虔なムスリムの族長をキーマンとして配している。そして、氷を眼前に置いて観想し、抑制的に生きることをよしとする「アイシスト」も登場する。バベルの塔の語り部としては十分な配置である。
血沸き肉踊るような冒険譚ではなく、哲学的・思索的な作品であった。
このレビュー欄を書かれた皆さんがあまりにも上手に書かれているので(皆さん文藝春秋の方?)そちらの方に★ひとつ。
ところが、密航前に知り合った同年代のアボリジニの画家から「来い」と欠かれた手紙を受け取り、少年はアボリジニの地へ行き、画家と旅をする。このあたりから小説は近代科学に見切りを付けて精神世界に傾斜して行く。アイヌ、アボリジニ、アイシスト、これらがキーワード。ただ氷山でのイニシエーションは少し唐突で、その時見た夢がシンクロしてという辺りでちょっとついていけない感じになりました。最後には文明批判らしいオチが付き「やっぱりね」という感じ。池澤氏ならもう少し、上手いストーリー展開で書けなかったかなという印象です。
冒険小説にしては、主人公の少年ジンが完璧すぎます。直感を頼りに密航したところは若者らしさがあるものの、それ以降はあまりに分別がありすぎです。パン焼きの仕事も船内新聞の記者としての仕事もすぐに習熟してしまい、冷静沈着かつ判断も的確。船内の誰にも好かれ、恋人もすぐにできてしまう。こんな18歳いるか?と読み進めながら思ってしまいました。
あまりに物事が順風満帆に行き過ぎるため、読み始めは退屈なくらいでした。が、徐々にテーマの片鱗が見えてきてからは話に深みが加わり面白くなってきました。特に強烈な存在感を放つのが、アイシストと呼ばれる信仰集団です。氷に象徴される自然を崇拝するこの集団は「妨害」を企てますが、といっても過激な海賊行為に走るのではなく、とても崇高な思想を掲げており、行使する手段もとてもスマート。人間中心の思考と自然のあり方について鋭い文明批評を展開し、広い視点から読者に再考を促してきます。
また、船には職種も国籍も宗教も多様な人たちが乗っているのですが、彼・彼女らが共通の目標に向かって、お互いをリスペクトしながら自分の役割を果たしています。その際、誰がどうリーダーシップを発揮し、乗員たちをモチベートし、プロジェクトをドライブしていくか、というのも読みどころの一つ。強権的なリーダーが一人いるというわけではないのがミソです。この船が一つの小さな世界を構成しており、これからのグローバルな世界のあり方を示しているようです。
550ページ近い長編ですが、そこまで長く感じさせないほどに充実しています。