本書は、村上春樹(1949年~)氏が、1995~2015年にいくつかの雑誌のために書いた紀行文をまとめたもの。大半の初出は、JALのファーストクラス向け機内誌「アゴラ」(但し、雑誌に掲載されたものより長いバージョンだそう)で、その他は、雑誌「太陽 臨時増刊」、雑誌「タイトル」、雑誌「クレア」である。2015年に出版、2018年に文庫化された。
訪れた場所は、米ボストン、アイスランド、米のオレゴン州ポートランドとメイン州ポートランド、ギリシャのミコノス島とスペッツェス島、ニューヨークのジャズクラブ、フィンランド、ラオスのルアンプラバン、イタリアのトスカーナ地方、熊本で、村上氏が過去に数ヶ月~数年間滞在した場所(ボストンやギリシャ)への再訪もあれば、初めて訪問した場所もある。
私は、本はよく読むものの、多くがノンフィクションで、村上氏の作品についても、読んだ記憶があるのは、初期の『風の歌を聴け』、『羊をめぐる冒険』、『ノルウェイの森』あたりまでで、その後の小説は全く読んでいないのだが(私は天邪鬼的なところがあり、村上氏が注目されるようになるほど、読む気がしなくなったのだ)、紀行文集である本書は出版当時から気にはなっており、今般(出版から随分経ってしまったが)読んでみた。
そして、読後感は予想以上に良いものであった。私は旅も好きなので、ノンフィクションの中でも、紀行文や世界各地を取材したルポルタージュをよく読むし、それらの大抵のものを面白いと感じるのだが、紀行文やルポは、書き手の感性や文章表現の特徴がよく出るジャンルなので、その面白さの差(更に言えば、好き・嫌い)が意外にはっきりするものである。そうした点で、村上氏の紀行文は、関心の対象やそれらの表現の仕方が自分に合っていて(例えば、村上氏の紀行文では、( )書きの細かい補足や、一つの段落が「・・・だけれど。」という逆説で終わっていることが比較的多いが、これは書き手の思考・表現のくせだと私は思っており、私もそういう文章を書くタイプである)、心地よく読むことができた。
また、私の最も好きな書き手は(紀行文に限らず)沢木耕太郎で、本書を読んでいる途中で、しばしば、沢木氏の作品を読んでいるような錯覚に陥ったのだが、それは、両者の感性と表現の仕方が似ている(また、全体にスマートさを感じさせる点も似ている)からなのだと思われる。
村上氏が90年代に数年間住んだというボストンについて書かれた文章の中に次のようなくだりがある。「かつて住民の一人として日々の生活を送った場所を、しばしの歳月を経たあとに旅行者として訪れるのは、なかなか悪くないものだ。そこにはあなたの何年かぶんの人生が、切り取られて保存されている。潮の引いた砂浜についたひとつながりの足跡のように、くっきりと。そこで起こったこと、見聞きしたこと、そのときに流行っていた音楽、吸い込んだ空気、出会った人々、交わされた会話。もちろんいくつかの面白くないこと、悲しいこともあったかもしれない。しかし良きことも、それほど好ましいとはいえないことも、すべては時間というソフトな包装紙にくるまれ、あなたの意識の引き出しの中に、香り袋とともにしまい込まれている。」
私も村上氏と同じように、数ヶ月から数年の期間住んだ外国の街がいくつかあるのだが、是非改めてゆっくり訪れてみたいと強く感じた。(国内の街でも同様のことは感じるのであろうが、外国の街の方が、それは一層強いに違いない)
(2024年4月了)
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ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 単行本 – 2015/11/21
村上 春樹
(著)
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『ノルウェイの森』を書いたギリシャの島再訪、フィンランド、トスカナ、熊本など…。旅先で何もかもがうまく行ったら、それは旅行じゃない。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2015/11/21
- ISBN-10416390364X
- ISBN-13978-4163903644
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「旅先で何もかもがうまく行ったら、それは旅行じゃない」
村上春樹、待望の紀行文集。
アメリカ各地、荒涼たるアイスランド、かつて住んだギリシャの島々を再訪、長編小説の舞台フィンランド、信心深い国ラオス、どこまでも美しいトスカナ地方、そしてなぜか熊本。旅というものの稀有な魅力を書き尽くす。写真多数を収録。
村上春樹、待望の紀行文集。
アメリカ各地、荒涼たるアイスランド、かつて住んだギリシャの島々を再訪、長編小説の舞台フィンランド、信心深い国ラオス、どこまでも美しいトスカナ地方、そしてなぜか熊本。旅というものの稀有な魅力を書き尽くす。写真多数を収録。
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2015/11/21)
- 発売日 : 2015/11/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 256ページ
- ISBN-10 : 416390364X
- ISBN-13 : 978-4163903644
- Amazon 売れ筋ランキング: - 176,638位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,775位紀行文・旅行記
- - 3,316位近現代日本のエッセー・随筆
- カスタマーレビュー:
著者について
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1949(昭和24)年、京都府生れ。早稲田大学文学部卒業。
1979年、『風の歌を聴け』でデビュー、群像新人文学賞受賞。主著に『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞受賞)、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『ノルウェイの森』、『アンダーグラウンド』、『スプートニクの恋人』、『神の子どもたちはみな踊る』、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』など。『レイモンド・カーヴァー全集』、『心臓を貫かれて』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『ロング・グッドバイ』など訳書も多数。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年4月4日に日本でレビュー済み
2023年4月21日に日本でレビュー済み
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村上春樹の文章は、紀行文だけでなく、音楽、食事、酒、日常の様々なことを、とても魅力的に生き生きと伝えてくれる。読むとそこに行きたくなり、食べたくなり、紹介されたCDを購入したくなる。村上春樹の才能が豊かなためで、最も面白い長編小説だけでなく、短編もエッセイも皆魅力的で楽しい。これからも村上春樹の作品は読み続けるだろう。
2021年5月19日に日本でレビュー済み
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昔は、村上春樹好きではありませんでした。でもリハビリ中な妹が村上春樹が好きで、今は作家になってくれてありがとうございます!という気持ちです。誕生日プレゼントで買いました。とても喜んでいました。
2018年8月1日に日本でレビュー済み
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タイトルは、ベトナムからラオスに行くと言った筆者に対する、あるベトナム人の反応です。
周辺国のラオスに対する見方を表しているようでとてもおもしろいタイトルですが、それ以上でもそれ以下でもありません。
そもそもラオス自体の記載部分は少なく、筆者としても特別同国に思い入れがあるようには見えませんでした。
恥ずかしながら私はこの高名な筆者の小説は一冊も読んだことがなく、読んだのはこのエッセイくらいで、
彼に対する評価が特にない中で感じるのは、この人はエッセイで読むくらいの距離感でちょうどよく、近くにいたら本当にめんどくさいオジサンなんだろうなってことです。
最初はラオスについて読みたくて買ってみたものの、その点については全く期待に沿ってませんが、
結果として彼の素がひしひしと伝わるようなエッセイに出会えてよかったかなと思います。
周辺国のラオスに対する見方を表しているようでとてもおもしろいタイトルですが、それ以上でもそれ以下でもありません。
そもそもラオス自体の記載部分は少なく、筆者としても特別同国に思い入れがあるようには見えませんでした。
恥ずかしながら私はこの高名な筆者の小説は一冊も読んだことがなく、読んだのはこのエッセイくらいで、
彼に対する評価が特にない中で感じるのは、この人はエッセイで読むくらいの距離感でちょうどよく、近くにいたら本当にめんどくさいオジサンなんだろうなってことです。
最初はラオスについて読みたくて買ってみたものの、その点については全く期待に沿ってませんが、
結果として彼の素がひしひしと伝わるようなエッセイに出会えてよかったかなと思います。
2023年2月22日に日本でレビュー済み
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ラオスへの旅行を決めたので、村上春樹さんの『ラオスにいったい何があるというんですか?』を読んでみた。ラオスはほんの一部分で欧米中心。全体的に心地の良いゆるさの旅行記・海外滞在記で、のんびり楽しめました。
ラオスについて、
『ルアンプラバンでは、僕らは自分が見たいものを自分でみつけ、それを自前の目で、時間をかけて眺めなくてはならない(時間だけはたっぷりある)。そして手持ちの想像力をそのたびにこまめに働かせなくてはならない。そこは僕らの出来合の基準やノウハウを適当にあてはめて、流れ作業的に情報処理ができる場所ではないからだ』
と書かれていますが、これだけでは全然わからない。行ってからのお楽しみ。
ラオスについて、
『ルアンプラバンでは、僕らは自分が見たいものを自分でみつけ、それを自前の目で、時間をかけて眺めなくてはならない(時間だけはたっぷりある)。そして手持ちの想像力をそのたびにこまめに働かせなくてはならない。そこは僕らの出来合の基準やノウハウを適当にあてはめて、流れ作業的に情報処理ができる場所ではないからだ』
と書かれていますが、これだけでは全然わからない。行ってからのお楽しみ。
2017年5月19日に日本でレビュー済み
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2017年のGWにラオス(ちょうど紀行文に出てくるルアンパバーン)へ。
同行の妹に誘われるがままに、それこそ「一体何があるというんですか?」モードで訪れた私。
現地で参加したツアーにいた、香港からの旅行者に「なぜラオスへ来たんですか?」と問うと
「HARUKI MURAKAMIの本に書いてあったから」と応えるではないか。
さすが世界のムラカミ。
街はのんびりとして心地よく、ひともやさしく過ごしやすかったのだが
暇でもあったのでKindleをDLして読みはじめる。
やはり行ったことのある街や、行くことが現実的である街(たとえば国内とか)は
想像しやすいので読んでいてたのしい。
熊本旅に関しては、アテンドのおふたりに身を任せてゆるり旅をたのしんでいる感じがいい。
これを機に春樹本ブーム再来かと思いきや、案外さらりと読み終えてしまったので
しばらく読まなそうではあるが、旅をするときには読みたくなる本であった。
同行の妹に誘われるがままに、それこそ「一体何があるというんですか?」モードで訪れた私。
現地で参加したツアーにいた、香港からの旅行者に「なぜラオスへ来たんですか?」と問うと
「HARUKI MURAKAMIの本に書いてあったから」と応えるではないか。
さすが世界のムラカミ。
街はのんびりとして心地よく、ひともやさしく過ごしやすかったのだが
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2023年3月30日に日本でレビュー済み
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また外国行きたいな