ドイツのフォルクスワーゲン社の排ガス不正事件について、ひととおりわかる。類書がほとんどないだけに、希少な本でもある。さほど突っ込んだレベルの話はないが、大手マスコミ出身の著者だけに、全体わかりやすく処理、解説してくれる。大企業の不正事件は、フォルクスワーゲン社のみならず、日本でもときどきある。あるいは、独裁経営者による経営迷走事件もある。フォルクスワーゲン社のケースは、滅多にないケースではなく、大企業の陥りやすい罠の一つのようだ。
この本でもっとも興味深く読んだのは、本文ではなく、「あとがき」だ。あとがきで、著者はドイツの産業構造を説明してくれている。ドイツでは、中小企業人口が圧倒的に多く、全体の8割にもなる。その中小企業には、世界を相手に稼ぐイノベーション企業が少なくなく、ドイツ経済を担っているとのこと。なんだか日本の産業構造と似ていなくもないが、著者は日本の中小企業の開発能力よりもドイツのそれを評価しているようだ。この知っているようで知らない話は、新鮮であった。ドイツでは、中小企業が強く、大企業が少しコケたくらいで、ドイツ経済はよたらない。著者によれば、フォルクスワーゲン事件のドイツ経済に与える影響はさほどではないようだ。なかなかの見立てだと思う。
この本の難点を唯一挙げるなら、著者の元大マスコミ在籍者的な上から目線。本文の最後に、日本がドイツの事件を対岸の火事と見ることは「許されない」と記しているが、われわれ日本人一人ひとりが著者に「許されない」と断じられる筋合いはない。著者の正義感、正義への思い込みが、上からの押しつけになっている。わかりやすい文章を書く著者なのに、反発を買う文章を書いてしまっているのだ。
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偽りの帝国 緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇 単行本 – 2016/8/11
熊谷 徹
(著)
誰が、なぜ? 現地徹底取材で送る、王国の腐敗
2015年9月、世界の自動車市場でトヨタと1位、2位を争うフォルクスワーゲン(VW)グループで、創業以来最大のスキャンダルが発覚した。
同社は、一部のディーゼル車のエンジンに違法なソフトウエアを搭載することによって、米国の厳しい窒素酸化物規制をかいくぐっていたのだ。欧州最大の自動車メーカーの株価は一時約40%下落し、250億ユーロ・3兆5000億円の株式時価総額が吹き飛んだ。マルティン・ヴィンターコルンCEO(経営最高責任者)は、引責辞任に追い込まれ、トヨタ打倒の夢は、一瞬にして崩れ去った。
この事件によるVWの負担総額は7兆円から13兆円にのぼる可能性がある、と言われる。世界中に12の自動車メーカー、60万人の従業員を抱える、ドイツの看板企業、コンプライアンス(法令順守)を重視する優良企業が、なぜ排ガスデータを捏造したのか?
25年間にわたってドイツで働き、この国の経済・社会について多数の本や論文を発表してきたジャーナリストが、世界の経済史に残る巨大スキャンダルを徹底取材。日本では伝えられない資料を駆使して、事件の経過、VWの歴史、社内権力構造を分析。事件の闇に光を当てる。
2015年9月、世界の自動車市場でトヨタと1位、2位を争うフォルクスワーゲン(VW)グループで、創業以来最大のスキャンダルが発覚した。
同社は、一部のディーゼル車のエンジンに違法なソフトウエアを搭載することによって、米国の厳しい窒素酸化物規制をかいくぐっていたのだ。欧州最大の自動車メーカーの株価は一時約40%下落し、250億ユーロ・3兆5000億円の株式時価総額が吹き飛んだ。マルティン・ヴィンターコルンCEO(経営最高責任者)は、引責辞任に追い込まれ、トヨタ打倒の夢は、一瞬にして崩れ去った。
この事件によるVWの負担総額は7兆円から13兆円にのぼる可能性がある、と言われる。世界中に12の自動車メーカー、60万人の従業員を抱える、ドイツの看板企業、コンプライアンス(法令順守)を重視する優良企業が、なぜ排ガスデータを捏造したのか?
25年間にわたってドイツで働き、この国の経済・社会について多数の本や論文を発表してきたジャーナリストが、世界の経済史に残る巨大スキャンダルを徹底取材。日本では伝えられない資料を駆使して、事件の経過、VWの歴史、社内権力構造を分析。事件の闇に光を当てる。
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2016/8/11
- ISBN-104163904832
- ISBN-13978-4163904832
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2016/8/11)
- 発売日 : 2016/8/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 208ページ
- ISBN-10 : 4163904832
- ISBN-13 : 978-4163904832
- Amazon 売れ筋ランキング: - 424,683位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 120,798位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年8月29日に日本でレビュー済み
2017年3月11日に日本でレビュー済み
ドイツウォッチャーとしては最も信頼の置ける在独日本人ジャーナリストが書いたフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題に関する本。通読して思ったのは、VWの排ガス不正は、東電の福島原発事故を想起させる面があるのではということ。
1. VWの不正は、「真面目で規律を重んじるドイツ人が・・・」という衝撃を日本で起こしたと筆者は指摘(2頁)。逆に福島の原発事故も真面目で規律を重んじる日本ですら原発事故が起きるという衝撃をドイツに与えた。
2. 不正発覚までVWは、ディーゼル車はクリーンと宣伝(25頁)。そう言えば3.11以前も、原発はクリーン・エネルギーと宣伝されていた。
3. 会社の特殊な構造。VWは地元のニーダーザクセン州が大株主。日本の電力会社も自治体が株を持つ構造。東電に至っては、最後は事実上国有化。
4. 襲い掛かる巨額の経済負担。事故や問題発覚後、訴訟が相次ぎ、底なしの賠償や補償に見舞われたのはVWも東電も同じ。
5. 不正発覚後、VWも電気自動車重視に舵を切らざるをえなくなった。同様に原発事故後、日本は好むと好まざるとにかかわらず、脱原発依存へ進まざるを得なくなった。再稼動されても数基程度で、以前のように54基の全原発稼動は無理というのが常識。
ちなみにドイツは脱原発・脱石炭という「エネルギー転換」を国策として進めているが、VWのミュラー新社長は「(電気自動車重視という)わが社の新戦略は、車の『エネルギー転換』だ」と語っているとか(195頁)。
むろん必要以上に窒素酸化物を放出して大気を汚したVWと、放射能を撒きちらして国土を汚させ、数万人の避難民を生み出した東電のどちらが悪質かは言うまでもないが・・・
1. VWの不正は、「真面目で規律を重んじるドイツ人が・・・」という衝撃を日本で起こしたと筆者は指摘(2頁)。逆に福島の原発事故も真面目で規律を重んじる日本ですら原発事故が起きるという衝撃をドイツに与えた。
2. 不正発覚までVWは、ディーゼル車はクリーンと宣伝(25頁)。そう言えば3.11以前も、原発はクリーン・エネルギーと宣伝されていた。
3. 会社の特殊な構造。VWは地元のニーダーザクセン州が大株主。日本の電力会社も自治体が株を持つ構造。東電に至っては、最後は事実上国有化。
4. 襲い掛かる巨額の経済負担。事故や問題発覚後、訴訟が相次ぎ、底なしの賠償や補償に見舞われたのはVWも東電も同じ。
5. 不正発覚後、VWも電気自動車重視に舵を切らざるをえなくなった。同様に原発事故後、日本は好むと好まざるとにかかわらず、脱原発依存へ進まざるを得なくなった。再稼動されても数基程度で、以前のように54基の全原発稼動は無理というのが常識。
ちなみにドイツは脱原発・脱石炭という「エネルギー転換」を国策として進めているが、VWのミュラー新社長は「(電気自動車重視という)わが社の新戦略は、車の『エネルギー転換』だ」と語っているとか(195頁)。
むろん必要以上に窒素酸化物を放出して大気を汚したVWと、放射能を撒きちらして国土を汚させ、数万人の避難民を生み出した東電のどちらが悪質かは言うまでもないが・・・
2016年11月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ドイツの会社経営の片りんが分かったような気がした。まじめでfairではない。
我が国より厄介な状態かもしれない。部下の諫言を聞かず、責任者不在で明確な処置が不明瞭なのも三菱自工と似ている。
我が国より厄介な状態かもしれない。部下の諫言を聞かず、責任者不在で明確な処置が不明瞭なのも三菱自工と似ている。
2016年11月13日に日本でレビュー済み
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ドイツ企業についての情報は、日本国内では少なく、入手も難しい。ドイツ在住の熊谷氏の同書は、わかりやすく解説してくれている。ただ、ドキュメンタリーとはいえ、やや平坦すぎる語り口で、後半には少々飽きてしまった。
2016年12月14日に日本でレビュー済み
フォルクスワーゲンの排ガス偽装問題は、「高品質、高性能のドイツ製品」「マイスター制度を土壌とした職人のモノ作りの国」といった、ドイツへのイメージからは信じられないものだった。何故、このようなことをVWは行ったのか。著者はこの疑問を、発覚の過程、会社の生い立ちと拡大、そして、賠償問題といった項目から説明してゆく。文章は平坦で読みやすい。人物名や団体名が紛らわしいが、全体の流れを追うには支障はない。そして見えてくるのは、過去の、ドイツ的な品質主義的経営から、アメリカ的な成果主義的経営への変化で、企業城下町、創業家の威光、親方日の丸、的な企業環境の中、強権的なトップとイエスマン的な社員の、風通しの悪い内部体質が、不正を防げなかった(「不正を行った」ではない)原因と思えることである。日本の、東芝の粉飾決算、三菱自動車の燃費偽装なども同列にも思え、「できないという報告は聞きたくない」という現場を無視したトップと、「長いものには巻かれろ」式の社員が、「これはいけない」と立ち止まらせなかった結果が、その企業の存亡の危機を後になってもたらす例であろう。文章を読んで感じるのは、著者自身の原語取材による判断の他に、著者のドイツ人脈から得た諸情報がもとになっていると思われることである。Leiche im Keller の表現は、Sehr Gut!
2016年11月14日に日本でレビュー済み
分析があまりに表面的。なぜアメリカで「不正」が表面化したか、ドイツ銀行もまた…。これではわからない。期待外れもいいところ