ページを捲ることなく表紙でパッと買って後悔した。書きたくなって書いたと言うより、ページの埋め草に雑文を書いたと言うような雰囲気。前半のほうでシルエットになった写真を何点か取り上げているが、せいぜいアマチュアさんの習作か、カメラマンの手すさび程度。批評に価するよう代物ではないし、こんなのに戦場の叙情を感じるなんて信じられないや。
後半にある、南京攻略戦で日本軍の捕虜になった「劉啓雄少将」の写真。
「その後、逃げそこなって、捕虜となった部下たちと共に処刑されたのか。国際法では将校以上の優遇が決められているので、特別に収容所に送られたのか、よくわからない。取調べを受けている劉啓雄の外套………」とあるんだけれど、彼って、この後、南京に出来た「汪兆銘」政権で、「軍官学校長(日本風にいえば防衛大学校長)」に就任した劉啓雄じゃないの?
捕虜から転じて日本の協力者になった人間で、その筋では結構な有名人のはずなんだけど。毎日か文春のスタッフに訊けば、すぐ解ったはずだし、奥付の経歴に中国文学科卒とあるのに中国人名辞典すら確認しないのかなあ。
もう一つ、階段のところに死屍累々の絵柄のやつ。これって、中国の重慶で、急階段に殺到した群衆がパニックに陥って大勢が圧死した事故の写真でしょ。ちょいむかし日本でも皇居二重橋前とか弥彦山神社で集団圧死事故があった、あれと同類の事故。日本軍の空爆にやられたわけではなく、画面の天地左右をカットしてないオリジナルを見ると、周囲に事故現場を眺める群集が写っている。本書のようにトリミングすると、やたら悲惨さを煽るような絵面になるが、情報操作の典型例といえる。
これも大抵の編集スタッフが承知だと思いますよ。とにかく、まあ、お手軽なこと。
■注.) 戦後、近衛文麿氏が自殺したさいのや、ベトナム戦争中の写真があるので、大戦中の「不許可写真」と、どういう整合性があるのかと思い、毎日新聞社刊『不許可写真1.2.』を見てみたところ、この文春版『不許可写真』は、毎日版『不許可写真』に添えられた、解説記事ともエッセーともつかない草森氏の稿を再録したものと判明した。
中身もお手軽だったけれど、編集部の姿勢も、なんとまあ、お手軽なこと。
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不許可写真 (文春新書 652) 新書 – 2008/8/20
草森 紳一
(著)
- 本の長さ163ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2008/8/20
- ISBN-104166606522
- ISBN-13978-4166606528
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2008/8/20)
- 発売日 : 2008/8/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 163ページ
- ISBN-10 : 4166606522
- ISBN-13 : 978-4166606528
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,043,228位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,612位文春新書
- - 4,311位カメラ・ビデオ (本)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2008年9月12日に日本でレビュー済み
不許可写真を集めた写真集ではなく、不許可写真を論じた論考である。
であるがゆえに、おもしろいのである。
表現の自由が行き着く処まで到達した現在からは、想像に頼るよりほかのない、
戦時中の軍部による報道写真の統制状況に関する論考。現在の日常社会の状況から
したら、一見、接点のない論点であるため、読者を選ぶジャンルではある。
ある意味、想像の域を超えている。
もともと日の目を見ないまま埋もれていった領域であるため、対象が整理されては
いないものを、「不許可」にとどまらず、「検閲済み」「保留」という評価にも
考察対象を広げることで、検閲体制に介在した心理や社会の雰囲気が伝わる筆致で
描いている。なくてもよい、どうでもよいところに一つの世界を構築する作業であり、
眼力と好奇心とがマッチして初めて可能になるものであることを思えば、
快挙といってよい。
繰り返しになるが、本書は、不許可写真集ではなく不許可写真小論である。
であるがゆえに、読者は不許可写真という、いわくありげな領域における
何か背徳的あるいは秘められ、封印された何かを求めてはならない。老翁の
個人的な懐旧に振れる部分も一部に見られるとはいえ、上記の快挙が読者を
選ぶことになっているのは誠に興味深い。
「不許可写真」そのものは本書末尾にある毎日新聞社の書籍に詳しい。
であるがゆえに、おもしろいのである。
表現の自由が行き着く処まで到達した現在からは、想像に頼るよりほかのない、
戦時中の軍部による報道写真の統制状況に関する論考。現在の日常社会の状況から
したら、一見、接点のない論点であるため、読者を選ぶジャンルではある。
ある意味、想像の域を超えている。
もともと日の目を見ないまま埋もれていった領域であるため、対象が整理されては
いないものを、「不許可」にとどまらず、「検閲済み」「保留」という評価にも
考察対象を広げることで、検閲体制に介在した心理や社会の雰囲気が伝わる筆致で
描いている。なくてもよい、どうでもよいところに一つの世界を構築する作業であり、
眼力と好奇心とがマッチして初めて可能になるものであることを思えば、
快挙といってよい。
繰り返しになるが、本書は、不許可写真集ではなく不許可写真小論である。
であるがゆえに、読者は不許可写真という、いわくありげな領域における
何か背徳的あるいは秘められ、封印された何かを求めてはならない。老翁の
個人的な懐旧に振れる部分も一部に見られるとはいえ、上記の快挙が読者を
選ぶことになっているのは誠に興味深い。
「不許可写真」そのものは本書末尾にある毎日新聞社の書籍に詳しい。
2008年9月20日に日本でレビュー済み
写真の中の人物の見た目に対する自分が受けた印象を、何の根拠もなく数行に亘りつらつらと書き連ねてあったり、著者自身の思い込みを確定的に記述した部分も目立つ。ページ数の割に価格が高めなのは、写真を少しでも見やすいように上質な紙を使用したからということだろうが、それにしても文章の内容をもっと充実させてもらわないと割に合わない、というのが正直な感想。