「死んだ父は筆まめな人だった～」で始まる「字のない葉書」は中学校の教科書で読んだことがある人もいるかもしれない。その中に出てくる妹が和子さんである。また、「ままや」の女主人として「ままや繁盛記」としてエッセイにもまとめられているが、この本を読む前に、是非一連の向田邦子さんのエッセイ集を熟読してください。一連の向田エッセイを頭に叩き込んでおくことで、エッセイがかなり立体的に見えてくるし、妹という視点でありながら、リアルな向田邦子像が見えてくると思うからです。大抵は文春文庫に収録されていますが、「眠る盃」と「夜中の薔薇」は別会社の文庫本に収録されています。
この本によれば、最晩年の向田邦子はかなり凄絶なものだったようです。乳がんを患って右手が動かずに、左手で字を書いていたことや、輸血によるものか、肝炎にかかって肝硬変になるかもしれないことなどがわかります。直木賞を取ってからの彼女の様子も書かれていますが、活字が凝視できませんでした。まあ、乳がんについては「父の詫び状」の「あとがき」で触れられているが、台湾旅行直前、彼女の体は想像以上にボロボロだったのではないのだろうか。遠東航空１０３便墜落事故はそれをダメ押しした感じがするが、搭乗した機体が塩害によって腐食し、いつ墜落してもおかしくない状況にあったことや、この本に記述されている、いつもとは違う姉の様子といい、あの事故は単なる偶然だったのだろうかと思いたくもなります。
苗栗県三義郷。向田邦子終焉の地だが、そこに慰霊碑がある。同行した人間と思われる志和池昭一郎氏の名前もあるが、向田邦子の字がかなり端っこに書かれているのだ。１８人が犠牲になったのだから、９人×２行で済むはずだが、この慰霊碑は１行８人で書かれ、日本人として３行が使用されている。女性の筆頭は向田さんなのだが、厳密には端っこではないにせよ、生前端っこが好きだった（この記述で「海苔巻の隅っこ」を思い出した）彼女を思えば、とても「偶然」だとは思えないのである。直木賞を受賞し、紅白の審査員としても招待され、これからのときに残念なんて呑気なことが本書を読めば言えなくなる。本書は「遺書もどき」を媒体とした、向田邦子論と考えていただきたい。できれば「ツルチック」か「ベルギーのビール」を片手にどうぞ。
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