1983年11月から翌年1月にかけて「ネコ軍団奮戦す」と題して新聞夕刊に連載されたエッセイを1冊の本にまとめたもの。連載終了を待たずに病気で亡くなった著者の妻稔子さん(作品中では都志子)のための鎮魂の書とすべく、大幅に加筆改稿したとのことである。猫本としても夫婦の物語としても読み応えがある。
著者いちばんのお気に入りは甚五郎。愛嬌と勇敢さと不思議な能力を持った雄猫である。たくさんの子を生んだ美しいミミ、臆病だけれども野良ボスを追い払おうと頑張る志摩、木登り上手なチャチャ、人嫌いで都志子さんにだけなついていたゴロ・・・、皆それぞれの個性で生き抜く愛すべき猫たちだ。野良ボスは悪役として存在感をみせる。猫たちの面影をすてきな挿絵でしのぶことができる。
猫と会話したり細やかな観察をしたりする著者なのだが、小説家への夢と仕事に苦闘する生活のなかで、いつも支えてくれたおっとりと優しい妻を大切にしてこなかった。身勝手な行動をとり、時に傷つけ、その過去に触れられることでさらにわだかまりが大きくなり・・・と、思うにまかせぬ家庭のありさまが描かれている。妻の病気が重くなっていき、もう今しかないと思って伝えた謝罪の言葉。彼女から返ってきたのは意外な言葉だった。それゆえ著者の悔恨はいっそう深くなったのだろうか。
甚五郎との相性が悪く、家にあまり寄りつかなくなったゴロ。都志子さんが死の間際まで気にかけていたこの雄猫を思いやる最後の一文は胸に迫る。「冬の弱日を浴び、凍えた足どりで漂泊の旅をゆく」ゴロの姿がありありと浮かんできて、大切なものはもう手の届かないところにいる、その悲しみが伝わってきた。
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十三匹の猫と哀妻と私 (文春文庫 ふ 3-5) 文庫 – 1991/3/1
古川 薫
(著)
- 本の長さ217ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日1991/3/1
- ISBN-104167357054
- ISBN-13978-4167357054
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (1991/3/1)
- 発売日 : 1991/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 217ページ
- ISBN-10 : 4167357054
- ISBN-13 : 978-4167357054
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,449,083位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 11,259位文春文庫
- - 20,471位近現代日本のエッセー・随筆
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