人が見たら蛙になれ。今は名もなき銘物よ、お前の価値を見いだすものは私一人で、他にはいらない。
「人が見たら蛙になれ」は青山二郎の言葉である。
その意味が、今はっきりと解った。
主人公宇佐見陶子は元夫プロフェッッサーDから「公平な眼」を手に入れることが出来た。経験や各種制約から眼を切り離しあるいは作者名や技法といった尺度から解放された完全に公平な眼である。それこそが最高の武器であり道具である。
古美術・骨董の世界において「箱書き」や所有者の履歴を重視することがどうもしっくりこなかった。
だが、この世界は閉鎖性の強い狭い社会である。そして、真贋は数値で表すことが出来ない。それは、目利きたちの保証なのだ。信憑性と言ってもいい。
その価値(美意識、希少性)は長いスパンでは変遷があり、寿命があると言ったのは英国からの帰化したプロフェッサーDであった。このことは、美つまり美意識は社会(集合的無意識)の反映でもあると言い換えることができる。二つの世界を生きた人によって始めて言えることかも知れない。
北森鴻の物語はいい。ミステリーにもほど好い品があって。
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旗師・冬狐堂 瑠璃の契り (文春文庫 き 21-5) 文庫 – 2008/1/10
北森 鴻
(著)
騙しあいと駆けひきの骨董業界を生きる宇佐見陶子を襲う眼病。付け入ろうとわけありの品を持ち込む同業者に立ち向かう。全4篇
- 本の長さ248ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2008/1/10
- ISBN-104167717581
- ISBN-13978-4167717582
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2008/1/10)
- 発売日 : 2008/1/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 248ページ
- ISBN-10 : 4167717581
- ISBN-13 : 978-4167717582
- Amazon 売れ筋ランキング: - 108,826位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年1月31日に日本でレビュー済み
冬狐堂シリーズの第一短編集「緋友禅 」より、私はこちらの方が性に合った。
前作の方が、暗く粘度が高かったような気がする。骨董の世界で”魑魅魍魎”が襲いかかってくるのを必死で戦い抜くのは面白い話ではあるが、こちらの気分まで毒される時がある...
対して、こちらは、陶子の周囲の人間が絡む話が多かったせいか、この女性の、そのヒトへの情の厚さが表に出て、なにやらほぅっとできた。
心持ちの悪くない主人公というのは、読んでいて良いものだなと思った。
前作の方が、暗く粘度が高かったような気がする。骨董の世界で”魑魅魍魎”が襲いかかってくるのを必死で戦い抜くのは面白い話ではあるが、こちらの気分まで毒される時がある...
対して、こちらは、陶子の周囲の人間が絡む話が多かったせいか、この女性の、そのヒトへの情の厚さが表に出て、なにやらほぅっとできた。
心持ちの悪くない主人公というのは、読んでいて良いものだなと思った。
2011年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
骨董業界を舞台にした短編ミステリーです。
作者の骨董業界への造詣の深さ、良く作りこまれ世界観、洗練された都会的な文章、伏線はあまり張られておらず「あーやっぱりこの人が犯人か…」って思って読み進めたら待っている思いもしない展開。
どれをとっても一級品なんですが、なんというか、作品の所々にそこはかとない違和感・無理した感を感じるんです。
他の方も書かれていましたが、まず台詞がそう。
なんか小芝居がかっていて、これネタで戯言言い合ってるんだよね?と思う事しきり。子供が考えた大人の小洒落た会話という感じ。
あと文中に散りばめられている微妙に「中二病」っぽい表現にも辟易しました。全てカタカナで表記した文章「ナンデワタシハキヅカナカッタノカ」とか、主人公の前夫が外国人という設定なんですが普通に「ジェームス」や「スミス教授」とかそういう呼び名で良いだろうに「プロフェッサーなんたら」とか書いてみたり。
それさえなければ素晴らしい作品かと思います。
作者の骨董業界への造詣の深さ、良く作りこまれ世界観、洗練された都会的な文章、伏線はあまり張られておらず「あーやっぱりこの人が犯人か…」って思って読み進めたら待っている思いもしない展開。
どれをとっても一級品なんですが、なんというか、作品の所々にそこはかとない違和感・無理した感を感じるんです。
他の方も書かれていましたが、まず台詞がそう。
なんか小芝居がかっていて、これネタで戯言言い合ってるんだよね?と思う事しきり。子供が考えた大人の小洒落た会話という感じ。
あと文中に散りばめられている微妙に「中二病」っぽい表現にも辟易しました。全てカタカナで表記した文章「ナンデワタシハキヅカナカッタノカ」とか、主人公の前夫が外国人という設定なんですが普通に「ジェームス」や「スミス教授」とかそういう呼び名で良いだろうに「プロフェッサーなんたら」とか書いてみたり。
それさえなければ素晴らしい作品かと思います。
2014年7月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
星1つ減なのは、ワインぶっかけのフォローが無い事についてw
他の方が書かれている後味のスッキリしなさは、
狐さんが各々の物語に当事者として真摯に向き合っている故と思われます。
どこか浮世離れした感もある雅蘭堂さんや「香奈里屋」のマスターの心地よい温かさに対し、
狐さんは日々の切り盛りの切実さも含め喜怒哀楽がストレートに伝わってくるので、
主人公の決着の付け方が読了感に影響しているかと。
特に仕事や生き方に関して、理想と現実のギャップに悩んでいる方に読んでもらいたい一冊です。
社会の荒波の中で生き抜く大人達の為の、癒しと応援の物語ではないでしょうか?
他の方が書かれている後味のスッキリしなさは、
狐さんが各々の物語に当事者として真摯に向き合っている故と思われます。
どこか浮世離れした感もある雅蘭堂さんや「香奈里屋」のマスターの心地よい温かさに対し、
狐さんは日々の切り盛りの切実さも含め喜怒哀楽がストレートに伝わってくるので、
主人公の決着の付け方が読了感に影響しているかと。
特に仕事や生き方に関して、理想と現実のギャップに悩んでいる方に読んでもらいたい一冊です。
社会の荒波の中で生き抜く大人達の為の、癒しと応援の物語ではないでしょうか?
2008年4月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
狸と狐の化かし合いのような世界。それが骨董の世界なのかもしれない。
人の弱みにつけ込むことで成り立つ商売も数多いのだろう。でも、その中でまっすぐに生きようと努力することも大切なのだ。
自分の目と自分の誇りを持子とが大切だと言うことが伝わってくる。
人の弱みにつけ込むことで成り立つ商売も数多いのだろう。でも、その中でまっすぐに生きようと努力することも大切なのだ。
自分の目と自分の誇りを持子とが大切だと言うことが伝わってくる。
2008年7月5日に日本でレビュー済み
2005年に出た単行本の文庫化。
旗師・冬狐堂を主人公とした短編集。
「倣雛心中」「苦い狐」「瑠璃の契り」「黒髪のクピド」の4篇が収められている。
張りつめたような雰囲気は相変わらず。読んでいて、つい緊張してしまうほどだ。展開はキツいし、結末も苦い。他人への不信感が芽生えてしまうような本だ。
それでも魅力的なのは不思議。
ミステリとしては、いまひとつ。骨董に、どうやって人間の憎しみとか悲しみを埋め込んでいくかというところに主眼がある。
旗師・冬狐堂を主人公とした短編集。
「倣雛心中」「苦い狐」「瑠璃の契り」「黒髪のクピド」の4篇が収められている。
張りつめたような雰囲気は相変わらず。読んでいて、つい緊張してしまうほどだ。展開はキツいし、結末も苦い。他人への不信感が芽生えてしまうような本だ。
それでも魅力的なのは不思議。
ミステリとしては、いまひとつ。骨董に、どうやって人間の憎しみとか悲しみを埋め込んでいくかというところに主眼がある。
2011年4月14日に日本でレビュー済み
キャラを記号的に捉えることに慣れてしまっていた私は、
彼女たちの、いや、彼女の唇から発せられる言葉が
いかに非日常的であるかを完全に見過ごしていました。
「(略)ブツは何点ぐらいあるの」
「やるねぇ、いつの間にか最新兵器を購入しているなんて、さすがは冬の狐さんだ」
「おかしいんですよ、最近の陶子は。妙に肌の艶がいいし、
どこかに若い男でも囲っているのか、とも思ったんですけど、
どうやら、そうでもないらしい」
「アタシは御免だよ。納得のできない仕事を、
何も知らずにただこなすなんてのは。
そんな仕事師じゃない、それが誇りなんだ(略)
バカだね(略)どうして、はっきりと言わないんだい。
銀座の狸にいっぱい食わせるから、協力してほしいって(略)
そんな面白い遊びを独り占めしようなんて、根性が気に入らない(略)
あたしは、あんたが仕掛ける品物を撮影すればいいんだね(略)
だったらカメラはいつでも空けておく」
彼女の名は横尾硝子。カメラマン、三十台後半、独身。
こんな人いませんよ。が、こんなヒトになりたかった。半分本気で。
この「瑠璃の契り」では硝子さんの意外な一面が見られます。
意外な硝子さんの意外な一面です。
彼女たちの、いや、彼女の唇から発せられる言葉が
いかに非日常的であるかを完全に見過ごしていました。
「(略)ブツは何点ぐらいあるの」
「やるねぇ、いつの間にか最新兵器を購入しているなんて、さすがは冬の狐さんだ」
「おかしいんですよ、最近の陶子は。妙に肌の艶がいいし、
どこかに若い男でも囲っているのか、とも思ったんですけど、
どうやら、そうでもないらしい」
「アタシは御免だよ。納得のできない仕事を、
何も知らずにただこなすなんてのは。
そんな仕事師じゃない、それが誇りなんだ(略)
バカだね(略)どうして、はっきりと言わないんだい。
銀座の狸にいっぱい食わせるから、協力してほしいって(略)
そんな面白い遊びを独り占めしようなんて、根性が気に入らない(略)
あたしは、あんたが仕掛ける品物を撮影すればいいんだね(略)
だったらカメラはいつでも空けておく」
彼女の名は横尾硝子。カメラマン、三十台後半、独身。
こんな人いませんよ。が、こんなヒトになりたかった。半分本気で。
この「瑠璃の契り」では硝子さんの意外な一面が見られます。
意外な硝子さんの意外な一面です。