すごく面白かった。
特に、リーマン前は、世界的には、ニューエコノミー、構造改革全盛で、ケインズ主義=需要不足を財政出動で埋める→そんなことしても日本の景気は回復しなかったし、借金が増え続けるだけで、時代遅れの考え方、のように言われていた。しかし、ケインズが格闘したのは、需要不足、という、その時代で支配的だった医学である古典派では診断できない奇病であり、それに対して、症状を正しく診断し、世界恐慌を行き過ぎた熱狂の報いであり、節約キャンペーンという治療法を、病状を益々悪化させる破滅的治療だと痛烈に批判し、時代の難問に応える為、経済を総体と見なす、というマクロ経済学の基本体系をほぼ独力で打ち立てた。そして、他の様々な原理がそうであるように、開祖が説明するその原理は、弟子達がその原理を神秘的で難解に権威づけするのとは異なり、シンプルで、分かりやすく、かつ情熱的である。
経済は個別効率化の集積である、という見方を否定し、
企業生産=国民所得=支出+貯蓄
企業収入=支出+投資
というシンプルな原理を提示し、投資が貯蓄を上回る時に好況に、下回る時に不況になる、大恐慌下では、投資が大幅に落ち込むが、個人の自由に任せてはこの状況は自然回復せず、長期金利を下げるほか、政府による財政支出、という人為的な治療が必要、と説いた。この理論は、苦しむ人に更なる苦痛を強いる、という道徳的に誤った治療が、理論的にも誤りである、ということを示し、行責任のある人に、行動を起こす勇気を与えた。
ただ、これだけがケインズではない。
自由貿易か保護貿易か、という論争や、人口減少、という論争についても、明確な考えを提示している。自由貿易について、それは、当時も今も、絶対的な正義、と主張されているが、そうではなく、「ドイツの大企業が、シカゴの投機家によってファイナンスされるという」資本が経営に責任を持たず、「会計士的な利益計算テスト」のみを基準とする「「資本の逃避」による社会混乱を危惧し、ある程度の保護貿易、「国家的自給」を支持している。一方、その反省として現れた新たな経済モデルであるロシアの社会主義、ムッソリーニのファシズムについては、1)理論的に慎重さを欠いており、2)あまりに性急で、3)不寛容で弾圧的である、という理由で批判的であり、国家の介入を肯定しつつも、別のモデルが見いだされることに期待しており、後に歴史が証明したことを同時代で既に見抜いていた。
また、人口減少は、長期的な支出、およびその期待を減少させるという懸念を示し、マルサスが指摘した人口増加による問題(マルサスの悪魔P)、のみならず、人口減少による問題(マルサスの悪魔U)に対して警鐘を鳴らし、これに対応する為には、支出の増加、その為の所得分配の平等化、を説いている。
本書からは、象牙の塔の理論家ではなく、現実への診断と治療法を探究する実際家、不磨の大典の擁護ではなく、新しい意見や現実に対して柔軟に理論を修正する論争家としてのケインズの姿が浮かび上がってくる。
デフレ不況、財政出動と国家の介入の程度、自由貿易と国際資本移動、人口減少等、現代の日本、あるいは、世界が直面する問題ばかりであり、80年も前の理論なのに、全く古さを感じさせず、むしろ、現代社会を点でしか見られない我々に対して、歴史的な立体的な視野を提供してくれる。
本書は、評論集であり、市民に向けられた新聞や雑誌への寄稿、評論集であり、表現が平易で、章毎にコンパクトにまとまっており読みやすい。「豊かさの中の貧困」、「マルサスの悪魔」、「「富の神」に生贄を捧げる」等、表現もウィットに富んでいて面白いと思います。

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デフレ不況をいかに克服するか ケインズ1930年代評論集 (文春学藝ライブラリー 雑英 2) 文庫 – 2013/10/18
1930年代のケインズは、直面した経済的困難に対して、問題の本質を理論的に解明し、具体的で現実的な政策手段を提案した。そして、理論的著作の執筆だけでなく、新聞や雑誌への寄稿、あるいは講演という形で、より広範な市民に向けて、みずからの考えを噛み砕いて、積極的に提示し続けたのである。その優れた著作からだけでは掴めない、ケインズのもう一つの魅力と重要性は、ここにある。
デフレ大不況、財政問題、国際通貨問題、貿易問題など、ケインズが格闘した諸問題は、いずれも、今日のわれわれが直面している問題でもある。具体的に、ケインズは、1雇用の創出効果は広範に及び、十分に大きいこと、2財政への悪影響は、一般に考えられるよりも小さいこと、3正常水準からの物価上昇は、景気回復に必ず伴うものであり、インフレではないこと、4長期金利の上昇を招いて民間投資を締め出したり、国債の借換コストを上昇させたりはしないこと、などを主張した。まさにこれは、今日の脱デフレ政策と通底するものである。
そこで、本書は、「失業の経済分析」「世界恐慌と脱却の方途」「ルーズベルト大統領への公開書簡」「財政危機と国債発行」「自由貿易に関するノート」「国家的自給」「人口減少の経済的帰結」など、1930年代のケインズの重要論稿を十数本、精選し、「世界恐慌」「財政赤字と国債発行」「自由貿易か、保護貿易か」「経済社会の国家の介入」といったテーマ別に編集した。
本書に収録された、いずれも未邦訳の諸論稿は、ケインズの時代と共通する経済的問題に直面するわれわれにとって、多くの示唆や教訓を含み、今後の指針ともなりうるだろう。
デフレ大不況、財政問題、国際通貨問題、貿易問題など、ケインズが格闘した諸問題は、いずれも、今日のわれわれが直面している問題でもある。具体的に、ケインズは、1雇用の創出効果は広範に及び、十分に大きいこと、2財政への悪影響は、一般に考えられるよりも小さいこと、3正常水準からの物価上昇は、景気回復に必ず伴うものであり、インフレではないこと、4長期金利の上昇を招いて民間投資を締め出したり、国債の借換コストを上昇させたりはしないこと、などを主張した。まさにこれは、今日の脱デフレ政策と通底するものである。
そこで、本書は、「失業の経済分析」「世界恐慌と脱却の方途」「ルーズベルト大統領への公開書簡」「財政危機と国債発行」「自由貿易に関するノート」「国家的自給」「人口減少の経済的帰結」など、1930年代のケインズの重要論稿を十数本、精選し、「世界恐慌」「財政赤字と国債発行」「自由貿易か、保護貿易か」「経済社会の国家の介入」といったテーマ別に編集した。
本書に収録された、いずれも未邦訳の諸論稿は、ケインズの時代と共通する経済的問題に直面するわれわれにとって、多くの示唆や教訓を含み、今後の指針ともなりうるだろう。
- 本の長さ254ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2013/10/18
- ISBN-104168130053
- ISBN-13978-4168130052
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2013/10/18)
- 発売日 : 2013/10/18
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 254ページ
- ISBN-10 : 4168130053
- ISBN-13 : 978-4168130052
- Amazon 売れ筋ランキング: - 549,609位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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