遺伝子決定論でもなく、環境決定論でもなく、発生システムで解き明かす、といいつつ、主張は完全に育ち論です。
今の時代、ネオダーウィニストでも単一遺伝子が全てを決めるなどという暴論は展開していません。
ネオダーウィニストが言っているのは、
遺伝子間の時間的空間的な複雑な相互作用、
遺伝子→アミノ酸→たんぱく質形成の複雑さ、
細胞内の複雑な化学作用、および細胞間の複雑な化学作用、
という生態システムが何億年もの環境との共生において進化してきたこと、
環境も遺伝子もあるが、遺伝子がなければ生命は存在しないこと、
であり、遺伝子が関与する複雑な生命現象が重要だということです。
本書は、現在までネオダーウィニストが自然科学における厳格な理論・実験・検証で培ってきた知見を無視し、
環境と相互作用するところだけを都合のいいように並べ立て、
旧世紀の育ち決定論を復活させようとしているかのような論調を展開しています。
しかも、ネオダーウィニスト(ドーキンス、グールド、メイナード=スミス、デネット、ピンカーら)と真っ向勝負していません。引用もありません。
更に、個々の遺伝子、遺伝子間の相互作用に還元できる病気も発見されてきているなかで、
本書の主張は医学のこれからの進歩に水を差しかねないものです。
病気で苦しんでいる人たちが遺伝子治療で今後救われる可能性があるなかで、
自説のためにその芽を潰す気なのでしょうか。
進化論、遺伝学についてはまだまだ判っていないことが多く、
これからの研究次第で、自然科学の摂理として様々な検証をくぐり抜けなければならないのですが、
本書のような論調をすることで、科学が進むとは思えません。
逆に、心理学の信憑性をより一層問われる結果にもなりかねません。
遺伝について学ぶのであれば、他に良書が沢山ありますので、そちらを読んだほうがいいでしょう。
2008/3/9読了
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遺伝子神話の崩壊 単行本 – 2005/10/22
ディヴィッド・S・ムーア
(著),
池田 清彦
(翻訳)
- 本の長さ477ページ
- 言語日本語
- 出版社徳間書店
- 発売日2005/10/22
- ISBN-104198620865
- ISBN-13978-4198620868
商品の説明
メディア掲載レビューほか
遺伝子神話の崩壊 「発生システム的見解」がすべてを変える!
ヒトゲノムの解読以来、身体的な特徴、病気の原因など、形質の決定に及ぼす遺伝的要因の大きさという言説は一般にも分かりやすく、今では広く浸透するところとなった。
ヒトゲノムの解読以来、身体的な特徴、病気の原因など、形質の決定に及ぼす遺伝的要因の大きさという言説は一般にも分かりやすく、今では広く浸透するところとなった。
遺伝的要因と環境的要因――。軸が一方に大きく振れてしまった現状に対し、いかなる形質においても両者の複雑な相互作用なくしては説明できないことを解説したのが本書。進化論に対しても論考は及び、「すべての形質は獲得形質である」と断ずる。
遺伝的要因優位論に拘泥することの危うさは社会システムにおいても同様。IQを決定する要因の考察にも多く紙幅を割き、教育など多くの環境的要因に規定されることを改めて示し、教育政策の重要性を強調する。もっとも、「すべての形質は獲得形質である」とするならば、米国にならって富の二極化に突き進む日本においては救いのない話ではあるのだが…。
(日経バイオビジネス 2006/01/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
-- 日経BP企画
登録情報
- 出版社 : 徳間書店 (2005/10/22)
- 発売日 : 2005/10/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 477ページ
- ISBN-10 : 4198620865
- ISBN-13 : 978-4198620868
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,423,031位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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2006年6月21日に日本でレビュー済み
生命は遺伝子と環境の創発による自己組織化だということは言うまでもありません。
それを発生システムだというのであれば問題はないのですが、
著者は発生システムだといいつつ遺伝子は全く関係なく、環境が全てを決めるという結論ありきで解説を進めています。
また、獲得形質が遺伝するわけが無いことは既に決着がついているのに、何故今になって蒸し返すのでしょうか。
明らかに遺伝子に原因があることがわかっている病気はどうなのでしょうか。
それで苦しんでいる人に対して環境を変えれば治るとでも言うのでしょうか。
遺伝子だけで全てが決まるというのも言いすぎですが、環境だけで全てが決まるというのも言いすぎです。
しかも、発生システムという中立的な言葉を選んで環境至上主義を訴えていることは危険としかいえません。
何十年も前に起こった議論を蒸し返してどうしたいのでしょうか。
それを発生システムだというのであれば問題はないのですが、
著者は発生システムだといいつつ遺伝子は全く関係なく、環境が全てを決めるという結論ありきで解説を進めています。
また、獲得形質が遺伝するわけが無いことは既に決着がついているのに、何故今になって蒸し返すのでしょうか。
明らかに遺伝子に原因があることがわかっている病気はどうなのでしょうか。
それで苦しんでいる人に対して環境を変えれば治るとでも言うのでしょうか。
遺伝子だけで全てが決まるというのも言いすぎですが、環境だけで全てが決まるというのも言いすぎです。
しかも、発生システムという中立的な言葉を選んで環境至上主義を訴えていることは危険としかいえません。
何十年も前に起こった議論を蒸し返してどうしたいのでしょうか。
2006年5月6日に日本でレビュー済み
本書は、リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」における、
遺伝子を基盤とした進化理論の展開を丸ごとコピーして
「遺伝子」の場所に「環境」を入れ替えただけの内容です。
またリチャード・ドーキンスほどのネオ・ダイウィニストでも
進化の2大要素として、遺伝子と環境(ミーム)の両方を挙げているが、
本書はまるで遺伝子が何ら進化に関係ないような説明に終始しています。
遺伝子を基盤とした進化理論の展開を丸ごとコピーして
「遺伝子」の場所に「環境」を入れ替えただけの内容です。
またリチャード・ドーキンスほどのネオ・ダイウィニストでも
進化の2大要素として、遺伝子と環境(ミーム)の両方を挙げているが、
本書はまるで遺伝子が何ら進化に関係ないような説明に終始しています。