まず、戊辰戦争のうち鳥羽伏見の戦い以降、会津藩の
降伏までを通史として書き切ったこと、そこに意義がある
と思います。しかも、長州藩の間諜、長岡藩に加担する
元博徒、そして会津藩の政務担当家老という三者の視点
から綴られているので、最後まで飽かずに読むことがで
きました。
ただ、著者が強調する（『読売新聞』〔3/9〕）ほどには、
観念の過剰な乱舞を感じることは少なく、むしろハードボ
イルドという筆致が、戦史の記述に案外になじむというこ
とに感心をしました。
残念だったのは、本書では奥羽越列藩同盟軍が敗れ
た理由が必ずしもはっきりしなかったことです。先の長州
藩の間諜はそれを、会津藩家老に「時勢だ、時の流れだ
よ」と言い放ちます。それに違いはないでしょうが、兵制
の整備や最新の武器の購入など、その裏づけとなる財力
に双方の決定的な差があったように思います。その辺ま
で書き込んでくれたら、よりお話しが立体的なものになっ
たように思いました。
〔付記〕 藤本ひとみ『幕末銃姫伝』(2010)は、その会津
藩の兵制改革をモチーフに、進取の兄妹を主人公にすえ
て展開します。特に女丈夫の妹・八重が男たちのなかで
葛藤する姿には、深く共感できました。一方、周りの守
旧的な態度を過度に世代差に帰していたのは、少し文
学的な質を下げたと思います。(2010/08）
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