16世紀のイングランドと現代のイギリスに引き離されて、ジェフリーとカイトの恋は前途多難だ。ジェフリーは牢獄につながれ、カイトの親友は最大の障害になろうとしている。それに加えてヤン・グリフュスとラウルの関係や、ナイジェルとキット、今回は登場しないがビセンテの動きが複雑に絡んで、物語はクライマックスに向かって着実に進んでいる。用意周到に配置された伏線がどんなふうに使われるのか、わくわくしながら読んでいる。ウォルシンガムの弱点やＪＰの協力が少々都合が良すぎるにしても、随所に描かれる周辺の人々の真実で補って余りある。
ラウルの奴隷のホルヘの生き方や、獄吏のレイヴンの生き方を、現代の価値観で語るのは難しい。しかし人が生きていく上で何が大事なのか、絶望の中で希望をどうやって見つけるのかということを深く考えさせられる。松岡さんはヤン・グリフュスとラウルの関係を一番熱心に書かれているのではないかと思う。憎しみでつながる二人の関係が、愛と呼ぶほど簡単ではない何かに変化していくのを見ることができるのかも。キットの熱意がナイジェルの心を溶かすのを、もしかしたら（？）見ることができるかもしれない。１２５ページのイラストが素敵だった。
カイトを逃がしてくれたビセンテ。命をかけてカイトを守ったジェフリー。究極の場面でカイトのために執着を捨てた二人のように、和哉も成長するに違いない。では、カイトは？様々な体験を通して他者のことを思いやることができるようになったカイトだが、物語が終わる頃にはどんな少年になっているだろうか？大きく成長する彼を見たい。
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