プロのサイクルロードレースチームを舞台としたミステリー。
タイトルの「サクリファイス」とは「犠牲」という意味。
サイクルロードレースではチームで走り、チームの中にはエースとアシストという役割分担が出来ている。
チームの目的はエースを一位にする事で、アシストの順位は考慮されない。
アシストはエースの風除けになったり、他チームを撹乱したりと己の順位を無視した仕事を要求される。
すなわち、エースはアシストの「犠牲」の上でゴールに駆け込むのである。
しかし、この作品の中では他にも「犠牲」の意味があるのである。
それが、この作品の謎となっており、ある人物の人間像が後半でどんでん返しをする。
主人公は高校時代のトラウマによって勝利を期待されることを嫌うようになり、アシストという役割のある自転車レースの世界に飛び込んだという異色のキャラクタ設定であるが、エースの石尾 豪のキャラクターが強く、その威圧感が全編に満ちている。
そんな、石尾の存在の恐怖や痛ましい事故などが描かれている物の、爽やかなラストとなっており、軽い高揚感と共に本を閉じる事が出来る。
完全漫画化と銘打っているだけあり、内容はほとんど原作のままである。
若干、エピソードの前後、場面設定の変更はあるものの、台詞はほぼそのまま。
小説は文章によって場面や空気感を想像させる所に作家の力量が問われるが、漫画は漫画で、映像として世界観をはっきりと提示できるところにアドバンテージがある。（逆に言えばそこが難しいところなのだろうけれど。）
小説の序文に当たる場面が映像で描かれ、小説の前半が終わる部分に相当する2巻の最後にもリフレインされており、より印象的になり、物語に緊張感を与えているのは漫画の力といえよう。
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