編集者でありまた大学でも講師をつとめる著者が、1970年以降、特に70年代後半以降の、日本の文学界で活躍した作品を中心に、ポスト「教養幻想」時代における文学の果たしてきた役割、あるいは文学がテーマにしてきた時代感覚などを、村上龍、村上春樹から2001年までの作品を通史的に解説した良著。
かつて70年代以前の文学で作家や出版社と読者がになってきたある意味の「市民的教養主義」以後の世代では、「文学」表現の持つ役割とそれを読む側の読者側において追及されるものも、「人生の喜びや楽しさを他人と共有」(=シェア)する手段と変化した時代をふまえて、70年代後半、80年代、90年代前半、90年代後半、00年代初めなど時代ごとで著者が注目する作品と作者を取り上げながら、各世代間の作品の関係やどういった時代背景を受けての表現なのかという点を、文字通り縦横にわかりやすく解説している。
三島由紀夫以前の文学者が、イデオロギーであるとか自己と社会であるとか「暴力」であるとか「家父長制」であるとか、そういった表現の基盤になる社会的視点の軸を、各世代ごとに批判したり相対化することをテーマ化してきたことに触れたうえで、二人の村上以降の「文学界」が、どのようにその後の歴史を歩んで来たのか、そういった点では、かつての基本的なテーマの基盤の基本要素(たとえば、「暴力」だとか「資本主義」だとかがどう描かれてきたかという点)は、充分に配慮しつつ、その要素が描かれる文脈における社会変化(例えば表現におけるパロディーであるとか、前の世代の乗り越え方であるとか)、私に言わせれば「文学として成立する設定」を解説した上で時代変化を読み解いてくれているので、その変化(作品の表現の独自性であるとかその作品の時代の文脈であるとかの変化両方です)を理解しやすい。
見どころを三つ:
一つ目は、村上春樹と村上龍のふたりの作家のデビュー作から前の世代の文学テーマの乗り越え方や表現で取り組まれていた課題を時代の状況と合わせてわかりやすく解説している点。
二つ目は、90年代以降の作家の流れを、渋谷系とされる文脈とJ文学とされる文脈、二つの流れの中で解説し、その分岐点に95年のオウムと阪神大震災という二つの「リアル」と「想像」を逆転させる大きな事象の経験から解説しているところ。
三つ目は、紹介される本が読みたくなるというところ。
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文学:ポスト・ムラカミの日本文学 カルチャー・スタディーズ 単行本 – 2002/6/1
仲俣 暁生
(著)
- 本の長さ165ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日出版社
- 発売日2002/6/1
- ISBN-104255001618
- ISBN-13978-4255001616
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
Wムラカミのめざましい登場から25年。80~90年代の作家たちは、どんな認識と世界観をつかみとり、伝えているのか。勝手なくくりをはずして文学シーンを読み込む。ポスト・ムラカミの「ポップ文学」ベスト30収録。
登録情報
- 出版社 : 朝日出版社 (2002/6/1)
- 発売日 : 2002/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 165ページ
- ISBN-10 : 4255001618
- ISBN-13 : 978-4255001616
- Amazon 売れ筋ランキング: - 82,305位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 125位文学理論
- カスタマーレビュー:
著者について
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1964年東京生まれ。フリー編集者、文筆家。情報誌『シティロード』、デジタル文化誌『ワイアード日本版』などの編集部を経て、1997年より2005年まで『季刊・本とコンピュータ』の編集部に参加(03~05年は編集長)。同誌終刊後、現代文学論、出版メディア論などの執筆のかたわら、フリーランスで書籍やウェブサイトの企画・制作・編集にたずさわる。09年より株式会社ボイジャーと出版の未来を考えるWebメディア「マガジン航」を創刊、編集人をつとめる。
カスタマーレビュー
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2014年3月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2002年8月28日に日本でレビュー済み
70年代からこっち、ずっと、なんとなく本が好き、小説が好き、あるいは気になると思っていた人にとっては、これは手元においておく価値の非常に大きい一冊。
でも、それでいて単なるムックじゃないわけは、著者が非常に確かな読み手である上に、そのうえそのうえ、文学が好きなわけね、というのが正しく伝わってくるから。
カルチャー・スタディーズというスタイルのために、氏の主張というのは特に見えないのだが、しかし読み解きのためのネタをたくさん用意していてくれる。
そうだ、これから本を読もう。講義を読んでいるようなもののはずなのに、そういう気にさせてくれる不思議な本でした。昭和後半生まれにとっては、なにか、忘れてきたものをたくさん思い出させてくれる本でもありました。
でも、それでいて単なるムックじゃないわけは、著者が非常に確かな読み手である上に、そのうえそのうえ、文学が好きなわけね、というのが正しく伝わってくるから。
カルチャー・スタディーズというスタイルのために、氏の主張というのは特に見えないのだが、しかし読み解きのためのネタをたくさん用意していてくれる。
そうだ、これから本を読もう。講義を読んでいるようなもののはずなのに、そういう気にさせてくれる不思議な本でした。昭和後半生まれにとっては、なにか、忘れてきたものをたくさん思い出させてくれる本でもありました。