この選集の第6巻のレビューでも書いたが、大島弓子のピークは1977年から1979年あたりと考えている。もちろん、例外があるが、その一つが本巻の表題作にもなっている「ジョカへ」である。1973年の作品であるが、同時期の作品に比べると1978年当たりの作品に近いと思うのは私だけだろうか。
第1巻のレビューでも書いたが、「ジョカへ」には「男性失格」という先行作品がある。原因こそ違え性転換(後者では核実験による被爆が原因とされている)を共に描いているし、性転換するのも同じシモンという名の男性である。ただし、「男性失格」ではシモンとアーヴィーの友情に力点が置かれているし、長さも「ジョカへ」が100ページ弱なのに対し、「男性失格」は30ページ強と3分の1の長さである。
そして、「ジョカへ」の力点は、シモンの性転換後に置かれている。分量的にも、シモンの体に異変が起こりイギリスに旅立つまでが約30ページなのに対し、シモンがソランジュとなって戻ってきてからは60ページ以上と倍になっている。
シモンはジョカの父が開発していた薬をジャンとのケンカに勝つために飲むが、性転換が引き起こされ、体が女性に変化していく。そのことをジョカには隠して、シモンはイギリスへと旅立ち、死んだことになる。7年が過ぎ、ジョカやシモンのライバルだったジャンも含めて、周囲の人々にはそれなりの安定した関係が成立していた。ジョカがジャンと結婚することを知ったシモンは、ジョカの母であるジルからの招きもあって、ソランジュという女性となって戻ってくる。
しかし、知的でしかも美しいソランジュの登場に、心が揺れるジャン。SFを通じてシモンと仲が良かったピエロは、ソランジュがシモンではと疑いだす。シモンへの思いを断ち切りながらジャンと生きていこうとするジョカは、ソランジュに惹かれるジャンに戸惑う。ソランジュは、ひたすらジョカの幸せを願うだけに、ジャンの気持には困惑するしかない。それぞれの思いが交錯していく…
誰もが善意で選択した行動によって、いくつもの悲劇が襲ってくる。ラストは、シェイクスピアの作品を思い出させるような感じだが、決定的な描き方をしていないので、かなり余韻がある。ここに描かれたことは、実際に起こったことなのか、ジョカとシモンの夢物語なのか。読者に選択は委ねられている。
こういったラストは印象的であるとともに、大島弓子の作品の中では極めて特異である。
ほかに、ドストエフスキーの『罪と罰』を原作とする「ロジオン ロマーヌイチ ラスコーリニコフ」、「キララ星人応答せよ」なども興味深い。特に、前者は原作が原作なだけに当然なのだが、大島弓子の作品としては珍しく殺人が描かれたり、かなりの悪人が登場するので、異質でもある。
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大島弓子選集 (第3巻) ジョカへ 単行本 – 1986/3/1
大島 弓子
(著)
ジョカへ
- 本の長さ426ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日ソノラマ
- 発売日1986/3/1
- ISBN-104257900679
- ISBN-13978-4257900672
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登録情報
- 出版社 : 朝日ソノラマ (1986/3/1)
- 発売日 : 1986/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 426ページ
- ISBN-10 : 4257900679
- ISBN-13 : 978-4257900672
- Amazon 売れ筋ランキング: - 763,043位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 328,863位コミック
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2005年9月10日に日本でレビュー済み
『ジョカへ』や『キララ星人応答せよ』などSFチックな短編が何作か収録されていて、他の巻とは少し違った感じで面白いです。
『キララ星人応答せよ』が個人的に特に良かったです。不思議な少女、不思議な関係。
三巻のラストに収録されているお話ということもあるせいか読み終えた後は、なんと言葉で表現すれば良いものか、そんな気持ちに包まれました。
『ジョカへ』は設定が非常に面白くて、切ない恋心に強く胸が締め付けられるような思いで読んでいました。素晴らしかったです。
『キララ星人応答せよ』が個人的に特に良かったです。不思議な少女、不思議な関係。
三巻のラストに収録されているお話ということもあるせいか読み終えた後は、なんと言葉で表現すれば良いものか、そんな気持ちに包まれました。
『ジョカへ』は設定が非常に面白くて、切ない恋心に強く胸が締め付けられるような思いで読んでいました。素晴らしかったです。