短編「自動車レースの巻」が収録されています。短編には多めの、そして本編にもたまにある、あまり鉄人が関係ないエピソードですね。
本編の方では、いよいよバッカスを追い詰めていきます。しかし、単身かつ（どちらかというと）正攻法で戦う不乱拳博士に対し、本拠地を探って狙ったりと、主人公側の方が搦め手という印象です。のちのギルバート戦などでは正太郎がハッキリと発言していますが、操縦者を狙うような戦法が目立ちます。
不乱拳博士側は、いかにも追い詰められた側として、苦し紛れの行動をとるようになり、人造人間モンスターも完全ではない状態で倒されます。人造人間モンスターについては完全でも鉄人よりは弱いので負けていたでしょうが、完全なら、もう少し不乱拳は生き延びられたでしょう。そして、そういう意味ではバッカスが完全ではない状態で敗れるのは物足りないですね。
のちのオックス、ギルバート、十字結社のモンスター、VL２号、ギャロンなど、本調子でない状態で終わるライバルは多いのですが、最初のライバルであるバッカスからして、そうだということになります。
同等以上の兵器に対して正面から戦っても勝てるわけないじゃないか、という作者の考えなのでしょう。横山作品はクラシックなおおらかさと知的なリアリズムが同居していますが、本作も例外ではないわけです。この方針がワンパターンになることを避けていますが、ちょっと物足りないですね。
そして、なぜか博士は鉄人を褒めて絶命します。これについても、主人公を上回る敵が出てくる近代性と、主人公万歳のクラシックさが同居しています。色々な意味で過渡期的な作品なのでしょう。
そうして亡くなった博士は、すぐに新たな悪人たちによって復活させられてしまいます。やすらかに死ぬことも出来ない悲劇でありつつも、研究バカだから幸せだったのかな。実際、ものを考えるロボットの研究には夢中になっています。その研究を中断して即席で作られたのが、第二のライバルとなるブラックオックスです。
とにかく、霧の中から出てくる登場シーンがカッコいい！
考えるロボット中断⇒空を飛ぶ機能中断⇒と、二重に未完成かつ即席で作ったのに、鉄人と同等の格闘能力に、機械を狂わせる磁気を持つというチートな天敵です。他にも機能があることが後続の巻でわかります。敵ロボットで最も人気があるのは、おそらくブラックオックスだと思いますが、それも不思議ではないカッコよさと強さで読者を魅了します。主人公万歳の古臭さを残しながら、これほどの超強敵を登場させてしまうというのが、やはり歪ながら本作のモダンなところです。
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