本著『茶の本』は、岡倉天心先生が日本の名誉を祈って、日露戦争のまっただ中(1905年)、世界へむけて英語で発信された著作である。天心先生は、タイトルに記したとおり、東洋文明と西洋文明のお互いの理解のために、あえて「茶」を共通の題材に(西洋ではTea、東洋では文字通り茶)、平和思考の高尚なる持論を展開されたのだった。
特筆すべきは、天心先生の堂々たる筆先である。先生のご持論は自虐になることなどは決してなく、東洋と西洋が対等な次元にたった、独立不覊の姿勢と至誠をもって記述されている点が読者には大変爽やかで、かつ力強い。今般の日本の自虐的な状況とはうってかわって、たくましい日本の姿が本書にはある。大変に好感がもてるとともに、山口氏による誰にでもわかりやすい訳出なので(*)、日本人はもとより、世界の多くの人々に読んでほしい名著と言えよう。
(*)現在までに刊行されている訳では、山口氏によるものが最上の部類に入る
よって、レビューなどで本著を語るのなどは、もとより、愚の骨頂であることは理解している。この堂々たる日本人の描いた、堂々たる著書、それこそが『茶の本』である。これを拝読せずして昇天するのは、大変もったいない。ぜひ多くの方々に本書をひも解かれたい。とくに、留学等の長期海外渡航を控えた方には、東洋ならびに西洋の文化土壌の相互理解ための基盤となるので、大いに推薦したい。
なお、最終章である第七章における、千利休自刃の下りにはおもわず熱涙が瞼にたまってしまうほどの名文であるので、目次を記すにあたって、ぜひご覧じ頂きたい:
「自ら死に赴くことに定められた日、利休は主だった弟子たちを、最後の茶会に招いた。定刻、客たちは哀しみにうち沈んで、待合に会した。路地を見ると、木々も震えおののくようで、その葉ずれの音には、寄る辺なき亡霊たちのささやきが聞こえる。冥府の門前に立ついかめしい歩哨のように、灰色の石燈籠が立っている。珍香の香りが、茶室から漂ってくる。それが、客に入室を促す合図である。
(略)
儀式は終わった。客たちは涙を抑えかね、最後の別れを告げて、室を出て行く。ただ一人、利休に最も近しく親しい者が残り、最後を見届けるよう頼まれる。利休は茶会の服を脱ぎ、畳の上に丁寧にたたむ。すると、それまで隠されていた白無垢の死に装束が現われる。自分の生命を絶つ短刀の輝く刃を静かに見つめると、それに話しかけて、次のような絶唱を詠む。
汝、よくぞ参った
永遠の剣よ
仏陀を殺し
達磨を殺し
汝は汝の道を切り開いてきた
微笑を浮かべつつ、利休は道の国へと旅立った。」
(上述は、まさにプラトン著『パイドン』巻尾における、ソクラテスが毒をあおって昇天する場面とまさに重複しており、極めて崇高かつ聖なる面持ちを読む者に想起させて已まない)
<目次と概要>
『茶の本』を称えて by ブリヤンダバ・デーヴィー
訳者まえがき
第一章 人間味あふれる茶碗
第二章 茶の流派
第三章 道教と禅
第四章 茶室
第五章 芸術鑑賞
第六章 花
第七章 茶人
原注
訳注
解説
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茶の本 岡倉天心 文庫 – 2009/9/1
英文で書かれた『茶の本』は、茶道の根本精神を味わい深く説き、「美」と「和」の日本文化の真髄を日露戦争後の西欧世界に広く知らしめた名著である。一世紀が経過した現在。戦禍の絶えない国際社会において、本書は日本人としていかに生きるべきかを改めて考える上で、大きな指針となるだろう。訳文は明快で、天心の深遠な思想が見事な現代日本語に置き換えられている。
- 本の長さ158ページ
- 言語日本語
- 出版社文芸社
- 発売日2009/9/1
- ISBN-104286074064
- ISBN-13978-4286074061
登録情報
- 出版社 : 文芸社 (2009/9/1)
- 発売日 : 2009/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 158ページ
- ISBN-10 : 4286074064
- ISBN-13 : 978-4286074061
- カスタマーレビュー:
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