インテリアに興味のない人間でもトーネットと聞けば、曲木の椅子を思い浮かべることができる。
本場ウィーンのカフェは言うまでもなく、それっぽい椅子は日本の家屋にまで普及している。
ブナの木を蒸気処理して柔らかくし曲型枠で整形したものを組み立てることで
大量生産を可能にし、『権威の象徴』としての椅子を『生活雑貨』とすることに成功した。
中でも最も有名な椅子『No.14（現在は214と呼ばれる）』は
わずか６つのパーツを10個のネジで組み立てるノックダウン（現地組み立て）方式の元祖として、
それまでの手工業生産では賄いきれないウィーン大改造時代の椅子の需要を下支えするという、
20世紀の大量生産大量消費を先取りする工業製品ともなった。
デンマークのデザイナー、ポール・ヘニングセンの『もし一人の建築家がこの椅子よりも
5倍高価に、3倍重く、その半分の座り心地を持ち、4分の1美しく作ったとしても、
彼は名を成すことができただろう』という言葉がこの椅子の工芸品としての価値と
生活必需品としての価値を両立したこの椅子の特異性を如実に物語っている。
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