この本は正直ビルブライソンのユーモアの炸裂した文章を目当てに購入して個人的にアメリカの英語の成立過程などには微塵も興味がなかったのだが、ユーモアのある文章はさることながらその内容に大きく引き込まれる結果になった。1で特に面白かったのが独立戦争に関する章、移動手段に関する章である。一部を抜粋してみよう。
アメリカ史に関しては非常に浅学な私は、アメリカのイギリスからの独立戦争は重税とボストン茶会事件、印紙条例などいくつもの鬱憤が限界まで溜まり、自由と平等を掲げる優れた政治家?トマスペインなる人物が『コモンセンス』で人民を鼓舞し、ベンジャミン・フランクリン、トマスペインをはじめとする人格も高潔、能力も高い人々に率いられて自由を勝ち取る物語、という風な世界史の教科書に2ページぐらいにまとめられているイメージだった。しかし多くの場合、このような物語や時代の寵児と呼ばれる人たちの、200年後の今に伝えられているエピソードは多くの場合後世の人々の創作らしい。
まず独立戦争は多くの人々は夢にも思っていなかったらしい。重税と言われているものはそもそもそんなに重くなかったし無茶でもなかった。1776年はサミュエル・エリオット・モリソンが記しているようにアメリカ人は「世界でもっともじゆうな人々」だったそうである。
さらに私たちが独立戦争と言ったら真っ先に思い浮かべる名文句も実際には発言されていない。
゛それなのに、学校に通うよいこのみんなならだれでも知っている通り、1770年代のはじめから終わりまで、アメリカが「代表なくして課税なし」の声で沸き上がった。というのは、事実と違う。一般にはこの言葉の生みの親とされているジェイムズ・オーティスは、どうやらそんなことは言っていないらしい。この有名な文句がオーティスのものとされるのは1820年のことで、そのころには本人がなくなってからもう40年以上たっていた。゛P7
19世紀の後半はアメリカの発明の時代であり(アメリカの発明はヨーロッパ諸国に比べて日常生活に役立つような実用的なものが多かった。)まためざましい経済成長を遂げた時代でもあった。1894年にアメリカはイギリスに代わって世界最大の工業国になり、1914年になるとアメリカは石炭、石油、天然ガス、銅、銀、鉄鉱石の最大の産出国となり、工場ではイギリス、ドイツ、フランスの三カ国の生産高の合計を超える量の製品を産み出した。以下ではアメリカの19世紀後半の発明の一部を年表形式にして載せる。
1891年ロックフェラー 世界の石油市場の7割以上
1875年~1900年 エレベーター、電灯、レコードプレイヤー
1844年世界初の電報(モールス)
1876年電話(アレクザンダー・グレアム・ベル) 80年6万台 1900年600万台
1882年最初の試作的な発電機(トーマスエジソン)
19世紀は交通手段においても格段な進歩がみられた時代であった。アメリカは領地な広大であることから、揺籃期のアメリカの通信状態はかなり悪かったらしい。独立してからもかなり後になるまで街道と呼べるほどのまともな道は皆無であったという。当時は馬車での移動が主だったが1830年ごろに鉄道が登場してからはアメリカの交通の様相は一変する。ある統計によると1835年には1830年にあらゆる交通手段を用いて旅行した人の総数が50倍に及ぶ人が鉄道で旅をしたという。
都会においては馬車が主に用いられていた。自動車が主な交通手段になっている今の私たちからすると想像がつきにくいことではあるが、20世紀になっても都会は馬による汚染に悩まされ続けていたという。1900年でニューヨーク州ロチェスターにおいて役人が計算したところ、市内に飼われている1万5000頭の馬が1年間に落とす糞を1エーカーの土地にばらまけば、なんと50メートル以上の高さになることがわかった。路上ではハエの群れと糞の山、そして馬の死体が死屍累々と積み上げられていた。
そして主な交通手段は馬からケーブルカーとトロリーカー(路面電車)、そして1900年前後に自動車がアメリカ全土に爆発的に広まることになる。
1835年鉄道 1860年3万マイル 90年20万マイル
市内 馬車(ひどい衛生状態)→ケーブルカーとトロロープ
1884年初めての実用的な自動車(ドイツのゴットリープ・ダイムラー)
1893年シカゴ万博 アメリカ人初めて自動車を目にする
1898年アメリカ全土に30台
1915年アメリカ全土に200万台
1920年アメリカ全土に1000万台
1922年世界初の大陸横断
私たちが日々の暮らしを快適に送るにあたって欠かせないものはいくつもある。携帯電話、テレビ、エアコン、電子レンジ、パソコン、、、 生活において必要不可欠と思われているもの多くはアメリカで開発された。
イギリス英語とアメリカ英語はかなり特性が異なる、ということはよく知られている。一般的なイメージでいえば上品で丁寧なイギリス英語に比べてアメリカ英語はフランクでまたあるいは粗暴というような印象を受けるかもしれない。 19世紀にはそんなアメリカ人の英語や食生活、暮らし方、癖に対して異様なほどとげとげしい偏見をむき出しにした本が、イギリスで相次いで出版されている。フランシス・トロロープなる人物のアメリカについて言及した一説が引用されているけれどもあまりにもアメリカに敵意むき出しで思わずこちらも笑ってしまう。
゛ごく普通のテーブルマナーの徹底した欠如、食物を強奪し、貪るおそるべき勢いと素早さ、珍妙にして無用な言い回しと発音、闇雲に吐き散らされる唾(その汚染から身を守るすべはない)、ナイフでものを食べるという恐ろしい習慣(刃の部分をすっぽり口に入れてしまうのだから恐れ入る)、それよりももっと気味の悪いのは、食後にポケットナイフで歯をせせる悪しき習慣゛P82
しかしそんなアメリカの食習慣の批判に対して、1840年代の時点でアメリカは暮らしの便利さ、快適さという面でヨーロッパなど諸外国をはるかに凌駕していた。皮肉なことに、アメリカ式生活に対するイギリスの批判はこの時に頂点に達する。アメリカではデパートやレストランが発展して中産階級のアメリカ人ならだれでも享受できるようになった贅沢や便宜が、ヨーロッパの中産階級の手に行き届くまでには半世紀以上を要した。以下はアメリカを豊かにした中でも中核をなした発明の年表
1783年 アーガンド・ランプ発明 中産階級に限って夜の光量が飛躍的に増えた
1853年 パラフィン発明
1895年 平均的な中産階級の照明は世紀の初めに比べて20倍に
1882年 トーマスエジソン 電気を供給し始める
1910年 10軒に1件に普及
1930年 アメリカの家庭の70パーセントに普及
電気製品の登場
1889年 電気ミシン 91扇風機 93アイロン 1901掃除機 1909洗濯機 1910トースター
1921年 ラジオ ボクシングの試合をきっかけに爆発的に広まる
1926年 20世帯に1台
1929年 ほぼ全世帯に
1927年 ベル電話会社がテレビの実験
1939年 ニューヨーク万博で多くの人が見る機会
1947年 テレビ保有台数17万台
1952年 1800万台
1920年代 エアコン 映画館や病院で使われ始める
~1952年 家庭用エアコン 2億5000万ドル
2000年代に放映されていたアメリカのファミリードラマ、実をいうとよく覚えていないのだがかろうじて覚えていることといえば、大きな一軒家、大家族、でかい食べ物、でかい犬、スケートボード、ショッピングモールでの買い物だ。デパート、スーパーマーケット、ショッピングモール、この3つは国土が広大で娯楽といえるものがあまり多くないアメリカ市民の娯楽生活にとっては非常に重要な役割を担っていた。1990年代の初めに、アメリカ人は平均して1か月に12時間をモールで過ごしていたという。これは睡眠、食事、就労、そしてテレビ干渉に次いで長い時間である。
初めてデパートが登場したのは1848年、それからアメリカで人気を博したわけだが、デパートの何が画期的だったのかというと、大規模な商業施設としては初めて誰でも買い物に行けたことだそうだ。当時はだれでも行ける(高級感あふれる)レジャー施設、娯楽施設というのが存在しなかった。会社勤めの秘書や事務員は、都会暮らしをしていても豪奢なホテルやレストランには一度も足を踏み入れられず、コンサートホールや歌劇場の中がどうなっているのかも知らなかった。しかしそんな人たちでもデパートに行けば、贅沢な気分を味わうことができた。
1846年デパート誕生
1872年農村部に暮らす人々に向けて通信販売
1859年アメリカ初の食糧店のチェーン店
1950年代ショッピングモールの建設が本格化
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アメリカ語ものがたり 2 単行本 – 1997/3/1
- 本の長さ402ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日1997/3/1
- ISBN-104309202780
- ISBN-13978-4309202785
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
セックス、食事から発明、宇宙まで、アメリカ生まれの言葉に見る「アメリカン・ライフ」のすべてや、身近なアメリカ文化の楽しい裏話を多数収載。アメリカ通になる楽しい歴史書。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (1997/3/1)
- 発売日 : 1997/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 402ページ
- ISBN-10 : 4309202780
- ISBN-13 : 978-4309202785
- Amazon 売れ筋ランキング: - 812,155位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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