～東京都国分寺市に現在も営業中の古道具屋のご主人が10年以上にわたって断続的に発行している、ガリ版新聞みたいな手紙みたいな『ニコニコ堂通信』という印刷物を抜粋してまとめた本。
内容は日記風だったり気になったお客さんの話だったり、生い立ちや経験談だったりする。
もとの『通信』はすべて手書きで作製されており、本書ではそれがそのまま紹介されて～～いるページと、あらたまって活字に起こしてあるページがあり、さらにはニコニコ堂で扱われた商品の写真などもふんだんにあって、ながめているだけでも楽しい。
古道具屋といってもニコニコ堂の場合は、骨董や美術品というよりは、B級というかフリーマーケット的というかガラクタ風というか、あんまり高価そうでないものもたくさん置いてあるようだ。うち捨て～～られたヌイグルミ、引き出しのないタンス、ひしゃげた紙製の模型、横に寝かせないと動かない置き時計、割れ目を貼り合わせた皿、コルクの部分を削り落とした瓶のふた。等々。
本書ではそうした古道具にまつわる愛情あふれた奇妙なエピソードが飄々とつづられる。屏風の中に亡くなった主人を見たというご婦人の話。五兆円の値打ちがあるという絵を持ってきた～～わりにはお金に困っているという謎の男。などなど、やや頭のネジがゆるんでいそうな人々の話が多い。よくもまあこれだけヘンなひとがいたものだと思うほどだ。
しかし、この本の非凡さ、絶妙なおもしろさは、もっと別のところにある。
ひとことで言うと店主の人柄の素晴らしさ。これに尽きる。ユル～い人格の味わいが『ニコニコ堂通信』の文章に滲み出して～～いて、一種独特、非凡なものになっているのだ。
部屋にシロアリが湧いてしまうエピソードがある。本人はかなりショックを受けてはいるのだろうが、文章はじつに淡々としていてユルい。「窓を開けてやると、一ぴきのこらず出て行ってくれたので、まあいいか」と思うくだりや、床がシロアリにやられてますます落ち窪んでしまい家具やテレビが斜めにかしいでし～～まっても、斜めのテレビは「ベッドに寝たまま見るのにちょうどよかった」とか言っていたり、読んでいるほうが呆れて、おいおい、とツッこみたくなるところばかり。しかしこのヌル～い人格の素晴らしさが、本書を格別おもしろいものにしているのだ。
のんきで、ぽかぽか。読んでいると日向ぼっこでもしているような気持ちになる。そうして元気になってくる。～～わたしはこれを落ち込んでいるときに読んでいたのだが、いつの間にか気持ちが立ち直っていた。そうして何とか生きて行けそうな気分になっていた。この効力はすごい。ひとえに作者の人格にたすけられたのだと思っている。～
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