本作品が出版されたのは2009年。1964年に最初の長篇が出て、かれこれ40年以上のキャリアにして数多くの小説をアン・タイラー発表してきた。その間、翻訳された作品はほとんど読んできました。
彼女のエッセイをはじめ原書を読む甲斐性の無い僕としては、本書の訳者である中野恵津子さんをはじめ翻訳者の皆様にはひたすら感謝するしかないんだけど、狂信的な愛読者がある本についてこれは私について書いた本だ!あるいは僕のために書かれた本に違いない!と妄想し作家に対して強い感情を抱く(『キャリー』とか)ことはよくある話で、僕としてはその気持ちは分からなくもない。
実際、本のそでによく掲載される著者のプロフィールに添えられた写真のアン・タイラー(可愛いおばちゃま)しか知らないのに、彼女が作品を通じて送り出してくれた多くの登場人物、そのキャラクターの織り成す世界に没入し彷徨い長く逍遥してきたものだから、彼女をとても他人とも思えない近しい人と思っている。現実のアン・タイラーは、母親と同世代のアメリカ人女性なんですが、同時に父でも祖父母でも弟、姉、妻でも娘、息子、孫でもまた友人、隣人でもあるんですよ。
さてさて本書の主人公は初老の男性。一応リタイア(実は体よくリストラされた)して自適悠々の一人暮らしを始めようと引越した新居(実際はダウンサイズの果てのアパート)の最初の晩に強盗に遭い、頭を殴られ一時的な記憶喪失に陥ってしまう。傷は浅くて何を盗まれたかも覚えていない?つまり衝撃的な夜の出来事以外は覚えていて、物語はその後、破天荒な展開を迎えるでもなく、いつものアン・タイラーの小説らしく主人公とその家族(奥さん、元奥さん、娘や孫たち、さらに不倫間際の記憶係の?女性)を巡って淡々と(表紙の前田ひさえさんの水彩画のように)進んで行きます。
犯人も登場しますよ、その母親が息子を庇うんですけど、犯罪という事実を前に言い訳にもなってなくて、でもこれもありかなってこの本の世界では思えるんですよね。アン・タイラーは善と悪を絶妙にブレンディングして人物造形する。中世道徳劇のエブリマンいやいや普通の人々が描かれている。誰も裁いていなし裁かれない。いいなあ、気持ちよく浸れますこの小説。
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ノアの羅針盤 単行本 – 2011/8/12
新生活の門出の夜、何者かに襲われた元教師が、家族や新しい恋人との葛藤を乗り越えて新たな人生の意味を見つけるまでを描く、家族の再生の物語。全米ベストセラー、ファン待望の新作。
- 本の長さ331ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2011/8/12
- ISBN-104309205704
- ISBN-13978-4309205700
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商品の説明
著者について
1941年米国生まれ。64年に長篇を発表。80年『ここがホームシック・レストラン』以後ベストセラー作家となる。ほかに、『アクシデンタル・ツーリスト』『もしかして聖人』など。ピューリツァー賞等受賞多数。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2011/8/12)
- 発売日 : 2011/8/12
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 331ページ
- ISBN-10 : 4309205704
- ISBN-13 : 978-4309205700
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,049,385位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 14,829位英米文学
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著者について
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トップレビュー
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2011年9月21日に日本でレビュー済み
私にとって初のアン・タイラー本。
「内容紹介」を読んだ時点ではあまり期待していなかったのですが、なぁんだ、すごくおもしろいじゃないですか、コレ!
最初は、この60歳の男性に感情移入できるとは思えなかったのに、彼をとりまく現代アメリカの縮図的状況が非常に興味深く、
「あるあるあるぅ〜」
「そうきたか〜」
とうなっているうちに物語は終盤へ。
人間ってやつはっ!
いくつになっても幼稚だったり、おセンチだったり・・・・
タイトルなどもあまり深く考えず、とにかくお手にとって読んでみてください。
とっても味わいのある佳作です。
「内容紹介」を読んだ時点ではあまり期待していなかったのですが、なぁんだ、すごくおもしろいじゃないですか、コレ!
最初は、この60歳の男性に感情移入できるとは思えなかったのに、彼をとりまく現代アメリカの縮図的状況が非常に興味深く、
「あるあるあるぅ〜」
「そうきたか〜」
とうなっているうちに物語は終盤へ。
人間ってやつはっ!
いくつになっても幼稚だったり、おセンチだったり・・・・
タイトルなどもあまり深く考えず、とにかくお手にとって読んでみてください。
とっても味わいのある佳作です。
2012年10月9日に日本でレビュー済み
60歳になり、すこぶる落ち目で、小さなアパートメントに引っ越したまさにその夜。
リーマスは強盗に襲われ、その時の記憶を奪われる。やや偏執狂気味にこだわるリーマスは、ふとしたことで知り合った著名人の「記憶係」ユーニスにひかれていく。しかし、ユーニスには驚くべき背景が。そこへからまる前妻、3人の娘たち。
「娘たちの成長の記憶はどこへいったんだ?オレは楽しんでいたのか?」と自問するリーマス。
自分は辛い記憶を忘れても、関わった人々は忘れてくれないーーという「真実」が胸に迫る。
アン・タイラーはもともと大好きな作家だが、これは特に夜中まで読みふけり、最後のほうは読み終えるのがもったいなかった。
中野恵津子氏の訳がいつにもまして素晴らしい。お互いに「けど」で終わる会話とか。その場に立ち会っているような、自分がしゃべっているような気持ちにさせられる。
ただ、YAを手がける自分としては、17歳のキティが幼く、13歳くらいに思えた。
長いエッセイ集もあるそうで、ぜひ読んでみたい。いつも思うのだが、語学力があって原書でも読めたらなあ。「え?」「おや」「ええ?」など、絶妙にちがいない。
リーマスは強盗に襲われ、その時の記憶を奪われる。やや偏執狂気味にこだわるリーマスは、ふとしたことで知り合った著名人の「記憶係」ユーニスにひかれていく。しかし、ユーニスには驚くべき背景が。そこへからまる前妻、3人の娘たち。
「娘たちの成長の記憶はどこへいったんだ?オレは楽しんでいたのか?」と自問するリーマス。
自分は辛い記憶を忘れても、関わった人々は忘れてくれないーーという「真実」が胸に迫る。
アン・タイラーはもともと大好きな作家だが、これは特に夜中まで読みふけり、最後のほうは読み終えるのがもったいなかった。
中野恵津子氏の訳がいつにもまして素晴らしい。お互いに「けど」で終わる会話とか。その場に立ち会っているような、自分がしゃべっているような気持ちにさせられる。
ただ、YAを手がける自分としては、17歳のキティが幼く、13歳くらいに思えた。
長いエッセイ集もあるそうで、ぜひ読んでみたい。いつも思うのだが、語学力があって原書でも読めたらなあ。「え?」「おや」「ええ?」など、絶妙にちがいない。