クンデラの文章は、反語と独特のメタファーに満ち省略が効いていて、ややもすれば注意して読んでもよく意味がとれないことすらある。西永氏の訳はさすがにこなれていて美しい日本語だ。
さて内容だが、クンデラお気に入りのドストエフスキーやセリーヌなどへの率直な賞賛や、南アメリカ文学への親近感はもちろんのこと、ここではマラパルテといったなじみの薄い文学にも丁寧に章をさいている。さらには、ヤナーチェクへの深い愛情や、ベートーヴェンのソナタの分析など音楽についてもその嗜好を語る。
書物全体を貫くのは、自身の亡命から現在にいたる歴史と過去を縫い合わせ、故郷チェコへの郷愁が垣間見られること、そして何よりも小説を中心に文学、ひいては芸術全体への信仰が熱く語られることだ。
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